日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

C会場

特別セッション » S22. 地震学における機械学習の可能性

[S22]AM-1

2019年9月18日(水) 09:15 〜 10:30 C会場 (総合研究8号館NSホール)

座長:内出 崇彦(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、久保 久彦(防災科学技術研究所)

09:15 〜 09:45

[S22-01] [招待講演]機械学習に基づくデータ駆動型異常検知
〜風力発電スマートメンテナンスの取り組み〜

*緒方 淳1 (1. 産業技術総合研究所 人工知能研究センター)

本講演では,機械学習に基づくデータ駆動型異常検知技術,さらにそれらの実用化(どのように実環境・実現場で利用していくか)について,風力発電スマートメンテナンスの取り組みを事例として紹介する.

風力発電機等の大型産業機械の故障停止は,産業・社会に大きな影響を与える.現状は,こうした機器の維持管理のために法令に準拠した定期メンテナンスが実施されることが多い.一方で,機器の劣化,損傷等の経年変化をより正確に,かつ早期に把握することができれば,機器の不具合による危険事象を回避できるだけでなく,機器の状態に応じた費用対効果の高いメンテナンスが可能となる.そこで,近年のセンシング技術や情報通信技術の発展に伴い,遠隔での状態監視システム(Condition Monitoring System; CMS)への期待が高まっている.我々は,CMSにおいて加速度ピックアップから得られる振動データを解析の対象として,信号処理と機械学習に基づくデータ駆動型アプローチにより,異常予兆を精度良く検出するシステムの構築に取り組んでいる.これまでに,NEDO事業「スマートメンテナンス技術研究開発(分析)」(2013~2017年度)において,国内の複数の事業者の協力により,全国27サイト,43基の風車にCMSを設置させていただき,そこで収集された加速度振動データを活用して異常検知の研究開発を行ってきた.センサは風車の主要要素である主軸部,増速機,発電機に対して合計10箇所設置されており,異常検知システムは,各主要要素の異常発生箇所を詳細に特定するために,振動データごとに個別に学習・構築を行っている(1風車につき10の異常検知システムが稼働).異常検知手法としては,正常稼働状態の振動データのみを学習・モデル化し,そこから乖離したときに異常と判断するアプローチ(外れ値検知)を適用している.本研究ではとくに,特徴量として時間・周波数領域の独自特徴量である「FLAC(フーリエ局所自己相関特徴量)」を導入することで,従来の振動分析法では困難であった主軸受や増速機低速部など低速回転の機器に対しても異常検知が十分可能となることを示した.以上の異常検知システムを実機風車の振動データに適用することで,部品交換意思決定の1~3ヶ月前での異常兆候検知を実現し,90%以上の異常予兆検出性能を達成できた.

一方,このようなデータ駆動型異常検知技術の実用化を進めるうえでは,システムの早期立ち上げ・運用が重要となる.例えば新しい監視対象機種やセンサを変更した場合など,一からデータを大量に蓄積して学習し直すのではなく,すでに他の環境で学習したモデル・結果を何らかの形で利用(転用)して,新たな環境で異常検知システムを効率的かつ早期に運用可能にできる技術が必要不可欠となる.このような枠組みは,機械学習では転移学習と呼ばれ,現在ホットな研究領域となっている.我々は現在NEDO事業「風車運用高度化技術研究開発」において,こうしたアプローチ(システム転用)を活用することで,あらゆる風車環境において異常検知の早期適用・運用を可能とする技術の研究開発を進めている.

前述の異常検知技術は異常予兆を早期に検知する能力としては有効であるといえるが,実際の風力発電事業の中で誰が,どのように利活用するか,その最良な利用形態を確立することが重要である.我々は,異常検知技術(AI技術)と風力事業者(風車運用現場)をつなぎ,日々の風車メンテナンスを支援するためのインタフェースの研究開発を行っている.具体的には,異常検知の実行結果を各実機風車・機器ごとに可視化することで,いつでも・どこでも風車の状態を把握・検証できるWebアプリケーション「WindCastle」の実装・公開を行っている.異常検知技術の基礎的研究だけでなく,こうしたインタフェースの応用的研究開発を同時に進めるもう一つの狙いは,異常検知システムを,最新の情報(最新データ,ユーザからのフィードバック等)を活用することで継続的に更新・高度化していくことにある.異常検知をはじめとする人工知能技術では,一般的にその検知性能は学習に利用するデータの量や質に大きく依存する.前述の異常検知システムは特定のデータセットによる実験において高い性能を示したものの,実機風車では自然環境・条件の変動ならびに運用状況の変化等,学習データ中にはない未知の特性・パターンに対していかに対処するかが大きな課題となる.すなわち,こうした「データからの学習」に基づく異常検知システムは,特定のデータセットで一度学習してそれを継続的に使い続ける,ではなく,実運用中においても性能を保つために,様々な変動に追従できるようシステムを逐次更新(実データによる再学習)していくことが重要となる.