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[S09-10] Evaluating the crustal strength based on seismic moment tensor ratios
地震は地殻に蓄積された弾性ひずみを解放するが,解放の仕方はさまざまであると考えられる。例えば,成熟した断層帯においては断層走向に沿ったすべりが卓越するであろう。一方,未成熟の場合は走向方向だけでなく様々な方向のすべりが発生すると考えられる。こういったすべり方向の多様性と断層の成熟度・強度には関係があることはある意味,明らかである。 媒質がある応力状態にあった時,弾性ひずみは主応力と45度をなす最大せん断方向の面で滑りが発生するとき最も“効率的”にひずみエネルギーが解放される。一方,クーロンの破壊基準によれば内部摩擦角は摩擦係数によって変化する。そのため,最適面(最大圧縮応力軸に対して±30度,ただし摩擦係数0.6のとき)で滑りを起こす。この場合,圧縮軸に対して共役な2つの面で滑りを起こすと,結果的に弾性ひずみを減少させるが,その効率は低下する。具体的には,最大せん断方向で滑った地震のメカニズム解を考えてみると,このメカニズム解をもつ地震で解放されるモーメントM0とした場合,±30度の面を持った地震2つで解放されるモーメントは,2M0となるはずであるが,和をとるとモーメントテンソルはその形は45°滑りと同じになり,その大きさは2M0より小さくなる(摩擦係数=0.6の時,比はおよそ0.74)。これは,よりすべりやすい面で多数滑ることによって弾性ひずみを解放していくプロセスを示している。摩擦係数が小さくなると徐々に比は1に近づいてゆく。一方,既存の亀裂が非最適面でかつ流体圧が高い場合,モーメント比は徐々に低下する。このように地震で解放されるモーメントと解放される弾性ひずみの比は地殻の成熟度・強度を示していると考えられる。ここでは,このモーメント比を実際の地震データから求めてその特性について検討する。 2017年3月から2018年4月まで鳥取県西部地震震源域で行われた”0.1満点地震観測“は1000点の地震観測点をおよそ1㎞間隔で展開し,余震域を取り囲んだ地震観測である。これによって余震のメカニズム解が詳細に推定された。これらを3x3x2.5㎞のブロックごとにモーメント比を求めた。その結果,1に近いところは余震域が水平に広がる部分に対応している。一方,場所によっては0.6程度以下になるブロックも存在している。位置としては鳥取県西部地震の先駆的地震活動震源位置に対応している。これは流体圧が高い可能性を示唆している。 2016年熊本地震前後の地震活動について同様の解析をした。ここでは0.05°x0.05°x5㎞のブロックで見積もった。その結果,摩擦係数が低いような場所は見られなかった。一方で,モーメント比が0.6程度以下の場所が断層周辺に存在している。さらに,地震発生後にはその部分が広がっているように見える。これは,応力場の不均質が影響している可能性はあるものの,流体が貫入したことによる影響を見ているとも解釈できる。 以上のようにモーメント比を用いると,地殻の強度情報が抽出できる可能性がある。この比を用いることによって地殻の力学的応答をモデル化できる可能性があり,地殻活動のシミュレーションに将来的に貢献すると考えられる。