3:30 PM - 5:00 PM
[S03P-02] Details on crustal deformation and gravity-inferred density structures at the terminus of fault rupture for the 2016 Kumamoto earthquake
1.はじめに
本研究の目的は,断層破壊の終端部及びその周辺に特徴的な地殻構造が存在するかを調べ,断層破壊の終焉を制御する要因について議論することにある.この目的のために,本研究では,2016年熊本地震を対象に,SARによる地殻変動から推定される断層運動の詳細と重力によって推定される地殻構造との間の空間的関係を調査した.
2.データと解析
まず初めに,ALOS-2衛星のSARデータを用いたInSAR解析を行い,断層付近を含む震源域の地殻変動を取得した.本研究では,標準的なInSAR法に加えて,レンジ及びアジマス成分の周波数を帯域分割して干渉処理する手法(SBI法)も適用した.アジマス成分に関する処理はMAI法として知られているが,本手法を適用することにより,標準的なInSARでは大きな変位勾配のために干渉性が低くなる震源域近傍においても,空間的に詳細な変位を取得できた.標準的なInSARでは変位計測できなかった領域にSBI法で得られた変位を補間することで,震源領域全体における完全な変動場を獲得できた.さらに,複数の軌道データから得られた変動データを用い,最小二乗法により上下,東西,南北3成分の地殻変動を得た. 続けて,重力データを用いた地殻構造の推定を行った.解析には,後述する布田川断層の破壊終端部周辺を中心にキャンペーン重力観測(60点)を行い,これらデータと既存の重力データを用いたインバージョン解析により地下の密度構造を推定した.地球の質量構造に起因しない重力の影響を除去し,ブーゲ補正や地形補正等を施して地球の内部不均質構造を反映する完全ブーゲ重力異常を得た後,重力インバージョン解析によって地下の密度不均質構造を推定した.密度不均質構造は,平行六面体の質量塊の引力を応答関数とし,密度コントラストを推定パラメータとする重み付き最小二乗法により3次元的に推定した.解析では,初期値として与える密度を様々なパターンで計算することで,初期値依存性を把握・考慮しながら,信頼性の高い解を得るようにした.
3.結果
地殻変動の解析から,断層運動起因と推定される変位境界が,布田川断層の東部延長上に伸展して,阿蘇カルデラ西縁部で主に2方向に分岐していることが認められた(図1a).1つは布田川断層の東部延長上に右横ずれを伴いながら南東側の地盤が沈降する変動を,もう1つはほぼ東西方向に左横ずれを伴いながら北側の地盤が沈降する変動を示している.これらの変位境界・急変帯は比較的広範囲に広がり,かつ直線的に分布することから断層運動起因であることが強く示唆される. 一方,重力データから推定された密度構造の結果は,阿蘇カルデラの中心部に比較的広い低密度領域が分布していることを示す.さらに西側に注目すると,その低密度領域から舌状に延びるように,阿蘇カルデラ西部の浅い部分(深さ約1〜2km)にくさび形の低密度体が存在することが分かった(図1b).注目すべきは,SARによって推定された分岐断層が,その局所的な低密度体の側面およびその西部延長上に沿って位置しており,地殻変動の終端部はその低密度体とほぼ重なっていることである.低密度領域の実体については今後さらに検討する必要があるが,断層面を構成する何かしらの物理境界を示している可能性がある.
謝辞: 本報告で使用したALOS-2データの所有権は,JAXAにあります.これらのデータは,国土地理院とJAXAの間の協定及び地震予知連絡会SAR解析ワーキンググループの活動に基づいて,JAXAから提供されたものです.本研究はJSPS科研費JP18K03810の助成を受けたものです.
本研究の目的は,断層破壊の終端部及びその周辺に特徴的な地殻構造が存在するかを調べ,断層破壊の終焉を制御する要因について議論することにある.この目的のために,本研究では,2016年熊本地震を対象に,SARによる地殻変動から推定される断層運動の詳細と重力によって推定される地殻構造との間の空間的関係を調査した.
2.データと解析
まず初めに,ALOS-2衛星のSARデータを用いたInSAR解析を行い,断層付近を含む震源域の地殻変動を取得した.本研究では,標準的なInSAR法に加えて,レンジ及びアジマス成分の周波数を帯域分割して干渉処理する手法(SBI法)も適用した.アジマス成分に関する処理はMAI法として知られているが,本手法を適用することにより,標準的なInSARでは大きな変位勾配のために干渉性が低くなる震源域近傍においても,空間的に詳細な変位を取得できた.標準的なInSARでは変位計測できなかった領域にSBI法で得られた変位を補間することで,震源領域全体における完全な変動場を獲得できた.さらに,複数の軌道データから得られた変動データを用い,最小二乗法により上下,東西,南北3成分の地殻変動を得た. 続けて,重力データを用いた地殻構造の推定を行った.解析には,後述する布田川断層の破壊終端部周辺を中心にキャンペーン重力観測(60点)を行い,これらデータと既存の重力データを用いたインバージョン解析により地下の密度構造を推定した.地球の質量構造に起因しない重力の影響を除去し,ブーゲ補正や地形補正等を施して地球の内部不均質構造を反映する完全ブーゲ重力異常を得た後,重力インバージョン解析によって地下の密度不均質構造を推定した.密度不均質構造は,平行六面体の質量塊の引力を応答関数とし,密度コントラストを推定パラメータとする重み付き最小二乗法により3次元的に推定した.解析では,初期値として与える密度を様々なパターンで計算することで,初期値依存性を把握・考慮しながら,信頼性の高い解を得るようにした.
3.結果
地殻変動の解析から,断層運動起因と推定される変位境界が,布田川断層の東部延長上に伸展して,阿蘇カルデラ西縁部で主に2方向に分岐していることが認められた(図1a).1つは布田川断層の東部延長上に右横ずれを伴いながら南東側の地盤が沈降する変動を,もう1つはほぼ東西方向に左横ずれを伴いながら北側の地盤が沈降する変動を示している.これらの変位境界・急変帯は比較的広範囲に広がり,かつ直線的に分布することから断層運動起因であることが強く示唆される. 一方,重力データから推定された密度構造の結果は,阿蘇カルデラの中心部に比較的広い低密度領域が分布していることを示す.さらに西側に注目すると,その低密度領域から舌状に延びるように,阿蘇カルデラ西部の浅い部分(深さ約1〜2km)にくさび形の低密度体が存在することが分かった(図1b).注目すべきは,SARによって推定された分岐断層が,その局所的な低密度体の側面およびその西部延長上に沿って位置しており,地殻変動の終端部はその低密度体とほぼ重なっていることである.低密度領域の実体については今後さらに検討する必要があるが,断層面を構成する何かしらの物理境界を示している可能性がある.
謝辞: 本報告で使用したALOS-2データの所有権は,JAXAにあります.これらのデータは,国土地理院とJAXAの間の協定及び地震予知連絡会SAR解析ワーキンググループの活動に基づいて,JAXAから提供されたものです.本研究はJSPS科研費JP18K03810の助成を受けたものです.