3:30 PM - 5:00 PM
[S08P-13] Steady-state pore pressure based on a hydraulic model considering changes in P-T conditions and clay dehydration due to plate subduction
間隙水圧の空間分布は、地震サイクルシミュレーションに代表される断層運動の数値計算を行う上で設定する必要がある境界値である。現在までに報告されている計算では、深さに対して線形に増加するモデルや、一定の深度以降は有効圧が頭打ちになるよう間隙水圧を設定することが多い。後者の圧力分布は、流体の物性値を定数、透水率を有効圧の急激な減少関数とした場合の横ずれ断層のモデルから計算されるものである(Rice, 1992)。しかし、天然のプレート沈み込み帯はこのモデルの前提を逸脱してるため、より現実的なモデルを構築して解を計算する必要があった。
近年の地震波・測地観測網の整備に伴い、スロースリップや低周波微動などのスロー地震は、世界中のプレート沈み込み帯で発生していることが明らかになりつつある。このようなスロー地震の発生は、断層中の高間隙水圧と関連付けて議論・解釈されることが多い。特に浅部スロー地震の発生深度は、粘土鉱物の脱水反応が起こる領域と空間的に重なる場合がある。しかし、脱水反応による間隙水圧への定量的な影響を評価した研究は稀であるため、脱水反応とスロー地震との関係はその有無も含めて不明な点が多い。
本研究では、Rice (1992) による既存のモデルをベースとして、沈み込みに伴う温度圧力条件の変化および粘土鉱物の脱水反応による岩石の体積変化・流体の湧き出しを考慮した水理学的モデルを構築した。一般的に断層帯の透水性は母岩と比べて高いことから、先行研究と同じく、流体は断層に沿ってのみ流れるとした。構築したモデルに基づいて間隙流体圧や脱水反応率など、諸量の時間発展と空間分布に関する偏微分方程式を立式し、定常状態の仮定と海底面での各物理量の初期値を用いた数値積分を実行することで、定常解の空間分布を求めることができる。今回は Runge-Kutta-Fehlberg 法を用いて、海底面から地震発生層下限(海底下 35 km)までの空間積分を数値的に行った。代表的なプレート沈み込み帯として南海トラフ熊野沖に着目し、種々の物性値は同地域から採取されたコア試料の値を参照した。海底面表層での岩種割合および流量は未知数であるため、これら二つについては値を振ってパラメータスタディを行った。
計算結果は大別して三つに分類でき、空間積分が系の底まで実行できないケース、系の底まで空間積分が実行できたが有効圧が負になる領域が存在するケース、系の底まで空間積分が実行できて有効圧が常に正になるケース、が存在した。最初のケースでは、海底面に与える流量が小さすぎたため、深度の増加に伴う流体源の減少によって流量が負になり、より深部で解が発散する挙動が見られた。二番目のケースでは、逆に海底面で与える流量が大きすぎたため、間隙水圧の勾配が静岩圧の勾配を超えてしまい、有効圧が負となっていた。最後のケースの解は、これら二つのケースのどちらにもならない中間の流量を海底面に与えた場合にのみ得られ、初期の泥岩割合が多いほど(透水率が低いほど)解の存在できるパラメータ空間が小さいことがわかった。このとき、有効圧の深度分布は完全な頭打ちにはならないものの、その勾配は緩やかになっていたことから、第一次近似としては深度に線形なモデルではなく既存の Rice (1992) のモデルを支持する結果となった。しかし、詳細に見れば有効圧に正の深度依存性が存在するため、地震時の応力降下量に深度依存性があるとする観測結果を支持している。系の底(海底下 35 km)での間隙圧比は概ね 0.9 から 0.95 の間を取ることが多かった。温度圧力条件の変化および脱水反応が有効圧に及ぼす定量的な影響は、海底面に与える流量の初期値に強く依存し、空間積分が底まで実行できないケースの流量に近づくにつれて、その影響が一桁ほど大きくなることがわかった。系の底から供給される流量を固定した場合、温度圧力条件の変化による有効圧への影響は岩種依存性が強く反映されたが、脱水反応による影響は岩種によらずおおよそ一定の値を取った。また海底面での初期流量が十分大きい場合、脱水反応が流体圧のソースではなく流体圧のシンクとして機能する場合もあることがわかった。プレート沈み込み帯を対象とした地震サイクルシミュレーションを行う場合、本研究で得られた解を境界値として用いることで、より現実的な数値計算を実施することができると期待される。また、脱水反応の有無によって有効圧が局所的に顕著に変化する様な挙動は得られなかったことから、粘土鉱物の脱水反応による流体圧の上昇が直接的にスロー地震を発生させるという仮説は支持されないことがわかった。
