3:30 PM - 5:00 PM
[S09P-10] Anomalous seismic activity including shallow low-frequency events near Hakodate: hypocenter distribution and characteristics of waveforms derived by dense seismic observation
本発表では,北海道函館市付近で発生する特異な地震活動について,稠密地震観測によるデータを用いた解析結果について報告する.
北海道函館市沖では,地震予知総合研究振興会(以下,振興会)が設置・運用する地域観測網AS-netによって,地殻内の深さ10 kmより浅部で低周波地震が発生していることが確認された(野口・他,2018).さらに,通常地震もこの低周波地震とほぼ同じあるいは極めて近接した位置で発生していると推定された.従来,低周波地震は,プレート境界浅部で発生するものや火山活動に伴うものを除けば,通常の地震が発生する脆性破壊領域ではなく,より深部の深さ約15~40 kmで発生すると考えられてきた.上記の函館浅部の特異な低周波地震活動は,こうした考えを覆すものである.なお,この特異な活動の領域から5-10 km東の深さ約15-35 kmには,深部低周波地震の活動領域も存在する.こちらは,内陸に点在する深部低周波地震活動の典型的な特徴を示す.
この特異な浅部低周波地震活動について詳細な調査を行うことは,低周波地震一般の発生メカニズムの解明や,地殻内地震との関係の解明のためにも非常に重要である.しかしながら,この地震活動では地震の規模が概ねM2かそれ未満と小さく,既存の観測網では詳しい調査のための地震観測点の密度が十分ではない.このため,振興会と弘前大学は,2018年10月より当該地震活動の周辺に臨時地震観測点の設置を開始した(野口・他,2020).以降,同時に最大で14観測点が展開され,データの蓄積が進んだことから,得られた高密度データを活用した解析を開始した.
震源決定は,函館市付近の浅部の特異な低周波地震活動と,その東側の深部低周波地震活動のイベントを対象に行った.臨時観測点とともに周辺の既存の18観測点のデータを用いた.これら観測点についてWIN systemによる手動検測を行った.臨時観測点は地域が市街地に近く,波形にノイズが多いことから,観測波形によるイベント検出には使用せず,振興会が青森県~北海道南部において独自に決定している震源カタログ(野口・他,2016)の中から,対象のイベントの震源再決定を行った.
浅部の特異な低周波地震活動については,活動が低調なものの8件のイベントが震源決定された.これらの地震については,最も近い観測点(石崎神社,臨時)からの震央距離は1.5 kmほどだが,そこでのS-P時間は1秒未満であり,振興会のカタログによる震源深さよりさらに浅い可能性が示された.再決定された震源位置のばらつきの大きさは最大でも1 km程度であり,非常に狭い範囲で発生していることが示唆された.震源決定プログラムhypomhによる震源決定誤差は概ね0.2-0.5 kmであり,振興会カタログの誤差値のおおよそ半分程度であった.なお,これら8件が通常地震であるか低周波地震であるかについては,少なくとも2件の波形ではS波部分で高周波数成分を欠き継続時間が長いなどの低周波地震の特徴を示したが,その他については一見して判断が難しい波形であった.しかしその他の波形についても,付近の通常地震と比べて波形全体で高周波数成分を欠き,低周波数成分に富む傾向がみられた.気象庁一元化カタログでは,この8件中7件が記載されており,うち3件は低周波地震,他は通常地震とされていた.この3件の低周波地震は,低周波地震の特徴を示す上記2件のイベントを含んでいる.
一方,東側の深部低周波地震の活動については,23イベントが再決定された.これらの波形は典型的な低周波地震のものであり,しばしば連続して発生することから,読み取り精度は高くないが,観測点が増えたことで震源決定がより安定するようになった.
