日本地震学会2021年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(1日目)

一般セッション » S06. 地殻構造

P

2021年10月14日(木) 15:30 〜 17:00 P2会場 (P会場)

15:30 〜 17:00

[S06P-07] 地震波到来方向の偏りが傾斜する地震波速度不連続面の推定に与える影響

〇汐見 勝彦1 (1.防災科学技術研究所)

【はじめに】
地下の地震波速度不連続面を検出する手法として、レシーバ関数 (RF) 解析法が広く活用されてきた。沈み込むプレート等、検出対象となる速度不連続面が傾斜している場合では、地震波の到来方向によってtransverse成分にも関連する変換波が記録される。Shiomi & Park (2008; JGR)によるグリッドサーチやBianchi et al. (2010; JGR)によるharmonic decomposition解析は、いずれもradialおよびtransverse両成分のRFの地震波到来好方向依存性に着眼し、観測点下の速度不連続面の傾斜方向や傾斜角、異方性構造の特徴を推定するための解析方法である。これらの解析方法は、RFの推定に用いる遠地地震記録が、全ての方位から均質に到来することで、安定した推定結果を得ることが可能になる。一方、日本列島を対象としたRF解析を行う場合、通常の解析に用いられる遠地地震は南東から南南西方向 (オセアニア~東南アジア) で発生するものが圧倒的に多く、逆に北東から東方向や北西方向から到来する遠地地震波形は皆無である。今回、日本のように地震波の到来方向に強い偏りがある場合に、上記の解析方法でどの程度安定した推定結果が得られるのかを改めて確認するため、簡単な構造を用いた理論波形を合成し、検証を行った。

【計算方法】
理論波形の合成にはRAYSUM (Frederiksen & Bostock, 2000; GJI) を用いた。今回は、傾斜する地震波速度不連続面推定において、一定の方位からの地震波が欠落している場合の影響を調査することを目的とした。そのため、モデルは下部地殻と最上部マントルに相当する単純な2層構造とし、その境界面に傾斜を与えた。傾斜方向 (strike) は0°から345°まで15°おきに、傾斜角 (dip) は5°から45°まで5°ごとに変化させた。地震波の到来方向は0°から355°まで5°ごとに設定し、全ての方位から地震波が到来する事例 (ケース1) と、実際の観測結果同様、東方向に相当するN60°EからN115°Eおよび北西方向に相当するN320°EからN345°Eのデータを除外した事例 (ケース2) の2例を設定した。モデル下部への入射角は約25°に固定した。なお、理論波形にノイズ(雑微動)は加算していない。

【結果・議論】
まず、得られたRFにharmonic decomposition解析を適用し、境界面の傾斜方向を推定した。ノイズを加算していないこともあり、全方位から地震波が到来するケース1では、設定した方位と寸分違わぬ結果が得られ、計算方法が妥当であることの確認が取れた。また、一部の方位の地震波を除外したケース2でも、全てのstrike / dipのモデルにおいて推定値と設定値の差分は2°未満であった。結果を詳細に確認すると、境界面が南西から西方に傾斜する事例、すなわち境界面が浅くなる方向のデータが欠落している場合に設定値からの差分がやや大きくなる傾向が見えた。次に、グリッドサーチにより、境界面のdipを推定した。この場合、ケース1でも3°程度の差分が生じるとともに、設定したdipが30°を超えるあたりから、推定するdipの頭打ちが生じた。前者は変換波のパルス幅の取り方、後者はモデル下部への入射角よりも大きなdipを設定したことに起因すると考えられる。なお、元来、RF解析では急な傾斜角を持つ不連続面や大きな入射角の地震波の使用は想定されていない (e.g., Ammon, 1991; BSSA)。一方、この方法をケース2に適用すると、多くのモデルでは、設定値と推定値の差分は5°以下であったが、設定したdipが20°以下、かつ面が南西から西方に傾斜するモデルで推定値が設定値と10°~35°異なる事例を確認した。以上の結果から、現状、傾斜方向はある程度の確度で推定可能であるが、傾斜角は10°程度の推定誤差を有すること、特に日本の場合では、西方に緩く傾斜する不連続面の傾斜角の推定は困難であることが分かった。汐見 (2020; SSJ FM) は、harmonic decomposition解析により、四国東部下の海洋モホ面が、従来のRF断面図やトモグラフィ解析からは見いだせなかった凹凸がある可能性を示した。今後は、より安定した傾斜角の推定方法を検討するとともに、四国の各観測点下の海洋モホ面の傾斜角の推定を実施し、より詳細なフィリピン海プレートモデル構築につなげる予定である。