10:15 AM - 10:30 AM
[S06-06] Improved configuration of subducting Philippine Sea Plate from the Suruga Trough beneath the Tokai region, central Japan
1. はじめに
駿河トラフから沈み込むフィリピン海プレートとユーラシアプレートとの境界では、海溝型巨大地震が繰り返し発生してきた。巨大地震に伴う強震動予測やプレート間での固着状況を解明するためには、沈み込むフィリピン海プレートの高精度な形状を明らかにしていく必要がある。本研究では、防災科学技術研究所(防災科研)の高感度地震観測網(Hi-net)や気象庁、大学等の定常観測網に加えて海底の臨時観測点で得られたデータを合わせて解析した地震波トモグラフィーの結果や、微小地震の震源分布、低角逆断層型の地震の分布等を考慮して、フィリピン海プレート上面の形状を推定するとともにレシーバー関数解析も行い、その結果と比較した。
2. データ・手法
解析領域は駿河湾や東海地域を覆う東経136°-139°および北緯34°-36°である。陸域の定常観測網のデータと東海大学や気象研究所等により駿河湾内に設置された臨時海底地震計のデータを合わせて用いた。陸域定常観測網では2000年10月から2017年12月まで97,369個の地震を捉えていた。その中から、水平0.01°(約1km)四方、深さ1kmの領域から読取数最大の地震を1個ずつ、36,632個の地震を解析に用いた。2018年1~8月に行われた海底観測点のデータから得られた、定常観測網ではトリガーされない228個の微小地震を解析に用いた。海底地震計により捉えられた地震については定常観測網の連続データから切り出したデータと合わせて再読取りを行った。さらに、陸域で実施された4発の人工地震探査からの到達時刻データも用いた。36,632個の地震からの1,573,094個のP波、1,532,330個のS波、4発の人工地震探査からの92個のP波、228個の地震からの3,958個のP波、4,809個のS波の到達時刻データを解析に用いた。
地震波速度構造解析には、Zhao et al. (1992)の手法にスムージングや観測点補正値を導入した地震波トモグラフィー法(Matsubara et al., 2004; 2005)を用いた。水平方向に0.05°(約5km)間隔、深さ方向に2.5~30km間隔で三次元的にグリッドを配置した。初期速度構造は防災科研Hi-netにおける震源決定に用いられている一次元速度構造(鵜川・他, 1984)を用いた。
レシーバー関数解析は、速度不連続面の検出に有効な手法である。116個の地震を解析に用いた。観測機器の方向補正を行い(汐見, 2013)、周波数領域でのレシーバー関数解析を行った(Park and Levin, 2000)。時間領域における深さ変換には、本解析で得られた三次元地震波速度構造を用いた。
3. 結果と議論
日本全体の解析では、水平方向の分解能は0.2°であるが(Matsubara et al., 2019)、チェッカーボードテストの結果、多くの観測点が存在し多くの地震が発生する東海地域では水平方向に0.1°の分解能があることが分かった。海域の臨時観測点のデータを活用したことにより、海域下の深さ5kmや10kmの浅い領域の解像度が向上した。
水平断面図を見ると深さ10kmや20kmでは中央構造線の北側の高速度域と南側の低速度域が明瞭にイメージングされた。西南日本では中央構造線は緩やかな北傾斜であるが、東海地域では急傾斜となっている。これは、伊豆弧衝突帯でのフィリピン海プレートの浮揚性沈み込みにより上盤側のユーラシアプレートの隆起運動を伴う短縮変形により生じたものである。Kano et al. (1990)では水平回転が議論されたが、本解析ではフィリピン海プレートの衝突による上盤のユーラシアプレートの三次元的な変形がイメージングされた。
鉛直断面図では、沈み込むフィリピン海プレートの低速度かつ高Vp/Vsな海洋地殻と低Vp/Vsな海洋マントルがイメージングされた。この海洋地殻の結果や微小地震の震源分布、プレート境界で発生していると考えられる低角逆断層型の地震の分布からフィリピン海プレート上面境界を構築した。この形状はレシーバー関数法による結果と調和的であった。駿河トラフから沈み込むフィリピン海プレートは深さ20km程度までが既往のモデルより沈み込む角度が緩やかになり、上面の深さは6-10km程度浅くなった。特に深さ10kmの等深線の位置は5~10km程度西側になった。また、深さ10kmや20kmの等深線の位置は静岡県三保半島から山梨県にかけての陸域下では5~20km程度西になった。定常観測点と臨時海底地震計を組み合わせることにより、プレート境界を交差する波線を用いた解析ができるようになり、浅い沈み込み帯の形状が明らかになった。
Matsubara, M., Shiomi, K., Baba, H., Sato, H., & Nishimiya T. (2021). Improved geometry of the subducting Philippine Sea plate beneath the Suruga Trough. Global and Planetary Change, 204, 2021, 103562, https://doi.org/10.1016/j.gloplacha.2021.103562
