3:30 PM - 5:00 PM
[S04P-01] Relationship between tectonic tremors and 3D distributions of thermal structure and dehydration in the Alaska subduction zone
1. はじめに
アラスカ沈み込み帯では、1964年アラスカ地震(Mw9.2)に代表される海溝型巨大地震や、スロースリップイベント・深部低周波微動などのスロー地震がプレート境界付近で発生している。この地域では、北米プレートの下に太平洋プレートが沈み込んでいる。その東端では、ヤクタットテレーンと呼ばれる海台が存在し、沈み込んでいることが近年の研究で明らかになってきた。ヤクタットテレーンは、太平洋プレートとはテクトニックセッティングが大きく異なり、堆積層や海洋地殻がそれぞれ6㎞、25㎞と非常に厚く、深部低周波微動が発生し(Wech, 2016)、その直上には火山が存在していない、といった特徴がある。岩本他 (2021, JpGU)ではヤクタットテレーンと太平洋プレートの同時沈み込みに伴う3次元熱対流数値モデルを用いて、1964年アラスカ地震の震源域と長期的スロースリップイベントの発生域の温度範囲を定量的に推定した。
本講演では、岩本他 (2021, JpGU)で得られた3次元温度構造と含水鉱物の相図を用いて、スラブ上面付近の含水量分布を求め、アラスカ沈み込み帯で発生する深部低周波微動の発生との関連性について議論する。
2. モデル設定
本数値シミュレーションでは、岩本他 (2021, JpGU)に従い、Mathews et al. (2016)のプレート回転モデルを用いてプレートの沈み込み史を考慮し、沈み込み速度を与えた。さらに、新たに、太平洋プレートとヤクタットテレーンで、堆積層や海洋地殻の厚さを区別して与え、18Maから現在までの温度場・流れ場の時間発展問題を差分法を用いて解いた。水平面内において沈み込み方向にx軸を、海溝軸に沿ってヤクタットテレーン側から太平洋プレート側に向かってy軸を、鉛直下向きにz軸をとり、それぞれ、モデルサイズは600 km, 700 km, 200 km、グリッド間隔は8.6 km, 10 km, 3.3 kmとした。流れの境界条件は、+x, -x, +y, -y, +zの境界面では流れは透過条件とし、-zの境界面(モデル表面)では流れはないものとした。温度の境界条件は、+x, +y, -y, +zの境界面では断熱条件を与え、-xの境界面の温度はプレート冷却モデル(Grose, 2012)を用い、各タイムステップで深さの関数として温度分布を与えた。-zの境界面の温度は0℃と仮定した。数値シミュレーションで得られた現在(0Ma)の温度場は、キュリー点深度分布や地殻熱流量の観測データと比較し、観測値と計算値の残差が小さくなるようなモデルを構築した。含水量分布の計算には、海洋堆積物はvan Keken et al. (2011)のタービダイトの相図を、海洋地殻とスラブマントルは、それぞれTatsumi et al. (2020)のMORBと超苦鉄質岩の相図を用いた。
3. 結果と考察
最終的に得られた0Maでの数値シミュレーション結果から、海溝側では沈み込み角が小さく、浅く平らなスラブ形状が続いているため、その上面付近の温度場に関しては、太平洋側に比べヤクタットテレーン側では低温の領域が内陸部まで広がる傾向がみられた。また、内陸側ではプレートの沈み込み角が急激に大きくなるため温度勾配が大きくなった。本数値シミュレーションで得られた温度-深さの関係と、海洋堆積物や海洋地殻中に含まれる前述の含水鉱物の相図を用いてスラブ上面付近の含水量分布と、沈み込み方向の単位距離当たりの脱水勾配を求めた。
その結果、現時点での暫定的な結果として、スラブ上面の深部低周波微動の発生域付近において、海洋堆積物中(スラブ上面から0~6 km)ではphengite lawsonite blueschist相からamphibole phengite zoisite eclogite相への脱水分解反応により約0.05wt%/kmの脱水勾配が、海洋地殻中(スラブ上面から6~31km)ではblueschist相からamphibole eclogite相への脱水分解反応により約0.10wt%/kmの脱水勾配が見られた。以上のことより、これらの脱水のうち、いずれか、または両者が深部低周波微動の発生に関与している可能性があることが示唆される。また、太平洋プレート側で深部低周波微動が発生していない理由として、太平洋プレートでは、ヤクタットテレーンに比べて、海洋堆積物や海洋地殻の厚さが薄いため、これらの層に含まれるスラブ内の含水量の総量が少ないことや、脱水分解反応が起こったとしても深部の高温の塑性領域での脱水となるため、深部低周波微動が起こりえないといった可能性が考えられる。
