11:00 〜 11:15
[S08-07] 南海トラフの力学的固着:プレート境界地震の連鎖的な発生と余効すべり
(はじめに) 運動を予測するためには,運動を引きおこす原動力やエネルギーを定量化することが重要である.プレート間巨大地震を引きおこす原因は,プレート間の固着によって蓄積する歪みエネルギーである (e.g., Savage 1969; Noda et al. 2021 JGR).衛星測位データ解析によってすべり遅れ分布を推定し,それをもとに将来起こりうる巨大地震の規模や場所が予測されている (e.g., Watanabe et al. 2018; Baranes et al. 2018).しかし,すべり遅れ域と力学的な固着域は同一ではない (e.g. Wang and Dixson 2004; Noda et al. 2018 JGR).力学的に固着している箇所では,大きな摩擦力によって地震間に応力が増大し,歪みエネルギー蓄積の根本原因となる.一方,力学的固着が無い箇所でも,隣接した固着域によってすべり遅れが生じる (e.g., Herman et al. 2018).このような領域では地震間の応力増加が無くても,地震時には隣接する固着の破壊のためにすべりを引き起こす.例えば,東北地震では宮城沖海溝付近は,応力降下がほとんど無いにもかかわらず,隣接深部に位置する力学的固着の破壊によって大すべりが起こっている(久保田・齊藤 本大会).巨大地震の連動や半割れ破壊後の推移予測を行うために,地震を引き起こす原因となる力学的固着分布が重要である.本研究では,力学的固着の推定法を提案し,南海トラフの固着分布を推定する.さらに,結果をもとに想定しうる連鎖的な巨大地震発生と余効すべりのシナリオ例を示す.
(解析手法) プレート間の剪断応力の蓄積速度が大きい箇所が,力学的に固着している箇所と考えられる.剪断応力として,プレート沈み込みによるslip方向の向きのtractionの成分を考え,以下の手順によって,プレート間剪断応力速度分布をGNSSデータ逆解析で推定する.プレート間剪断応力分布を水平拡がり60km程度の大きさの基底関数を約250個使って表現する.各基底関数による地表変形速度応答を次のように計算する.半無限均質媒質を仮定し,南海トラフプレート境界を大きさ一辺10km程度の三角要素5400個程度を使って表し,それぞれの三角要素のすべり速度に対するそれぞれの三角要素における剪断応力速度応答を計算する.このデータセットを使うことで,剪断応力速度基底関数に対応するすべり速度分布を逆問題によって得ることができる.そして,地表変位速度をすべり速度分布から計算する.この手順で剪断応力速度の基底関数による地表変形速度応答を得る.地表変形速度応答を使い,GNSSデータの逆解析から,プレート間剪断応力速度分布を推定した.
(力学的固着と連動破壊シナリオ) プレート境界深さ~25kmより浅い箇所に4箇所(室戸沖,紀伊半島沖,熊野灘沖,東海沖)に顕著な力学的固着域を推定した.それぞれ,年間10kPa程度で剪断応力が蓄積されていく.特に,室戸沖の固着領域は広く,剪断応力蓄積速度が大きい.仮に,応力蓄積期間が100年ならば,これら固着域に1MPa程度の応力が蓄積する.固着域が破壊すれば,1MPa程度の応力降下をもつ巨大地震を引き起こす.一方,プレート境界深部や力学的固着が弱い箇所では,余効すべりが発生する可能性がある. 得られた固着分布から想定しうる破壊シナリオのうち,複数のプレート境界地震が連鎖的に発生する可能性を紹介する.まず,紀伊半島沖の固着が破壊することで,Mw 8程度の前震が発生する.この地震によって周囲の応力が増加する.前震すべり域周辺の応力をゆるやかに解消するようにして余効すべりが発生する.余効すべりはMw 8程度と前震と同程度の規模となるが,応力降下量が前震に比べて小さいために解消する歪みエネルギー(available energy)は,前震の3分の1程度となる.さらに,余効すべりにトリガーされ室戸沖の固着が破壊することで,Mw 8.3の本震となる.本震は前震に比べて3倍程度の歪みエネルギーを解消する.ただし,モーメント,解消する歪みエネルギーは,応力解消領域やすべり域の設定で変化する.
