09:30 〜 09:45
[S09-20] 地震波振幅の空間分布から推定した紀伊半島南東沖で発生する浅部低周波微動の時空間分布: 2020年12月から2021年1月
はじめに
近年の地震・測地観測網の充実に伴い、プレート境界では通常の地震以外にも様々な卓越周期を持つ地震イベントの存在が明らかとなった。それらのイベントは卓越周期(周波数)が数Hzのものは低周波微動(Tectonic tremor)、数10秒のものは超低周波地震(Very low frequency earthquake: VLFE)、数日から数か月にわたるものはスロースリップと分類され、総称してスロー地震と呼ばれている。これらのスロー地震は互いに時間・空間的に相関を持った活動様式を有しており、プレート境界の状態モニタリングに重要な現象である。 海域のトラフ軸付近で発生するスロー地震については、陸域観測網を用いた超低周波地震のモニタリングは行われていたものの、低周波微動のモニタリングは陸域のそれと比べるとやや立ち遅れた状況であった。しかし、自己浮上式海底地震計を用いた稠密観測によって低周波微動が発生していることが明らかとなり、また、DONETやS-netのような稠密な海底地震観測網が整備されたことから、今後は海域における低周波微動の観測もプレート境界の状態モニタリングに重要となるであろう。
紀伊半島南東沖の海溝軸付近では、Obara and Kodaira (2009)によって浅部低周波微動の存在が確認されたのち、Annoura et al. (2017)やTamaribuchi et al. (2019)によって低周波微動の活動様式が調査されている。本研究では、DONETの観測記録を用いて2020年12月から2021年1月にかけて紀伊半島南東沖の海溝軸付近で発生した浅部低周波微動の震源決定を行い、その時空間分布の特徴や外部擾乱への応答を調査する。
手法
トラフ軸付近で発生する浅部低周波微動は、速度構造や海水層の存在によって継続時間が長くなる傾向にあり(Takemura et al., 2020)、走時が不明瞭となる。そこで、本研究では地震波振幅の空間分布を用いた震源決定法(Amplitude Source Location (ASL) method; Kumagai et al., 2019)を採用した。ASL法は地震波の到達時の読み取りが不要であるという利点があるため、走時読み取りが困難な火山性微動の震源決定に広く活用されているが、浅部低周波微動の震源決定にも有効である(Tamaribuchi et al., 2019)。本研究では、Nakanishi et al. (2002)による2次元速度構造からトラフ軸付近の構造を取り出した1次元速度構造を採用し、また、減衰パラメータ及びサイト特性はYabe et al. (2021)の値を用いて、ASL法を実行する。震源計算には2-8HzのバンドパスフィルタをかけたDONETの上下動成分の連続記録を用いる。オリジンタイム及び震源の位置を仮定して、震源から観測点への計算走時から起算して60秒のタイムウィンドウにおける地震波振幅の二乗平均平方根を計算してASL法に使用する観測振幅値とした。なお、観測振幅値にはS/N比チェックや複数の周波数帯域間の振幅比チェック(Sit et al., 2012)といった品質管理を適用している。仮定するオリジンタイムを10秒ずつ移動させて連続的に震動源の位置を推定し、スクリーニングを経て最終的な震源分布を得た。
結果及び議論
得られた震源分布を図1に示す。全部で約3600個の震源を得ることができ、そのうち深さ14km以浅に決定されたものは約3300個であった。震央は、DONET1の東端付近からDONET2のEノード付近まで、約130km×50kmの範囲でトラフ軸に沿うように分布している。微動活動は12月6日、DONET1のBノード付近から始まり、トラフ軸の走向方向に約4km/日、直交方向に約3km/日の速度で震央が拡大していった。12月31日ころからDONET1と2の中間付近で発生した低周波微動の震央域は約8km/日の速度で南西方向に拡大した。また、12月28~30日頃と1月11~13日頃にかけて、10数km/日の速度で震央域が北東方向に移動する現象が確認された。
微動活動と地球潮汐との対応を確認するため、プレート境界をレシーバ断層として地球潮汐に伴うΔCFFを計算し、微動活動と比較した。ΔCFFが減少傾向である期間でも微動の発生レートはあまり変化せず、この期間の微動活動は地球潮汐にはトリガーされていないと考えられる。この期間に全世界で発生したマグニチュード6.5(Global CMTプロジェクトによる)以上の地震は3つのみであった。そのうち、日本時間の12/28 6:39にチリ付近で発生したマグニチュード6.7の地震の後、数日間にわたって一時的に微動活動が活発化した。なお、この期間は上記の震央域が北東方向に移動した時期と一致している。
本発表の解析期間では、低周波微動のほか、超低周波地震活動(南海トラフ地震に関する評価検討会・東京大学地震研究所・防災科学技術研究所資料)やスロースリップを示唆する地殻変動(南海トラフ地震に関する評価検討会・海洋研究開発機構資料)が観測されているが、これらの活動と本発表で得られた低周波微動活動は非常によく対応しており、紀伊半島南東沖の浅部プレート境界で発生した一連のスロー地震活動を異なる周波数帯域で観測した事例のひとつといえる。
謝辞
本研究ではDONETの観測記録(防災科学技術研究所, 2019; doi: 10.17598/nied.0008)を使用しました。産業技術総合研究所の矢部優氏にはYabe et al. (2021)のサイト特性の値を提供していただきました。また、海底地形データはETOPO1(doi: 10.7289/V5C8276M)を参照しました。
