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[S08P-02] 日本列島内陸域の通常地震と低周波地震の震源スペクトルの形状の推定
震源スペクトルは地震時の断層破壊の時空間発展に関する重要な情報源である。Aki (1967) は地震の震源スペクトルの高周波側が周波数の2乗で減衰するオメガ二乗モデルを提案し, このモデルが観測された地震波の特徴とよく調和することを示した。 オメガ二乗モデルは震源スペクトルの標準モデルとして地震の解析に幅広く用いられているが, オメガ二乗モデルに従わない地震も存在すると考えられる。特に低周波地震に関しては, 震源スペクトルの高周波側が周波数の二乗ではなく一乗程度で緩やかに減衰することを示唆する先行研究 (e.g., Ide et al., 2007; Yoshida et al., 2020) も存在する。 2020年に岐阜・長野県境付近で発生した群発地震活動と2008年岩手・宮城内陸地震の震源域は地震観測網に囲まれており, 通常地震に加えて低周波地震も多く発生している。本研究では2020年の岐阜・長野県境付近の群発地震活動および 2008年岩手・宮城内陸地震の震源域周辺で発生した地震の震源スペクトルを推定し, それらの高周波側の減衰の特徴を比較した。 震源スペクトル推定のために, 初めにコーダ規格化法 (Aki and Chouet, 1975; Aki, 1982) を用いて震源域周辺のQ-1(f)と観測点のサイト特性G(f)の推定を行った。(Takahashi et al., 2005; Yoshida et al., 2017)。この方法では地震の震源スペクトルがオメガ二乗モデルに従うことを仮定する必要がない。そして,得られたQ-1(f)とG(f)を用いて通常地震と低周波地震の震源スペクトルを推定した。2008年岩手・宮城内陸地震震源域で発生した地震については, 通常地震1036個, 震源域周辺で発生した低周波地震15個について震源スペクトルの推定を行い, 2020年岐阜・長野県境付近の群発地震活動の震源域で発生した地震については,通常地震773個, 震源域周辺で発生した低周波地震44個について震源スペクトルの推定を行った。 震源スペクトルの形状を定量化するための尺度として, 震源スペクトルの高周波側での周波数減衰のべき指数nを用いた。各地震の震源スペクトルに対してグリッドサーチを用いたフィッテイングにより, 地震モーメント, コーナー周波数, べき指数nの3つのパラメータを推定した。 2020年岐阜・長野県境付近の群発地震活動の震源域で発生した通常地震について得られたnの平均値は 2.16, 標準偏差は0.27 であり, 震源域周辺で発生した低周波地震について得られたnの平均値は 2.44, 標準偏差は 0.22 であった。2008年岩手・宮城内陸地震の震源域で発生した通常地震について得られたnは平均値が 1.87, 標準偏差が0.38 であり, 震源域周辺で発生した低周波地震について得られたnは平均値が1.85, 標準偏差が 0.17 であった。 2つの地域で発生した通常地震に推定したnの値がおおむね2程度で, 基本的にはオメガ二乗モデルに従うようにみえる。低周波地震についても,2008年岩手・宮城内陸地震の震源域周辺で発生したものについては概ねオメガ二乗モデルに従ってみえる。一方で,岐阜・長野県境付近の群発地震活動震源域周辺の低周波地震については, nの値が2.44 とオメガ二乗モデルよりも高周波側が大きく減衰する傾向も見られた。低周波地震について得られた結果の数は少ないものの,通常地震と低周波地震の震源時間関数の複雑性の違いを反映している可能性も考えられる。 通常地震, 低周波地震の両方の場合でnの値がばらついて分布している様子が見られた。得られたnの多様性は断層破壊の様式が地震ごとにある程度多様であることを反映している可能性がある。ただし,本研究では、震源域周辺のQ-1(f)が空間的に変化しないことを仮定して解析を行なった。しかしながら、低周波地震は通常地震よりも深部で発生するため、実際には代表するQ-1(f)が異なっている可能性も考えられる。このため本研究で推定した低周波地震の震源スペクトルの形状が系統的に誤って推定され, その結果nの値が誤って推定された可能性は否定できない。今後,通常地震近傍で発生している低周波地震を対象にすることや, Q-1(f)の空間変化を考慮した解析を行うことにより、震源スペクトルの形状の多様性についてより詳細な情報が得られると期待される。