駿河トラフから沈み込むフィリピン海プレートとユーラシアプレートとの境界では、海溝型巨大地震が繰り返し発生してきた。巨大地震に伴う強震動予測やプレート間での固着状況を解明するためには、沈み込むフィリピン海プレートの高精度な形状を明らかにしていく必要がある。本研究では、防災科学技術研究所(防災科研)の高感度地震観測網(Hi-net)や気象庁、大学等の定常観測網に加えて海底の臨時観測点で得られたデータを合わせて解析した地震波トモグラフィーの結果や、微小地震の震源分布、低角逆断層型の地震の分布等を考慮して、フィリピン海プレート上面の形状を推定するとともにレシーバー関数解析も行い、その結果と比較した。
2. データ・手法
解析領域は駿河湾や東海地域を覆う東経136°-139°および北緯34°-36°である。陸域の定常観測網のデータと東海大学や気象研究所等により駿河湾内に設置された臨時海底地震計のデータを合わせて用いた。陸域定常観測網では2000年10月から2017年12月まで97,369個の地震を捉えていた。その中から、水平0.01°(約1km)四方、深さ1kmの領域から読取数最大の地震を1個ずつ、36,632個の地震を解析に用いた。2018年1~8月に行われた海底観測点のデータから得られた、定常観測網ではトリガーされない228個の微小地震を解析に用いた。海底地震計により捉えられた地震については定常観測網の連続データから切り出したデータと合わせて再読取りを行った。さらに、陸域で実施された4発の人工地震探査からの到達時刻データも用いた。36,632個の地震からの1,573,094個のP波、1,532,330個のS波、4発の人工地震探査からの92個のP波、228個の地震からの3,958個のP波、4,809個のS波の到達時刻データを解析に用いた。
地震波速度構造解析には、Zhao et al. (1992)の手法にスムージングや観測点補正値を導入した地震波トモグラフィー法(Matsubara et al., 2004; 2005)を用いた。水平方向に0.05°(約5km)間隔、深さ方向に2.5~30km間隔で三次元的にグリッドを配置した。初期速度構造は防災科研Hi-netにおける震源決定に用いられている一次元速度構造(鵜川・他, 1984)を用いた。
レシーバー関数解析は、速度不連続面の検出に有効な手法である。116個の地震を解析に用いた。観測機器の方向補正を行い(汐見, 2013)、周波数領域でのレシーバー関数解析を行った(Park and Levin, 2000)。時間領域における深さ変換には、本解析で得られた三次元地震波速度構造を用いた。
3. 結果と議論
日本全体の解析では、水平方向の分解能は0.2°であるが(Matsubara et al., 2019)、チェッカーボードテストの結果、多くの観測点が存在し多くの地震が発生する東海地域では水平方向に0.1°の分解能があることが分かった。海域の臨時観測点のデータを活用したことにより、海域下の深さ5kmや10kmの浅い領域の解像度が向上した。
水平断面図を見ると深さ10kmや20kmでは中央構造線の北側の高速度域と南側の低速度域が明瞭にイメージングされた。西南日本では中央構造線は緩やかな北傾斜であるが、東海地域では急傾斜となっている。これは、伊豆弧衝突帯でのフィリピン海プレートの浮揚性沈み込みにより上盤側のユーラシアプレートの隆起運動を伴う短縮変形により生じたものである。Kano et al. (1990)では水平回転が議論されたが、本解析ではフィリピン海プレートの衝突による上盤のユーラシアプレートの三次元的な変形がイメージングされた。
鉛直断面図では、沈み込むフィリピン海プレートの低速度かつ高Vp/Vsな海洋地殻と低Vp/Vsな海洋マントルがイメージングされた。この海洋地殻の結果や微小地震の震源分布、プレート境界で発生していると考えられる低角逆断層型の地震の分布からフィリピン海プレート上面境界を構築した。この形状はレシーバー関数法による結果と調和的であった。駿河トラフから沈み込むフィリピン海プレートは深さ20km程度までが既往のモデルより沈み込む角度が緩やかになり、上面の深さは6-10km程度浅くなった。特に深さ10kmの等深線の位置は5~10km程度西側になった。また、深さ10kmや20kmの等深線の位置は静岡県三保半島から山梨県にかけての陸域下では5~20km程度西になった。定常観測点と臨時海底地震計を組み合わせることにより、プレート境界を交差する波線を用いた解析ができるようになり、浅い沈み込み帯の形状が明らかになった。
Matsubara, M., Shiomi, K., Baba, H., Sato, H., & Nishimiya T. (2021). Improved geometry of the subducting Philippine Sea plate beneath the Suruga Trough. Global and Planetary Change, 204, 2021, 103562, https://doi.org/10.1016/j.gloplacha.2021.103562