14:00 〜 14:15
[S01-08] 海底地震観測による地震波ノイズを使ったグリーンランド氷河の流動速度の検出
1.はじめに
近年、地震波ノイズの励起に関して、地震波ノイズと海洋潮汐[Becker et al. (2020)]や風による気圧変化[Tanimoto and Wang (2021)]などとの関係が調べられている。Podolskiy et al. (2021)は、グリーンランド・ボードイン氷河直前の海底に海底地震計を設置して、地震波ノイズと氷河の流動速度を比較することによって、地震波ノイズパワーと流動速度の間に高い相関があることを発見した。このことから、地震波ノイズは氷河がすべる時に生じる微動であると考えられ、地震波ノイズの観測から氷河の流動速度を推定できることが示された。氷が陸上から海に流入すると海水準が上昇するので、海底地震観測によって氷河から海に流入する氷と融け水をモニタリングできれば、地球温暖化による海面上昇の解明に役立つことが期待される。一方、氷河の流動では基盤上を氷がすべる現象が重要であり、固体と固体の接触面での安定すべり実験と見なすこともできる。本研究では、Podolskiy et al. (2021)による観測結果をレビューし、氷河が流動する際に、どのようにして地震波が励起されるかについて地震学的に考察する。
2.観測と解析結果
グリーンランド北西部のボードイン氷河は、海洋に流れ込む氷河の1つである。Podolskiy et al. (2021)では、2019年7月21日~8月6日の期間に、ボードイン氷河の氷河末端から約640 m離れたフィヨルドの海底に海底地震計1台を設置して観測を行った。センサーには、固有周波数4.5Hzの3成分速度計を使用した。また、氷河と陸上にもGPS受信機と速度型地震計を設置した。解析では、地震計の記録から機器特性を除去し、power spectral density (PSD)を計算した。PSDはいくつかの周波数帯で積分し、各周波数帯域での時系列を作成した。PSD の時系列はばらつきが大きかったので、PSD の最小値をノイズレベルの最小値として、氷河上のGPSで観測された氷河の流動速度との比較を行った。氷河の流動速度は約1 m/dayの速さで、海洋潮汐の影響による約12時間周期の変動に加えて、融解水が氷河の底に供給される夕方に速くなる傾向がある。地震波ノイズパワーの時系列は、3.5 Hz~14.0 Hzの周波数帯で氷河の流動速度との間に相関が見られ、特に海底地震計では、氷河上で発生する氷の破壊や強風によるノイズの影響を抑えることができたため、高い相関があることが明らかになった。以上のことから、地震波ノイズは氷河がすべる時に生じる微動であると考えられる。
3.解釈
なぜ微動振幅と氷河の流動速度との間に相関が見られるのか、その原因について考察する。ボードイン氷河では、氷に縦孔を掘削して氷内部の変形を直接調べたところ変形量が小さいことが明らかになっており、氷河の流動速度と氷河底面のすべり速度はほぼ同じと仮定できる。Aki and Richards (2002)の式(4.32)によると、断層すべりによる変位場の遠地項は、地震モーメントの時間微分に比例する。地震モーメントは断層すべりに比例するので、変位場はすべり速度に比例する。観測では速度型地震計を使用しているので、観測された地震波の速度場はすべり加速度に比例することになる。ここで、3.5 Hz~14.0 Hzの周波数帯での微動は、同じ周波数帯でのすべり加速度によって励起されることになるが、GPSから得られた氷河の流動速度は15分間の平均値から計算されたもので、微動のような高周波成分のすべり速度やすべり加速度は検出できないことに注意する必要がある。したがって、以下では定性的に議論する。
氷河がすべる時に高周波の微動を励起するためには、氷河は滑らかに流動するのではなく、高周波の速度ゆらぎを伴いながら流動していると考えられる。そのような高周波の速度ゆらぎが、高周波のすべり加速度の原因となり、微動による速度場が励起される。その際、氷河の流動速度が速くなると、高周波の速度ゆらぎによるすべり加速度が大きくなるため、微動による速度場も振幅が増大してノイズレベルが上昇すると考えると、観測結果を説明することができる。氷河の底面には氷河堆積物が付着していて、その中に含まれる砕屑岩が氷河の流動によって引きずられて、基盤の硬い部分を通過する時に氷河の流動速度にゆらぎが生じて、すべり加速度が発生し、微動が励起される。氷河の流動速度が速くなると、氷河の底面の砕屑岩が基盤の硬い部分をより頻繁に通過するようになるので、氷河の流動速度のゆらぎが大きくなり、強いすべり加速度と微動が励起されるのかもしれない。
文献
Podolskiy et al., 2021, Nat. Commun., 12, doi:10.1038/s41467-021-24142-4.