近年の地震波・測地観測網の整備に伴い、スロースリップや低周波微動などのスロー地震は、世界中のプレート沈み込み帯で発生していることが明らかになりつつある。このようなスロー地震の発生は、断層中の高間隙水圧と関連付けて議論・解釈されることが多い。特に浅部スロー地震の発生深度は、粘土鉱物の脱水反応が起こる領域と空間的に重なる場合がある。しかし、脱水反応による間隙水圧への定量的な影響を評価した研究は稀であるため、脱水反応とスロー地震との関係はその有無も含めて不明な点が多い。
本研究では、Rice (1992) による既存のモデルをベースとして、沈み込みに伴う温度圧力条件の変化および粘土鉱物の脱水反応による岩石の体積変化・流体の湧き出しを考慮した水理学的モデルを構築した。一般的に断層帯の透水性は母岩と比べて高いことから、先行研究と同じく、流体は断層に沿ってのみ流れるとした。構築したモデルに基づいて間隙流体圧や脱水反応率など、諸量の時間発展と空間分布に関する偏微分方程式を立式し、定常状態の仮定と海底面での各物理量の初期値を用いた数値積分を実行することで、定常解の空間分布を求めることができる。今回は Runge-Kutta-Fehlberg 法を用いて、海底面から地震発生層下限(海底下 35 km)までの空間積分を数値的に行った。代表的なプレート沈み込み帯として南海トラフ熊野沖に着目し、種々の物性値は同地域から採取されたコア試料の値を参照した。海底面表層での岩種割合および流量は未知数であるため、これら二つについては値を振ってパラメータスタディを行った。
計算結果は大別して三つに分類でき、空間積分が系の底まで実行できないケース、系の底まで空間積分が実行できたが有効圧が負になる領域が存在するケース、系の底まで空間積分が実行できて有効圧が常に正になるケース、が存在した。最初のケースでは、海底面に与える流量が小さすぎたため、深度の増加に伴う流体源の減少によって流量が負になり、より深部で解が発散する挙動が見られた。二番目のケースでは、逆に海底面で与える流量が大きすぎたため、間隙水圧の勾配が静岩圧の勾配を超えてしまい、有効圧が負となっていた。最後のケースの解は、これら二つのケースのどちらにもならない中間の流量を海底面に与えた場合にのみ得られ、初期の泥岩割合が多いほど(透水率が低いほど)解の存在できるパラメータ空間が小さいことがわかった。このとき、有効圧の深度分布は完全な頭打ちにはならないものの、その勾配は緩やかになっていたことから、第一次近似としては深度に線形なモデルではなく既存の Rice (1992) のモデルを支持する結果となった。しかし、詳細に見れば有効圧に正の深度依存性が存在するため、地震時の応力降下量に深度依存性があるとする観測結果を支持している。系の底(海底下 35 km)での間隙圧比は概ね 0.9 から 0.95 の間を取ることが多かった。温度圧力条件の変化および脱水反応が有効圧に及ぼす定量的な影響は、海底面に与える流量の初期値に強く依存し、空間積分が底まで実行できないケースの流量に近づくにつれて、その影響が一桁ほど大きくなることがわかった。系の底から供給される流量を固定した場合、温度圧力条件の変化による有効圧への影響は岩種依存性が強く反映されたが、脱水反応による影響は岩種によらずおおよそ一定の値を取った。また海底面での初期流量が十分大きい場合、脱水反応が流体圧のソースではなく流体圧のシンクとして機能する場合もあることがわかった。プレート沈み込み帯を対象とした地震サイクルシミュレーションを行う場合、本研究で得られた解を境界値として用いることで、より現実的な数値計算を実施することができると期待される。また、脱水反応の有無によって有効圧が局所的に顕著に変化する様な挙動は得られなかったことから、粘土鉱物の脱水反応による流体圧の上昇が直接的にスロー地震を発生させるという仮説は支持されないことがわかった。