近年の地震・測地観測網の充実に伴い、プレート境界では通常の地震以外にも様々な卓越周期を持つ地震イベントの存在が明らかとなった。それらのイベントは卓越周期(周波数)が数Hzのものは低周波微動(Tectonic tremor)、数10秒のものは超低周波地震(Very low frequency earthquake: VLFE)、数日から数か月にわたるものはスロースリップと分類され、総称してスロー地震と呼ばれている。これらのスロー地震は互いに時間・空間的に相関を持った活動様式を有しており、プレート境界の状態モニタリングに重要な現象である。 海域のトラフ軸付近で発生するスロー地震については、陸域観測網を用いた超低周波地震のモニタリングは行われていたものの、低周波微動のモニタリングは陸域のそれと比べるとやや立ち遅れた状況であった。しかし、自己浮上式海底地震計を用いた稠密観測によって低周波微動が発生していることが明らかとなり、また、DONETやS-netのような稠密な海底地震観測網が整備されたことから、今後は海域における低周波微動の観測もプレート境界の状態モニタリングに重要となるであろう。
紀伊半島南東沖の海溝軸付近では、Obara and Kodaira (2009)によって浅部低周波微動の存在が確認されたのち、Annoura et al. (2017)やTamaribuchi et al. (2019)によって低周波微動の活動様式が調査されている。本研究では、DONETの観測記録を用いて2020年12月から2021年1月にかけて紀伊半島南東沖の海溝軸付近で発生した浅部低周波微動の震源決定を行い、その時空間分布の特徴や外部擾乱への応答を調査する。
手法
トラフ軸付近で発生する浅部低周波微動は、速度構造や海水層の存在によって継続時間が長くなる傾向にあり(Takemura et al., 2020)、走時が不明瞭となる。そこで、本研究では地震波振幅の空間分布を用いた震源決定法(Amplitude Source Location (ASL) method; Kumagai et al., 2019)を採用した。ASL法は地震波の到達時の読み取りが不要であるという利点があるため、走時読み取りが困難な火山性微動の震源決定に広く活用されているが、浅部低周波微動の震源決定にも有効である(Tamaribuchi et al., 2019)。本研究では、Nakanishi et al. (2002)による2次元速度構造からトラフ軸付近の構造を取り出した1次元速度構造を採用し、また、減衰パラメータ及びサイト特性はYabe et al. (2021)の値を用いて、ASL法を実行する。震源計算には2-8HzのバンドパスフィルタをかけたDONETの上下動成分の連続記録を用いる。オリジンタイム及び震源の位置を仮定して、震源から観測点への計算走時から起算して60秒のタイムウィンドウにおける地震波振幅の二乗平均平方根を計算してASL法に使用する観測振幅値とした。なお、観測振幅値にはS/N比チェックや複数の周波数帯域間の振幅比チェック(Sit et al., 2012)といった品質管理を適用している。仮定するオリジンタイムを10秒ずつ移動させて連続的に震動源の位置を推定し、スクリーニングを経て最終的な震源分布を得た。
結果及び議論
得られた震源分布を図1に示す。全部で約3600個の震源を得ることができ、そのうち深さ14km以浅に決定されたものは約3300個であった。震央は、DONET1の東端付近からDONET2のEノード付近まで、約130km×50kmの範囲でトラフ軸に沿うように分布している。微動活動は12月6日、DONET1のBノード付近から始まり、トラフ軸の走向方向に約4km/日、直交方向に約3km/日の速度で震央が拡大していった。12月31日ころからDONET1と2の中間付近で発生した低周波微動の震央域は約8km/日の速度で南西方向に拡大した。また、12月28~30日頃と1月11~13日頃にかけて、10数km/日の速度で震央域が北東方向に移動する現象が確認された。
微動活動と地球潮汐との対応を確認するため、プレート境界をレシーバ断層として地球潮汐に伴うΔCFFを計算し、微動活動と比較した。ΔCFFが減少傾向である期間でも微動の発生レートはあまり変化せず、この期間の微動活動は地球潮汐にはトリガーされていないと考えられる。この期間に全世界で発生したマグニチュード6.5(Global CMTプロジェクトによる)以上の地震は3つのみであった。そのうち、日本時間の12/28 6:39にチリ付近で発生したマグニチュード6.7の地震の後、数日間にわたって一時的に微動活動が活発化した。なお、この期間は上記の震央域が北東方向に移動した時期と一致している。
本発表の解析期間では、低周波微動のほか、超低周波地震活動(南海トラフ地震に関する評価検討会・東京大学地震研究所・防災科学技術研究所資料)やスロースリップを示唆する地殻変動(南海トラフ地震に関する評価検討会・海洋研究開発機構資料)が観測されているが、これらの活動と本発表で得られた低周波微動活動は非常によく対応しており、紀伊半島南東沖の浅部プレート境界で発生した一連のスロー地震活動を異なる周波数帯域で観測した事例のひとつといえる。
謝辞
本研究ではDONETの観測記録(防災科学技術研究所, 2019; doi: 10.17598/nied.0008)を使用しました。産業技術総合研究所の矢部優氏にはYabe et al. (2021)のサイト特性の値を提供していただきました。また、海底地形データはETOPO1(doi: 10.7289/V5C8276M)を参照しました。