近年、地震波ノイズの励起に関して、地震波ノイズと海洋潮汐[Becker et al. (2020)]や風による気圧変化[Tanimoto and Wang (2021)]などとの関係が調べられている。Podolskiy et al. (2021)は、グリーンランド・ボードイン氷河直前の海底に海底地震計を設置して、地震波ノイズと氷河の流動速度を比較することによって、地震波ノイズパワーと流動速度の間に高い相関があることを発見した。このことから、地震波ノイズは氷河がすべる時に生じる微動であると考えられ、地震波ノイズの観測から氷河の流動速度を推定できることが示された。氷が陸上から海に流入すると海水準が上昇するので、海底地震観測によって氷河から海に流入する氷と融け水をモニタリングできれば、地球温暖化による海面上昇の解明に役立つことが期待される。一方、氷河の流動では基盤上を氷がすべる現象が重要であり、固体と固体の接触面での安定すべり実験と見なすこともできる。本研究では、Podolskiy et al. (2021)による観測結果をレビューし、氷河が流動する際に、どのようにして地震波が励起されるかについて地震学的に考察する。
2.観測と解析結果
グリーンランド北西部のボードイン氷河は、海洋に流れ込む氷河の1つである。Podolskiy et al. (2021)では、2019年7月21日~8月6日の期間に、ボードイン氷河の氷河末端から約640 m離れたフィヨルドの海底に海底地震計1台を設置して観測を行った。センサーには、固有周波数4.5Hzの3成分速度計を使用した。また、氷河と陸上にもGPS受信機と速度型地震計を設置した。解析では、地震計の記録から機器特性を除去し、power spectral density (PSD)を計算した。PSDはいくつかの周波数帯で積分し、各周波数帯域での時系列を作成した。PSD の時系列はばらつきが大きかったので、PSD の最小値をノイズレベルの最小値として、氷河上のGPSで観測された氷河の流動速度との比較を行った。氷河の流動速度は約1 m/dayの速さで、海洋潮汐の影響による約12時間周期の変動に加えて、融解水が氷河の底に供給される夕方に速くなる傾向がある。地震波ノイズパワーの時系列は、3.5 Hz~14.0 Hzの周波数帯で氷河の流動速度との間に相関が見られ、特に海底地震計では、氷河上で発生する氷の破壊や強風によるノイズの影響を抑えることができたため、高い相関があることが明らかになった。以上のことから、地震波ノイズは氷河がすべる時に生じる微動であると考えられる。
3.解釈
なぜ微動振幅と氷河の流動速度との間に相関が見られるのか、その原因について考察する。ボードイン氷河では、氷に縦孔を掘削して氷内部の変形を直接調べたところ変形量が小さいことが明らかになっており、氷河の流動速度と氷河底面のすべり速度はほぼ同じと仮定できる。Aki and Richards (2002)の式(4.32)によると、断層すべりによる変位場の遠地項は、地震モーメントの時間微分に比例する。地震モーメントは断層すべりに比例するので、変位場はすべり速度に比例する。観測では速度型地震計を使用しているので、観測された地震波の速度場はすべり加速度に比例することになる。ここで、3.5 Hz~14.0 Hzの周波数帯での微動は、同じ周波数帯でのすべり加速度によって励起されることになるが、GPSから得られた氷河の流動速度は15分間の平均値から計算されたもので、微動のような高周波成分のすべり速度やすべり加速度は検出できないことに注意する必要がある。したがって、以下では定性的に議論する。
氷河がすべる時に高周波の微動を励起するためには、氷河は滑らかに流動するのではなく、高周波の速度ゆらぎを伴いながら流動していると考えられる。そのような高周波の速度ゆらぎが、高周波のすべり加速度の原因となり、微動による速度場が励起される。その際、氷河の流動速度が速くなると、高周波の速度ゆらぎによるすべり加速度が大きくなるため、微動による速度場も振幅が増大してノイズレベルが上昇すると考えると、観測結果を説明することができる。氷河の底面には氷河堆積物が付着していて、その中に含まれる砕屑岩が氷河の流動によって引きずられて、基盤の硬い部分を通過する時に氷河の流動速度にゆらぎが生じて、すべり加速度が発生し、微動が励起される。氷河の流動速度が速くなると、氷河の底面の砕屑岩が基盤の硬い部分をより頻繁に通過するようになるので、氷河の流動速度のゆらぎが大きくなり、強いすべり加速度と微動が励起されるのかもしれない。
文献
Podolskiy et al., 2021, Nat. Commun., 12, doi:10.1038/s41467-021-24142-4.