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[S09-09] 混合分布による南海トラフ深部低周波微動の規模分布
深部低周波微動(DLF)を含むスロー地震の規模が従う分布としてはベキ分布 [例えばBostock et al., 2015, JGR, doi:10.1002/2015JB012195] や指数分布 [例えばChestler & Creager, 2017, JGR, doi:10.1002/2016JB012717] が提案されている.さらにより複雑な分布としてベキ分布と指数分布を掛け合わせたtapered Gutenberg-Richter (GR)則 [Vere-Jones et al., 2001, GJI, doi:10.1046/j.1365-246x.2001.01348.x] を用いた研究もある [Nakano et al., 2019, GRL, doi:10.1029/2019GL083029].これらの分布に対し,本研究では南海トラフの深部低周波微動に対して,ベキ分布と指数分布を適当な比率で足し合わせた混合分布を適用した例を示す.
適用した確率分布は以下の通りである:
(モデルA)pA(M0) ∝ [γM0-b/C1+(1 – γ)exp(–βM0)/C2]q(M0)
(モデルB)pB(M0) ∝ [γ(1-r(M0))M0-b/C1+(1 – γ)r(M0)exp(–βM0)/C2]q(M0)
ここでM0は地震モーメントである.C1およびC2は各項のγあるいは1 – γを除いた部分をM0で積分して1になるようにするための正規化定数である.γはベキ分布と指数分布に従うイベントの個数比である.モデルAではベキおよび指数分布の混合比がM0に依存しておらずγがそのまま混合比に相当する.これに対し,モデルBでは混合比自体がM0に依存して変化することが仮定されている.r(M0)は正規分布の累積分布関数でありM0が小さければ0,大きければ1に近づく.これによりM0の小さい方でベキ分布,M0の大きい方で指数分布に近づくような確率分布を表現することが出来る.さらにq(M0)はあるM0におけるイベント検知率であり,Ogata & Katsura [1993, GJI, doi:10.1111/j.1365-246X.1993.tb04663.x] やIwata [2013, GJI, doi:10.1093/gji/ggt208]と同様,これも正規分布の累積分布関数を用いることとする.通常の解析ではSSEが完全に取れているM0以上の範囲のみを解析するが,q(M0)を導入することでSSEの記録が不完全であるM0の小さな範囲も含めた解析が可能となる.
解析に用いたデータはDaiku et al. [2018, Tectonophys., doi:10.1016/j.tecno.2017.11.016](以下D2018)によって得られたものに基づいた.D2018では南海トラフに沿った東海地方から四国地方を5つの領域に分け,各領域で観測されたDLFのapparent momentを求めた.期間は2002年4月から2013年7月までであり,各領域で219〜663個のDLFのapparent momentが得られている(領域分けについてはD2018のFigs.2および3を参照されたい).本研究ではNakamoto et al. [2021, JGR, doi:10.1029/2020JB021138] に倣い,D2018によるDLFのapparent momentに4πρVs3(ρは媒質密度,VsはS波速度)を掛けS波の平均的なradiation pattern係数で割ったものをM0として解析を行う.なお,apparent momentをM0に変換する際に必要となる値はMaeda and Obara [2009, JGR, doi:10.1029/ 2008JB006043] のものを用いた.
各領域のデータに対して上に示した2つのモデル(確率分布)を適用した.合わせて従来研究で用いられたベキ分布・指数分布・tapered GR則も適用した.各モデルのパラメータは最尤法で推定し,得られた最大対数尤度の値からAIC(赤池情報量規準)[Akaike, 1974, IEEE Trans. Auto. Control, doi: 10.1109/TAC.1974.1100705] を求めて計5つのモデルに関するモデル比較を行った.
結果例として紀伊半島北部および中央・西四国に対する結果を図に示す.紀伊半島北部(図(a))については従来研究の3モデル(青・水色・紫点線)および本研究のモデルA(緑実線)は観測されたM0の(相補)累積分布関数(黒実線)全体には合っていない.それに対し,モデルB(赤実線)は観測されたM0の累積分布関数に比較的良く適合している.実際,AICの値でも2番目に良かった(小さかった)tapered GR則に比べて22.0小さく,有意に優れていると言える.中央・南紀伊および東四国でも同様の結果となった.
一方,中央・西四国については,モデルBが観測されたM0の累積分布関数に対して部分的に合っていない.tapered GR則(紫点線)も同様であるが,AICの値ではtapered GR則の方が3.7小さく,こちらの方が有意によい.東海地域においてもtapered GR則のAICの値がモデルBのものよりも小さかった(但し,値の差は0.7であり「有意に差がある」とまでは言えない).