この函館付近の特異な地震活動については,Yoshida et al. (2020)が詳細な解析を行っている.既存観測点のデータで高精度の震源決定を行い,この活動の低周波地震と通常地震は極めて近接していると結論付けた.これは本研究の結果と同様である.また,特に2015-2016年に頻発した一連の通常地震がほぼ同じ場所で発生しており,これらが地殻流体の間隙水圧の急変に伴う「繰り返し地震」であることを示唆している.このような現象は,稠密地震観測の期間では未だ捉えられていない.さらにこの浅部の活動は東側の深部低周波地震活動と関連しており,ともに地殻流体の移動に起因すると推定している.我々は今後も稠密地震観測を続けるとともに,高密度データを活かした解析を行い,こうした仮説の検証にも取り組んでいく予定である.
謝辞
臨時観測点の設置・運用にあたり,函館市をはじめとする関係各位には多大なご協力をいただきました.また,本研究では,防災科学技術研究所,気象庁,北海道大学,東北大学,青森県による地震観測データを使用しています.記して感謝いたします.
参考文献
Yoshida, K., A. Hasegawa, S. Noguchi and K. Kasahara (2020), Low-frequency earthquakes observed in close vicinity of repeating earthquakes in the brittle upper crust of Hakodate, Hokkaido, northern Japan, Geophysical Journal International, 223(3), 1724-1740, December 2020. https://doi.org/10.1093/gji/ggaa418
野口科子・関根秀太郎・澤田義博・笠原敬司・佐々木俊二・田澤芳博・矢島浩・石田貴美子(2016),AS-netによる青森県・北海道南西部の震源分布,日本地震学会2016年度秋季大会,名古屋,2016年10月,S09-P16.
野口科子・関根秀太郎・澤田義博・笠原敬司・佐々木俊二・田澤芳博・矢島浩・阿部信太郎・石田貴美子(2018),高密度観測網AS-netで捉えられた東北地方北部~北海道南西部の低周波イベントの分布と特徴,日本地震学会2018年度秋季大会,郡山,2018年10月,S23-P26.
野口科子・笠原敬二・小菅正裕・前田拓人・雨澤勇太・春山太一・石田早祐美・松野有希・大類樹(2020),函館市付近の浅部低周波地震と通常地震が混在する地震活動を対象とした稠密地震観測,日本地球惑星科学連合2020年大会,SSS13-P06.
北海道函館市沖では,地震予知総合研究振興会(以下,振興会)が設置・運用する地域観測網AS-netによって,地殻内の深さ10 kmより浅部で低周波地震が発生していることが確認された(野口・他,2018).さらに,通常地震もこの低周波地震とほぼ同じあるいは極めて近接した位置で発生していると推定された.従来,低周波地震は,プレート境界浅部で発生するものや火山活動に伴うものを除けば,通常の地震が発生する脆性破壊領域ではなく,より深部の深さ約15~40 kmで発生すると考えられてきた.上記の函館浅部の特異な低周波地震活動は,こうした考えを覆すものである.なお,この特異な活動の領域から5-10 km東の深さ約15-35 kmには,深部低周波地震の活動領域も存在する.こちらは,内陸に点在する深部低周波地震活動の典型的な特徴を示す.
この特異な浅部低周波地震活動について詳細な調査を行うことは,低周波地震一般の発生メカニズムの解明や,地殻内地震との関係の解明のためにも非常に重要である.しかしながら,この地震活動では地震の規模が概ねM2かそれ未満と小さく,既存の観測網では詳しい調査のための地震観測点の密度が十分ではない.このため,振興会と弘前大学は,2018年10月より当該地震活動の周辺に臨時地震観測点の設置を開始した(野口・他,2020).以降,同時に最大で14観測点が展開され,データの蓄積が進んだことから,得られた高密度データを活用した解析を開始した.
震源決定は,函館市付近の浅部の特異な低周波地震活動と,その東側の深部低周波地震活動のイベントを対象に行った.臨時観測点とともに周辺の既存の18観測点のデータを用いた.これら観測点についてWIN systemによる手動検測を行った.臨時観測点は地域が市街地に近く,波形にノイズが多いことから,観測波形によるイベント検出には使用せず,振興会が青森県~北海道南部において独自に決定している震源カタログ(野口・他,2016)の中から,対象のイベントの震源再決定を行った.
