The 2021 SSJ Fall Meeting

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Poster session (Oct. 14th)

Regular session » S09. Statistical seismology and underlying physical processes

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Thu. Oct 14, 2021 3:30 PM - 5:00 PM ROOM P3 (ROOM P)

3:30 PM - 5:00 PM

[S09P-05] A trial digitization and spectral analysis of analog seismograms of the Kanto-Tokai Observation Network for the analysis of tectonic tremor

〇Takanori MATSUZAWA1, Tetsuya TAKEDA1 (1.National Research Institute for Earth Science and Disaster Resilience)

南海トラフにおける深部微動(以下,微動)の発見(Obara, 2002)以降,多くの研究者によってスロー地震が精力的に研究されてきた.一方数値シミュレーションの研究からは,大地震発生領域への応力蓄積過程に伴い,スロー地震活動の発生間隔に長期的な変化が見られる可能性が指摘されている(例えば,Matsuzawa et al., 2010).東海地域における長期間のスロー地震カタログとしては,例えば東海地域の1984年以降についてひずみ計を用いた短期的スロースリップイベントに関する研究がなされているが(小林他,2006),とくに1998年以前については観測点数の問題から,詳細な位置推定は難しい.また,歪や傾斜といった地殻変動観測においては,降水などの影響を受けやすい点も,活動を網羅的にカタログ化する観点で課題となる.

防災科研は1970年代末から関東東海地殻活動観測網の運用を開始しており,ペンレコーダーによる地震計のアナログ記録が残されている.高密度に展開された地震観測網の地震波形記録が連続のデジタルデータとして保存されることが一般的になったのは2000年代以降であるため,それ以前のスロー地震活動状況を解明するには,こうしたアナログの地震波形記録が有用となる.我々はこの記録を用いた1980年代の愛知県東部の微動活動把握を目指し,目視による活動検出を実施した(松澤・武田, 2020).しかし,客観的な基準で微動を検出し,微動源の位置を議論するためには,波形をデジタルデータ化して解析することが重要となる.また,数日間におよぶエピソード単位の活動の解析や,年単位の連続記録の網羅的な解析を目指す場合には,手作業でなく可能な限り自動化できることが望ましい.こうした目的のもと,我々は波形データの自動デジタイズの試みを開始した(松澤・武田,2021, JpGU).しかしながら,スキャンされた画像の傾きが補正できない点,波形の振幅がトレース間の平均間隔の半分を越えた場合には周囲のトレースを含め正しくデジタイズできない点が,主な問題点となっていた.我々はこうした問題の解決を目指し,手法の改良を行った.

解析対象となる波形記録では,1枚の記録紙に2時間分の上下動地震波形がペンレコーダーで記録されている.記録は上下段および左右の4つのブロックに分かれ,上段が前半1時間,下段が後半1時間分となっている.左側は毎分0~35秒台の波形トレースが上から順に並んでおり,右側は30~65秒台の波形トレースが同様に並んでいる.各トレースにおいては,1秒毎にstreak状のタイムマークが上向きに入り,0秒台にはやや長いオフセットが入るようになっている.デジタル化を実施する波形画像については,松澤・武田(2021, JpGU)と同様,この記録紙を400dpiグレースケールのPNG(Portable Network Graphics)形式でスキャンしたものを使用した.

データのデジタイズにあたっては,プログラム上でビットマップデータを扱った.今回の方法では,まずこのビットマップデータについて画素毎に縦方向に,色のついた領域を抽出した.その後,抽出された領域について横方向に近接するもの同士をつなぐことで,それぞれ35秒間のトレースを得た.左右のブロックを分離した後,それぞれのトレースの傾きからブロック全体の傾きを推定し,ペンレコーダーによる記録時およびスキャン時の傾きの補正値とした.加えて,傾きと同時に推定される縦軸の切片情報を用い,トレースの間隔を推定するとともに,上下段の分離も行った.こうして得られた波形トレースをデジタルの波形のデータとして得た.

手法の検証として,防災科研Hi-netのデジタル地震計記録を用いて疑似的な紙記録イメージを作成したのち,このプログラムを適用し元データとの比較を行った.微動の発生が確認されている期間の記録については,高周波成分の情報は欠落しているものの,波形は概ね一致し,スペクトルの比較でも10Hz以下の帯域ではよく一致した.さらに,実際の波形への適用も試み,傾きが補正され,上下の隣のトレースと線が交わらない範囲内において,デジタイズ後の波形は元画像と概ね一致することを確認した.また,小林他(2006)で短期的スロースリップイベントが報告されている期間について適用したところ,1Hzとその倍音にピークは見られるものの,Hi-netと同様に数Hzに卓越するシグナルが確認できた.ただし,ここで得られたデータは1秒毎のタイムマークを含んでいるため,そのままエンベロープ相関法のような震源決定手法に適用することは難しい.今後,微動源の位置を議論するためには,こうした影響を回避する方法を検討する必要がある.