3:30 PM - 5:00 PM
[S08P-05] Seismic radiation process of the 2011 Tohoku earthquake inferred from ocean bottom pressure records above its source region
大地震時に震源域近傍で観測される地震波形記録は、その地震の断層破壊過程や地震波放射過程の詳細および強震動の生成メカニズムを知る上で重要なデータである。内陸で発生した地震に関しては、陸域の強震観測網で観測された断層近傍での地震波形記録が、内陸地震の震源過程解析において重要な役割を果たしてきた(e.g., Wald et al. 1994; Ma et al. 2001; Dreger et al. 2004; Asano & Iwata 2021)。他方で、海域で発生する地震に関しては海域における地震観測の乏しさから震源域直上での地震波形の観測事例はこれまであまりなかった。近年の海域観測体制の充実に伴って観測事例が少しずつ増えてきている一方で、過去に観測された海底水圧計記録から地震波形記録を取得するというアプローチがいくつかの研究にて試みられている(Nosov & Kolesov 2007; Matsumoto et al. 2012; An et al. 2017; Kubota et al. 2017a; Kubota et al. 2021)。過去の地震に関しては観測を新たに実施することはできないため、同アプローチによって当時の記録からこれまで見出されていなかった情報を新たに取り出すことは重要である。Kubota et al. (2017a)は海底水圧計記録が一定の条件下で上下動加速度記録として扱えることを示し、海底水圧計記録に基づく地震波形記録を海域地震のモーメントテンソル解析に用いた。Kubota et al. (2021)は地震動成分と津波成分が混在する海底水圧計記録から永久変位込みの地震動成分を抽出する手法を開発し、2011年東北地方太平洋沖地震(以下、東北地震)における震源域直上の海底水圧計記録に適用した。本研究では、東北地震とその二つの前震(2011年3月9日11時45分のMj 7.3の地震と2011年3月10日6時23分のMj 6.8の地震)における海底水圧計記録から上下動地震波形記録を取得した上で、それぞれの地震における地震波の伝播特性および地震波放射特性を調べた。
海水が剛体であると近似できる場合、すなわち水中音波の基本モードよりも十分に長い周期帯域において、水圧計が観測する水圧変動は重力に起因して生じる静水圧変動と海底上下動加速度に比例する動圧変動の足し合わせで表現することができる(例えば、Saito 2013; Kubota et al. 2021)。前者の静水圧変動は後者の動圧変動よりもより長い周期帯域において卓越するため(例えば、Kubota et al. 2021)、適切な周期帯域を選ぶことによって水圧計記録から上下動加速度を直接得ることが可能である。本研究では、東北沖地震およびその二つの前震の際に東大地震研および東北大の海底水圧計によって観測された記録 (Maeda et al. 2011; Hino et al. 2014) を対象とし、時間積分を行った上で、周期25秒から50秒までのバンドパスフィルターを適用して、上下動速度波形記録を得た。最小周期に関しては最も深い観測点GJT3の水深における水中音波の基本モードを考慮して設定した。最大周期に関しては、Kubota et al. (2021)の結果に基づいて、静水圧変動に対して動圧変動が十分に卓越する周期帯を取るように選んだ。なお海域だけでなく陸域の観測記録も併せた解析を行うために、防災科研の強震観測網K-NET・KiK-netによる観測記録も用いることとし、それぞれの地震波形記録に時間積分と周期25秒から50秒までのバンドパスフィルターを施した。
まず二つの前震に関しては、陸域の上下動波形記録は3~4 km/sで伝播する一つの波群で主に構成される。同波群は海域の観測点においても見られ、それぞれの地震の震央および主破壊域(Kubota et al. 2017b)の近くに位置するP08・P09までさかのぼることができる。それに対して東北地震における上下動波形記録は、前震時の記録に比べて非常に複雑であり、東北地震の複雑な地震波放射特性を反映している。東北地震の震央からdown-dip方向に位置する陸域の観測点においては顕著な二つの波群が見られる(例えば、Suzuki et al. 2011)。この二つの波群は同地震震央近くに位置する海域観測点(P02・P06・P08・P09)の付近までさかのぼることができる。陸域では二番目の波群の方が相対的に大きな振幅であるが、海域では観測点の位置によって相対的な振幅の大小が異なっており、それぞれの波群の励起位置の違いに起因する地震波放射パターンの違いを見ている可能性がある。
海水が剛体であると近似できる場合、すなわち水中音波の基本モードよりも十分に長い周期帯域において、水圧計が観測する水圧変動は重力に起因して生じる静水圧変動と海底上下動加速度に比例する動圧変動の足し合わせで表現することができる(例えば、Saito 2013; Kubota et al. 2021)。前者の静水圧変動は後者の動圧変動よりもより長い周期帯域において卓越するため(例えば、Kubota et al. 2021)、適切な周期帯域を選ぶことによって水圧計記録から上下動加速度を直接得ることが可能である。本研究では、東北沖地震およびその二つの前震の際に東大地震研および東北大の海底水圧計によって観測された記録 (Maeda et al. 2011; Hino et al. 2014) を対象とし、時間積分を行った上で、周期25秒から50秒までのバンドパスフィルターを適用して、上下動速度波形記録を得た。最小周期に関しては最も深い観測点GJT3の水深における水中音波の基本モードを考慮して設定した。最大周期に関しては、Kubota et al. (2021)の結果に基づいて、静水圧変動に対して動圧変動が十分に卓越する周期帯を取るように選んだ。なお海域だけでなく陸域の観測記録も併せた解析を行うために、防災科研の強震観測網K-NET・KiK-netによる観測記録も用いることとし、それぞれの地震波形記録に時間積分と周期25秒から50秒までのバンドパスフィルターを施した。
まず二つの前震に関しては、陸域の上下動波形記録は3~4 km/sで伝播する一つの波群で主に構成される。同波群は海域の観測点においても見られ、それぞれの地震の震央および主破壊域(Kubota et al. 2017b)の近くに位置するP08・P09までさかのぼることができる。それに対して東北地震における上下動波形記録は、前震時の記録に比べて非常に複雑であり、東北地震の複雑な地震波放射特性を反映している。東北地震の震央からdown-dip方向に位置する陸域の観測点においては顕著な二つの波群が見られる(例えば、Suzuki et al. 2011)。この二つの波群は同地震震央近くに位置する海域観測点(P02・P06・P08・P09)の付近までさかのぼることができる。陸域では二番目の波群の方が相対的に大きな振幅であるが、海域では観測点の位置によって相対的な振幅の大小が異なっており、それぞれの波群の励起位置の違いに起因する地震波放射パターンの違いを見ている可能性がある。