11:45 〜 12:00
[S08-10] 2017年長野県南部の地震(Mj5.6)の断層近傍における応力場推定
内陸地震の発生には応力場が密接に関係しており、地震発生過程を理解するためには、地殻の応力状態を知ることが重要である。例えばKawanishi et al.(2009)では、2000年鳥取県西部地震 (Mw=6.6) の稠密余震観測で得られた余震データを使用して応力インバージョン法により詳細な応力場を推定し、中国地方の地震帯において、それ以外の領域に比べて最大圧縮応力の向きが回転していることを示唆した。この空間変化は、地震帯直下の下部地殻の不均質構造を仮定した有限要素法による応力場のパターンと整合的であり、断層上の延性的なすべりによる影響で説明できることが報告された。
本研究では、長野県西部地域における稠密地震観測で得られた地震データを用いて、2017年6月25日に発生した長野県南部の地震(Mj=5.6)の断層近傍の詳細な応力場を推定し、空間的な不均質性を調べた。
本研究の対象領域である長野県西部地域は、1984年の長野県西部地震(Mj=6.8)の発生以降30年以上にわたり地震活動が継続している。地震は本震断層面に沿って分布するだけでなく、御嶽山東麓域では断層から離れたところでも多数起こっている。本研究で扱う長野県南部の地震は、村瀬・木股(2020)において左横ずれ断層によると考えられ、長野県西部地震の断層の東端付近で発生した。
メカニズム解の推定には、稠密地震観測データのうちIio et al.(2017)が使用した1995年6月から2010年6月までの地震データに未解析のデータを加えて、2017年長野県南部の地震発生前までのデータを使用した。この地域は震源が浅く、その直上に多数の観測点が設置されているため、精度の良いメカニズム解を求めることができる。
応力インバージョンの計算には、Iio et al.(2017)よる、断層面上で生じるすべりの方向が断層面に働く剪断応力の方向と平行であるとするWallace-Bott仮説と、解析領域内の応力場は時空間的に一様であるという仮定を用いて、解析に用いる地震に関して、観測されたすべりの方向と理論的なそれとの差 (ミスフィット角) の二乗和を最小とする方法を用いて、グリッドサーチにより求めた。
応力インバージョンの結果、断層近傍において応力場の不均質性が見られた。本解析領域全体における最大圧縮応力σ1のazimuthの平均は西南西-東南東方向であり、これはTerakawa et al.(2013)における、本研究で解析に用いた領域を含む広域でのσ1のazimuthと比較すると、やや東-西に近い向きであった。また長野県南部の地震の西側の一部(深さ2-3km)では、σ1のazimuthが北西-南東から北北西-南南東方向であり、応力比は周囲と比べて低い傾向が見られた。これはYukutake et al.(2010)にて報告された特徴と同様の応力場のパターンを示している。さらに、長野県西部地震の断層の南東側 (深さ2.5-3km)と長野県南部の地震断層より北部(深さ3-3.5km)では一部、σ1のazimuthが東-西方向へと回転している領域が見られた。
これより、本解析領域全体におけるσ1のazimuthの平均が西北西-東南東であるのに対して、一部北西-南東から北北西-南南東を示す領域や東-西方向など、平均的な応力パターンとは異なる不均質構造の存在が考えられる。しかしながら、不均質性を示す一部の領域では、ミスフィット角が明確な最小値を示していないため、解の精度評価についても検討する。また、地震発生前の不均質な応力場が地震発生にどのような影響を与えるのかについては、局所的な剪断応力の増加に寄与するのか、断層強度の低下に寄与するのか、などの観点から考察していきたい。
本研究では、長野県西部地域における稠密地震観測で得られた地震データを用いて、2017年6月25日に発生した長野県南部の地震(Mj=5.6)の断層近傍の詳細な応力場を推定し、空間的な不均質性を調べた。
本研究の対象領域である長野県西部地域は、1984年の長野県西部地震(Mj=6.8)の発生以降30年以上にわたり地震活動が継続している。地震は本震断層面に沿って分布するだけでなく、御嶽山東麓域では断層から離れたところでも多数起こっている。本研究で扱う長野県南部の地震は、村瀬・木股(2020)において左横ずれ断層によると考えられ、長野県西部地震の断層の東端付近で発生した。
メカニズム解の推定には、稠密地震観測データのうちIio et al.(2017)が使用した1995年6月から2010年6月までの地震データに未解析のデータを加えて、2017年長野県南部の地震発生前までのデータを使用した。この地域は震源が浅く、その直上に多数の観測点が設置されているため、精度の良いメカニズム解を求めることができる。
応力インバージョンの計算には、Iio et al.(2017)よる、断層面上で生じるすべりの方向が断層面に働く剪断応力の方向と平行であるとするWallace-Bott仮説と、解析領域内の応力場は時空間的に一様であるという仮定を用いて、解析に用いる地震に関して、観測されたすべりの方向と理論的なそれとの差 (ミスフィット角) の二乗和を最小とする方法を用いて、グリッドサーチにより求めた。
応力インバージョンの結果、断層近傍において応力場の不均質性が見られた。本解析領域全体における最大圧縮応力σ1のazimuthの平均は西南西-東南東方向であり、これはTerakawa et al.(2013)における、本研究で解析に用いた領域を含む広域でのσ1のazimuthと比較すると、やや東-西に近い向きであった。また長野県南部の地震の西側の一部(深さ2-3km)では、σ1のazimuthが北西-南東から北北西-南南東方向であり、応力比は周囲と比べて低い傾向が見られた。これはYukutake et al.(2010)にて報告された特徴と同様の応力場のパターンを示している。さらに、長野県西部地震の断層の南東側 (深さ2.5-3km)と長野県南部の地震断層より北部(深さ3-3.5km)では一部、σ1のazimuthが東-西方向へと回転している領域が見られた。
これより、本解析領域全体におけるσ1のazimuthの平均が西北西-東南東であるのに対して、一部北西-南東から北北西-南南東を示す領域や東-西方向など、平均的な応力パターンとは異なる不均質構造の存在が考えられる。しかしながら、不均質性を示す一部の領域では、ミスフィット角が明確な最小値を示していないため、解の精度評価についても検討する。また、地震発生前の不均質な応力場が地震発生にどのような影響を与えるのかについては、局所的な剪断応力の増加に寄与するのか、断層強度の低下に寄与するのか、などの観点から考察していきたい。