The 2021 SSJ Fall Meeting

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Room C

Regular session » S09. Statistical seismology and underlying physical processes

AM-1

Thu. Oct 14, 2021 9:00 AM - 10:30 AM ROOM C (ROOM C)

chairperson:Naofumi Aso(Tokyo Institute of Technology), Taku Ueda(University of Tokyo)

10:00 AM - 10:15 AM

[S09-05] Development of an ETAS model that explicitly incorporates the triggering effect of slow slip events on seismicity

〇Tomoaki NISHIKAWA1, Takuya Nishimura1 (1.Disaster Prevention Research Institute, Kyoto University)

世界各地の沈み込み帯プレート境界では、スロースリップイベント(Slow slip event; SSE)と呼ばれる低速な断層滑り現象が発生する(Obara & Kato, 2016)。スロースリップイベントは、ときに大地震や群発的な地震活動を誘発することが知られており(Ozawa et al., 2003; Radiguet et al., 2016)、各地の沈み込み帯では、SSEと地震活動の因果関係の解明が進められている(Kato et al., 2012; Nishikawa et al., 2021)。

その一方、現在、世界で標準的に使用されている地震活動統計モデルであるEpidemic-type aftershock-sequence (ETAS) モデル(Ogata, 1988)には、SSEが地震活動に及ぼす影響(誘発効果等)が全く考慮されていない。そのため、プレート境界でSSEが発生した際、ETASモデルに基づく地震発生確率予測の結果と、実際に観測される地震活動が大きく乖離するという問題がある(Llenos et al., 2009)。この問題を回避するため、Okutani & Ide (2011)は、SSE発生期間と非SSE発生期間に、それぞれ異なるETASパラメータを割り当てることで、SSEに起因する地震発生レートの上昇を既存のETASモデルの枠組みの中で表現した。しかし、このモデルにはSSEの震源特性(モーメントマグニチュードやモーメントレートなど)が組み込まれていないため、SSEのモーメントレートと地震発生レートの関係や、SSEのマグニチュードと誘発される地震数の関係等に関する重要な関係式は、このモデルからは直接は得られない。つまり、「あるマグニチュードのSSEが発生した際、いくつの地震が誘発されるか?」という基本的な問いに、このモデルは答えることができない。

そこで、本研究は、既存のETASモデル(Ogata, 1988)にGlobal Navigation Satellite System (GNSS) 観測データから推定したSSEのモーメントレートを陽に組み込み、新たなモデル(SSE-informed ETAS model)を作成した。このモデルは、SSEのモーメントレートと地震発生レートに線形な関係(或いはべき乗の関係)を仮定し、SSEのモーメントレートと地震発生レートの比例定数(或いはSSEの地震モーメントと地震発生数の比例定数)を新たなETASパラメータとして直接推定する。

我々は、新たなモデルをニュージーランド・ヒクランギ海溝浅部で発生した3つのSSE(2006年8月Mw6.8、2008年3月Mw 6.6、2011年6月Mw 6.7)とそれらの周辺で発生したM 2.5以上の地震に適用した。2006年と2011年のSSEはヒクランギ海溝中央部南より(南緯40.5度付近)に、2008年のSSEは中央部北より(南緯39度付近)に位置する。各SSEのモーメントレートはGeoNetが公開しているGNSS座標時系列データとTDEFNODE(McCaffrey, 2009)を用いて事前に推定した。

その結果、2006年と2011年のイベントでは、赤池情報量規準(Akaike information criterion; AIC)が従来のETASモデルと比べて大きく減少し、新たなモデルがより良いモデルであることが示された。また、新たに導入したパラメータ η(SSEのモーメントレートと地震発生レートの比例定数)から、ちょうど1つの地震を誘発するのに必要なSSEのマグニチュードが計算でき、2006年のSSEではMw 6.0/event(95% CI: Mw 5.8/event ~ Mw 6.3/event)、2011年のSSEではMw 5.5/event(95% CI: Mw 5.4/event ~ Mw 5.7/event)と推定された。その一方、2008年のSSEでは、AICはむしろ増加し、従来のETASモデルのほうが良いモデルであった。

ヒクランギ海溝沿いの群発地震活動に関する先行研究(Nishikawa el al., 2021)では、SSEとそれに伴う群発地震活動に数日から1ヶ月程度の発生時間のずれがあることが報告されている。これをふまえ、SSEのモーメントレートに対する地震発生レートの時間遅れを許容したモデルと許容しないモデルを比較した。その結果、2006年のSSEでは、18日の時間遅れがあるモデルが、時間遅れのないモデルと比べてAICが2.7減少し、時間遅れを許容したモデルがより良いモデルあることが示唆された。加えて、SSEのモーメントレートと地震発生レートを結ぶ関係式のべき指数を1(線形)としたモデルと、べき指数を1以外としたモデルの比較も行なったが、べき指数1(線形)のモデルに比べ、AICが顕著に減少(2以上の減少)することはなかった。

本研究の新たなモデルによって、SSEに起因する地震発生レートの上昇を考慮した地震発生確率予測が可能となった。また、本モデルによって、SSEのモーメントレートと地震発生レートの関係や、SSEのマグニチュードと誘発される地震数の関係等に関する重要な関係式を得ることができた。加えて、本モデルは、SSEのモーメントレートに対する地震発生レートの時間遅れや、SSEのモーメントレートと地震発生レートを結ぶ関係式の関数形(べき指数等)に関する定量的な議論を可能にした。今後、本モデルを各地の沈み込み帯沿いのSSE及びそれに伴う地震活動に適用することで、各地の地震活動の予測精度向上や、SSEに伴う地震活動の特徴の定量化及びその地域差の解明につながると期待される。