浅部の特異な低周波地震活動については,活動が低調なものの8件のイベントが震源決定された.これらの地震については,最も近い観測点(石崎神社,臨時)からの震央距離は1.5 kmほどだが,そこでのS-P時間は1秒未満であり,振興会のカタログによる震源深さよりさらに浅い可能性が示された.再決定された震源位置のばらつきの大きさは最大でも1 km程度であり,非常に狭い範囲で発生していることが示唆された.震源決定プログラムhypomhによる震源決定誤差は概ね0.2-0.5 kmであり,振興会カタログの誤差値のおおよそ半分程度であった.なお,これら8件が通常地震であるか低周波地震であるかについては,少なくとも2件の波形ではS波部分で高周波数成分を欠き継続時間が長いなどの低周波地震の特徴を示したが,その他については一見して判断が難しい波形であった.しかしその他の波形についても,付近の通常地震と比べて波形全体で高周波数成分を欠き,低周波数成分に富む傾向がみられた.気象庁一元化カタログでは,この8件中7件が記載されており,うち3件は低周波地震,他は通常地震とされていた.この3件の低周波地震は,低周波地震の特徴を示す上記2件のイベントを含んでいる.
一方,東側の深部低周波地震の活動については,23イベントが再決定された.これらの波形は典型的な低周波地震のものであり,しばしば連続して発生することから,読み取り精度は高くないが,観測点が増えたことで震源決定がより安定するようになった.
この函館付近の特異な地震活動については,Yoshida et al. (2020)が詳細な解析を行っている.既存観測点のデータで高精度の震源決定を行い,この活動の低周波地震と通常地震は極めて近接していると結論付けた.これは本研究の結果と同様である.また,特に2015-2016年に頻発した一連の通常地震がほぼ同じ場所で発生しており,これらが地殻流体の間隙水圧の急変に伴う「繰り返し地震」であることを示唆している.このような現象は,稠密地震観測の期間では未だ捉えられていない.さらにこの浅部の活動は東側の深部低周波地震活動と関連しており,ともに地殻流体の移動に起因すると推定している.我々は今後も稠密地震観測を続けるとともに,高密度データを活かした解析を行い,こうした仮説の検証にも取り組んでいく予定である.
謝辞
臨時観測点の設置・運用にあたり,函館市をはじめとする関係各位には多大なご協力をいただきました.また,本研究では,防災科学技術研究所,気象庁,北海道大学,東北大学,青森県による地震観測データを使用しています.記して感謝いたします.
参考文献
Yoshida, K., A. Hasegawa, S. Noguchi and K. Kasahara (2020), Low-frequency earthquakes observed in close vicinity of repeating earthquakes in the brittle upper crust of Hakodate, Hokkaido, northern Japan, Geophysical Journal International, 223(3), 1724-1740, December 2020. https://doi.org/10.1093/gji/ggaa418
野口科子・関根秀太郎・澤田義博・笠原敬司・佐々木俊二・田澤芳博・矢島浩・石田貴美子(2016),AS-netによる青森県・北海道南西部の震源分布,日本地震学会2016年度秋季大会,名古屋,2016年10月,S09-P16.
野口科子・関根秀太郎・澤田義博・笠原敬司・佐々木俊二・田澤芳博・矢島浩・阿部信太郎・石田貴美子(2018),高密度観測網AS-netで捉えられた東北地方北部~北海道南西部の低周波イベントの分布と特徴,日本地震学会2018年度秋季大会,郡山,2018年10月,S23-P26.
野口科子・笠原敬二・小菅正裕・前田拓人・雨澤勇太・春山太一・石田早祐美・松野有希・大類樹(2020),函館市付近の浅部低周波地震と通常地震が混在する地震活動を対象とした稠密地震観測,日本地球惑星科学連合2020年大会,SSS13-P06.