3:30 PM - 5:00 PM
[S09P-09] A preliminary study on low-frequency earthquakes below Mt. Fuji: Creation of an earthquake catalog using the Matched Filter method and quality evaluation of the catalog
通常の地震よりもゆっくりとした地震波を励起する低周波地震が、富士山直下の深さ10-25kmで観測されている(浜田, 1981; Ukawa et al., 2005)。富士山の低周波地震は常時起きているが、2000-2001年の活発化の様に(吉田他, 2006)、活動に変化が見られる。低周波地震の発生は、火山深部の流体の存在を示唆すると考えられている(例えば、Nakamichi et al., 2003)。例えば、富士山の山体膨張と低周波地震の関係性を示す報告があり、富士山直下のマグマ溜まりの圧力が高まって膨張歪を生じさせ、低周波地震も活発化したと説明されている(原田他, 2010)。一方で、箱根火山周辺での観測結果の様に、膨張歪に伴って、低周波地震の活発化が見えない事例もある(原田他, 2010)。本講演では、富士山の低周波地震と火山活動の関係について再検証することを目的として、富士山周辺で得られた地震波形記録にMatched Filter法(MF法)を適用し、低周波地震を詳細に把握することを目指す研究の序報を報告する。
MF法はS/N比の良い地震波形を雛形にして、連続地震波形と雛形地震波形との相関処理により、イベント検知を行う方法である(例えば、Peng & Zhao, 2009)。本研究では、箱根山の低周波地震を検知するMF法を用いたシステムを(行竹, 2017, Yukutake et al., 2019)、富士山に適用できる様に改良した。改良方法について、日本地球惑星科学連合2021年大会で楠城他 (2021)は報告したので、ここでは、その概要を説明する。(1)はじめに、気象庁の一元化震源カタログから雛形地震となる低周波地震を選択し、その地震の波形を雛形波形として準備した。(2)次に、雛形波形に対して、富士山周辺の32観測点で記録された2012-2020年の連続波形と相関処理を行い、雛形地震と相関のあるシグナルが含まれている場合に地震が起きたと判断して、地震を検知した。(3)最後に、検知された地震の震源情報をリスト化した(地震カタログの作成)。
低周波地震の詳細を把握する前に、その大まかな特徴を理解する必要があるという方針で、作成された地震カタログの性能を評価した。(i)2012-2020年の低周波地震はほぼ一定の割合で起きていた。同様の傾向は、気象庁の一元化震源カタログに収録されている低周波地震でも確認した。ただし、前者は年間約1,250個の割合で低周波地震が起きており、後者(年間約125個の割合)の約10倍に相当する。(ii)また、小さい低周波地震ほど数が多く、大きい低周波地震ほど数が少ない傾向にあった。これも、気象庁の一元化震源カタログに収録されている低周波地震で見られる特徴であることを確認した。
現在、2000年代の前半まで連続地震波形を遡って、地震カタログを再構築することを行っている。このことにより、長期間の低周波地震の発生様式が把握できることになる。また、富士山の膨張歪み変化は、2006年頃から少なくとも2009年末まで見られたが(原田他, 2010)、その歪み変化と低周波地震との関係を再検証する研究環境が整うことになる。
さらに、通常の地震の活動推移を把握するために使われている技術を、低周波地震へ適用できるように改良している。例えば、ETAS (Epidemic-Type Aftershock Sequence)を用いて(Ogata, 1999)、低周波地震の活動推移を評価できるか、また、規模別頻度分布を表すグーテンベルグ・リヒター則のb値を用いて(Gutenberg and Richter, 1944)、富士山直下の応力状態の変化を推定できるかなどについて検討している。
本講演では、現在進めている研究の速報も合わせて報告する予定である。
謝辞:本研究では、気象庁一元化震源カタログ、気象庁、防災科学技術研究所及び東京大学地震研究所観測点における地震波形記録を使用した。また、本研究の一部は、公益社団法人ふじのくに地域・大学コンソーシアムの共同研究助成、日本学術振興会による科研費(20K05050, 21K04613)の助成、中部電力株式会社「原子力に係る公募研究」の助成、伊豆半島ジオパーク学術研究助成を受けて実施した。
MF法はS/N比の良い地震波形を雛形にして、連続地震波形と雛形地震波形との相関処理により、イベント検知を行う方法である(例えば、Peng & Zhao, 2009)。本研究では、箱根山の低周波地震を検知するMF法を用いたシステムを(行竹, 2017, Yukutake et al., 2019)、富士山に適用できる様に改良した。改良方法について、日本地球惑星科学連合2021年大会で楠城他 (2021)は報告したので、ここでは、その概要を説明する。(1)はじめに、気象庁の一元化震源カタログから雛形地震となる低周波地震を選択し、その地震の波形を雛形波形として準備した。(2)次に、雛形波形に対して、富士山周辺の32観測点で記録された2012-2020年の連続波形と相関処理を行い、雛形地震と相関のあるシグナルが含まれている場合に地震が起きたと判断して、地震を検知した。(3)最後に、検知された地震の震源情報をリスト化した(地震カタログの作成)。
低周波地震の詳細を把握する前に、その大まかな特徴を理解する必要があるという方針で、作成された地震カタログの性能を評価した。(i)2012-2020年の低周波地震はほぼ一定の割合で起きていた。同様の傾向は、気象庁の一元化震源カタログに収録されている低周波地震でも確認した。ただし、前者は年間約1,250個の割合で低周波地震が起きており、後者(年間約125個の割合)の約10倍に相当する。(ii)また、小さい低周波地震ほど数が多く、大きい低周波地震ほど数が少ない傾向にあった。これも、気象庁の一元化震源カタログに収録されている低周波地震で見られる特徴であることを確認した。
現在、2000年代の前半まで連続地震波形を遡って、地震カタログを再構築することを行っている。このことにより、長期間の低周波地震の発生様式が把握できることになる。また、富士山の膨張歪み変化は、2006年頃から少なくとも2009年末まで見られたが(原田他, 2010)、その歪み変化と低周波地震との関係を再検証する研究環境が整うことになる。
さらに、通常の地震の活動推移を把握するために使われている技術を、低周波地震へ適用できるように改良している。例えば、ETAS (Epidemic-Type Aftershock Sequence)を用いて(Ogata, 1999)、低周波地震の活動推移を評価できるか、また、規模別頻度分布を表すグーテンベルグ・リヒター則のb値を用いて(Gutenberg and Richter, 1944)、富士山直下の応力状態の変化を推定できるかなどについて検討している。
本講演では、現在進めている研究の速報も合わせて報告する予定である。
謝辞:本研究では、気象庁一元化震源カタログ、気象庁、防災科学技術研究所及び東京大学地震研究所観測点における地震波形記録を使用した。また、本研究の一部は、公益社団法人ふじのくに地域・大学コンソーシアムの共同研究助成、日本学術振興会による科研費(20K05050, 21K04613)の助成、中部電力株式会社「原子力に係る公募研究」の助成、伊豆半島ジオパーク学術研究助成を受けて実施した。