(さいごに) 本研究やNoda et al. (2021 JGR) は力学的な固着分布から,今後起こりうる巨大地震や連鎖する地震の破壊シナリオを想定した.しかし,摩擦則および背景応力に関して大きな不確定性があり,大地震や余効すべりが起きたときに,そのデータを使って,現在の考えやモデルの検証と修正をすることが重要である.あり得る複数の破壊シナリオを提示し,シナリオ作成時の仮定・条件を明確するなど,検証の準備をすすめていく.
(解析手法) プレート間の剪断応力の蓄積速度が大きい箇所が,力学的に固着している箇所と考えられる.剪断応力として,プレート沈み込みによるslip方向の向きのtractionの成分を考え,以下の手順によって,プレート間剪断応力速度分布をGNSSデータ逆解析で推定する.プレート間剪断応力分布を水平拡がり60km程度の大きさの基底関数を約250個使って表現する.各基底関数による地表変形速度応答を次のように計算する.半無限均質媒質を仮定し,南海トラフプレート境界を大きさ一辺10km程度の三角要素5400個程度を使って表し,それぞれの三角要素のすべり速度に対するそれぞれの三角要素における剪断応力速度応答を計算する.このデータセットを使うことで,剪断応力速度基底関数に対応するすべり速度分布を逆問題によって得ることができる.そして,地表変位速度をすべり速度分布から計算する.この手順で剪断応力速度の基底関数による地表変形速度応答を得る.地表変形速度応答を使い,GNSSデータの逆解析から,プレート間剪断応力速度分布を推定した.
(力学的固着と連動破壊シナリオ) プレート境界深さ~25kmより浅い箇所に4箇所(室戸沖,紀伊半島沖,熊野灘沖,東海沖)に顕著な力学的固着域を推定した.それぞれ,年間10kPa程度で剪断応力が蓄積されていく.特に,室戸沖の固着領域は広く,剪断応力蓄積速度が大きい.仮に,応力蓄積期間が100年ならば,これら固着域に1MPa程度の応力が蓄積する.固着域が破壊すれば,1MPa程度の応力降下をもつ巨大地震を引き起こす.一方,プレート境界深部や力学的固着が弱い箇所では,余効すべりが発生する可能性がある. 得られた固着分布から想定しうる破壊シナリオのうち,複数のプレート境界地震が連鎖的に発生する可能性を紹介する.まず,紀伊半島沖の固着が破壊することで,Mw 8程度の前震が発生する.この地震によって周囲の応力が増加する.前震すべり域周辺の応力をゆるやかに解消するようにして余効すべりが発生する.余効すべりはMw 8程度と前震と同程度の規模となるが,応力降下量が前震に比べて小さいために解消する歪みエネルギー(available energy)は,前震の3分の1程度となる.さらに,余効すべりにトリガーされ室戸沖の固着が破壊することで,Mw 8.3の本震となる.本震は前震に比べて3倍程度の歪みエネルギーを解消する.ただし,モーメント,解消する歪みエネルギーは,応力解消領域やすべり域の設定で変化する.
(さいごに) 本研究やNoda et al. (2021 JGR) は力学的な固着分布から,今後起こりうる巨大地震や連鎖する地震の破壊シナリオを想定した.しかし,摩擦則および背景応力に関して大きな不確定性があり,大地震や余効すべりが起きたときに,そのデータを使って,現在の考えやモデルの検証と修正をすることが重要である.あり得る複数の破壊シナリオを提示し,シナリオ作成時の仮定・条件を明確するなど,検証の準備をすすめていく.