アラスカ沈み込み帯では、1964年アラスカ地震(Mw9.2)に代表される海溝型巨大地震や、スロースリップイベント・深部低周波微動などのスロー地震がプレート境界付近で発生している。この地域では、北米プレートの下に太平洋プレートが沈み込んでいる。その東端では、ヤクタットテレーンと呼ばれる海台が存在し、沈み込んでいることが近年の研究で明らかになってきた。ヤクタットテレーンは、太平洋プレートとはテクトニックセッティングが大きく異なり、堆積層や海洋地殻がそれぞれ6㎞、25㎞と非常に厚く、深部低周波微動が発生し(Wech, 2016)、その直上には火山が存在していない、といった特徴がある。岩本他 (2021, JpGU)ではヤクタットテレーンと太平洋プレートの同時沈み込みに伴う3次元熱対流数値モデルを用いて、1964年アラスカ地震の震源域と長期的スロースリップイベントの発生域の温度範囲を定量的に推定した。
本講演では、岩本他 (2021, JpGU)で得られた3次元温度構造と含水鉱物の相図を用いて、スラブ上面付近の含水量分布を求め、アラスカ沈み込み帯で発生する深部低周波微動の発生との関連性について議論する。
2. モデル設定
本数値シミュレーションでは、岩本他 (2021, JpGU)に従い、Mathews et al. (2016)のプレート回転モデルを用いてプレートの沈み込み史を考慮し、沈み込み速度を与えた。さらに、新たに、太平洋プレートとヤクタットテレーンで、堆積層や海洋地殻の厚さを区別して与え、18Maから現在までの温度場・流れ場の時間発展問題を差分法を用いて解いた。水平面内において沈み込み方向にx軸を、海溝軸に沿ってヤクタットテレーン側から太平洋プレート側に向かってy軸を、鉛直下向きにz軸をとり、それぞれ、モデルサイズは600 km, 700 km, 200 km、グリッド間隔は8.6 km, 10 km, 3.3 kmとした。流れの境界条件は、+x, -x, +y, -y, +zの境界面では流れは透過条件とし、-zの境界面(モデル表面)では流れはないものとした。温度の境界条件は、+x, +y, -y, +zの境界面では断熱条件を与え、-xの境界面の温度はプレート冷却モデル(Grose, 2012)を用い、各タイムステップで深さの関数として温度分布を与えた。-zの境界面の温度は0℃と仮定した。数値シミュレーションで得られた現在(0Ma)の温度場は、キュリー点深度分布や地殻熱流量の観測データと比較し、観測値と計算値の残差が小さくなるようなモデルを構築した。含水量分布の計算には、海洋堆積物はvan Keken et al. (2011)のタービダイトの相図を、海洋地殻とスラブマントルは、それぞれTatsumi et al. (2020)のMORBと超苦鉄質岩の相図を用いた。
3. 結果と考察
最終的に得られた0Maでの数値シミュレーション結果から、海溝側では沈み込み角が小さく、浅く平らなスラブ形状が続いているため、その上面付近の温度場に関しては、太平洋側に比べヤクタットテレーン側では低温の領域が内陸部まで広がる傾向がみられた。また、内陸側ではプレートの沈み込み角が急激に大きくなるため温度勾配が大きくなった。本数値シミュレーションで得られた温度-深さの関係と、海洋堆積物や海洋地殻中に含まれる前述の含水鉱物の相図を用いてスラブ上面付近の含水量分布と、沈み込み方向の単位距離当たりの脱水勾配を求めた。
その結果、現時点での暫定的な結果として、スラブ上面の深部低周波微動の発生域付近において、海洋堆積物中(スラブ上面から0~6 km)ではphengite lawsonite blueschist相からamphibole phengite zoisite eclogite相への脱水分解反応により約0.05wt%/kmの脱水勾配が、海洋地殻中(スラブ上面から6~31km)ではblueschist相からamphibole eclogite相への脱水分解反応により約0.10wt%/kmの脱水勾配が見られた。以上のことより、これらの脱水のうち、いずれか、または両者が深部低周波微動の発生に関与している可能性があることが示唆される。また、太平洋プレート側で深部低周波微動が発生していない理由として、太平洋プレートでは、ヤクタットテレーンに比べて、海洋堆積物や海洋地殻の厚さが薄いため、これらの層に含まれるスラブ内の含水量の総量が少ないことや、脱水分解反応が起こったとしても深部の高温の塑性領域での脱水となるため、深部低周波微動が起こりえないといった可能性が考えられる。