以上のように,本研究で提案した混合分布が優れている場合とtapered GR則が優れている場合とが混在している.現段階では5領域を調べただけであり,今後は解析事例を増やすなどして差異が生じる要因を調べるといったより踏み込んだ解析が必要と考えられる.
図:観測されたM0および最尤推定値に基づく5モデルとの比較.比べやすくするため(相補)累積分布関数に直してある.(a) 紀伊半島北部,(b) 中央・西四国に対するもの.
適用した確率分布は以下の通りである:
(モデルA)pA(M0) ∝ [γM0-b/C1+(1 – γ)exp(–βM0)/C2]q(M0)
(モデルB)pB(M0) ∝ [γ(1-r(M0))M0-b/C1+(1 – γ)r(M0)exp(–βM0)/C2]q(M0)
ここでM0は地震モーメントである.C1およびC2は各項のγあるいは1 – γを除いた部分をM0で積分して1になるようにするための正規化定数である.γはベキ分布と指数分布に従うイベントの個数比である.モデルAではベキおよび指数分布の混合比がM0に依存しておらずγがそのまま混合比に相当する.これに対し,モデルBでは混合比自体がM0に依存して変化することが仮定されている.r(M0)は正規分布の累積分布関数でありM0が小さければ0,大きければ1に近づく.これによりM0の小さい方でベキ分布,M0の大きい方で指数分布に近づくような確率分布を表現することが出来る.さらにq(M0)はあるM0におけるイベント検知率であり,Ogata & Katsura [1993, GJI, doi:10.1111/j.1365-246X.1993.tb04663.x] やIwata [2013, GJI, doi:10.1093/gji/ggt208]と同様,これも正規分布の累積分布関数を用いることとする.通常の解析ではSSEが完全に取れているM0以上の範囲のみを解析するが,q(M0)を導入することでSSEの記録が不完全であるM0の小さな範囲も含めた解析が可能となる.
解析に用いたデータはDaiku et al. [2018, Tectonophys., doi:10.1016/j.tecno.2017.11.016](以下D2018)によって得られたものに基づいた.D2018では南海トラフに沿った東海地方から四国地方を5つの領域に分け,各領域で観測されたDLFのapparent momentを求めた.期間は2002年4月から2013年7月までであり,各領域で219〜663個のDLFのapparent momentが得られている(領域分けについてはD2018のFigs.2および3を参照されたい).本研究ではNakamoto et al. [2021, JGR, doi:10.1029/2020JB021138] に倣い,D2018によるDLFのapparent momentに4πρVs3(ρは媒質密度,VsはS波速度)を掛けS波の平均的なradiation pattern係数で割ったものをM0として解析を行う.なお,apparent momentをM0に変換する際に必要となる値はMaeda and Obara [2009, JGR, doi:10.1029/ 2008JB006043] のものを用いた.
各領域のデータに対して上に示した2つのモデル(確率分布)を適用した.合わせて従来研究で用いられたベキ分布・指数分布・tapered GR則も適用した.各モデルのパラメータは最尤法で推定し,得られた最大対数尤度の値からAIC(赤池情報量規準)[Akaike, 1974, IEEE Trans. Auto. Control, doi: 10.1109/TAC.1974.1100705] を求めて計5つのモデルに関するモデル比較を行った.
結果例として紀伊半島北部および中央・西四国に対する結果を図に示す.紀伊半島北部(図(a))については従来研究の3モデル(青・水色・紫点線)および本研究のモデルA(緑実線)は観測されたM0の(相補)累積分布関数(黒実線)全体には合っていない.それに対し,モデルB(赤実線)は観測されたM0の累積分布関数に比較的良く適合している.実際,AICの値でも2番目に良かった(小さかった)tapered GR則に比べて22.0小さく,有意に優れていると言える.中央・南紀伊および東四国でも同様の結果となった.
一方,中央・西四国については,モデルBが観測されたM0の累積分布関数に対して部分的に合っていない.tapered GR則(紫点線)も同様であるが,AICの値ではtapered GR則の方が3.7小さく,こちらの方が有意によい.東海地域においてもtapered GR則のAICの値がモデルBのものよりも小さかった(但し,値の差は0.7であり「有意に差がある」とまでは言えない).
以上のように,本研究で提案した混合分布が優れている場合とtapered GR則が優れている場合とが混在している.現段階では5領域を調べただけであり,今後は解析事例を増やすなどして差異が生じる要因を調べるといったより踏み込んだ解析が必要と考えられる.
図:観測されたM0および最尤推定値に基づく5モデルとの比較.比べやすくするため(相補)累積分布関数に直してある.(a) 紀伊半島北部,(b) 中央・西四国に対するもの.