日本地震学会2021年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(1日目)

一般セッション » S09. 地震活動とその物理

P

2021年10月14日(木) 15:30 〜 17:00 P3会場 (P会場)

15:30 〜 17:00

[S09P-14] エンベロープ相関と振幅に基づく浅部低周波地震モニタリングシステム

〇溜渕 功史1、小木曽 仁1 (1.気象研究所)

浅部低周波地震(微動)は,普通の地震に比べて低周波域が卓越し,継続時間が長い特徴があるすべり現象である.南海トラフ沿いでは,海溝軸付近で浅部低周波地震が海底地震観測により観測されている (e.g. Annoura et al. 2017, Tamaribuchi et al. 2019).浅部低周波地震は,広帯域地震計で観測される超低周波地震や,測地観測によるスロースリップと同期して発生することが知られており (Nakano et al. 2018),プレート境界あるいは分岐断層上で発生する断層すべりによるものと考えられる.これらのスロー地震は,1週間–1か月程度活発になり,その後数年間活動がないなど,エピソード的に発生する.さらに,遠方で発生した大地震,潮汐によって誘発されることがあるので,応力変化に敏感なストレスメータとしてふるまう.
近年ではDONET 等のケーブル式海底地震観測網の進展により,リアルタイムでの地震観測体制が構築されている.これまで,低周波微動の解析では主にエンベロープ相関法(Obara 2002)が用いられてきた.浅部の場合,ソースと観測点が深部に比べて近く,パスが観測点によって大きく異なることから,必ずしもエンベロープの相互相関が良いとは限らない.そこで本研究では,エンベロープ最大振幅も同時に考慮した震源決定プログラムを開発した.これにより,南海トラフ浅部のスロースリップの監視強化に寄与することを目的とする.
データは,DONETの広帯域速度波形の記録で,水平2成分を使用した.まず連続波形から微動を検出し,次に検出した時刻付近の波形を用いて震源推定を行う.連続波形から微動を検出する方法として,Frequency scanning method (FSM) (Sit et al. 2012, Katakami et al. 2017) を用いた.FSM は微動の特徴的な周波数帯である2-8 Hz が他の周波数帯に比べて卓越する時間帯を検出する.3 種類のバンドパスフィルタ(帯域T: 2–5 Hz, E: 10–15 Hz, S: 0.02–0.1 Hz)を適用し,R=T2/ESを観測点ごとに求めた.R値の時系列から漸化式フィルタでSTA/LTAを求め,STA/LTAが2倍以上の場合に微動検出とした.
次に,エンベロープ波形からエンベロープ相関法 (Obara 2002) により相対走時を計算する.また,最大振幅分布から,震源位置を推定するAmplitude Source Location (Battaglia and Aki 2003) を併用して最尤法で震源を推定した.ここでは,相対走時と振幅は独立変数なので,単純にそれぞれの尤度を分散で規格化して積を取った.尤度関数には,正規分布の代わりに異常値にロバストなコーシー分布を採用した.また,震源誤差を見積もるため,最尤値探索には重点サンプリングを用いた.得られた震源分布から,クラスタリングを行った.クラスタリング条件は,一元化震源と比較して通常の地震を取り除き,1時間以内かつ震央距離20 km以内に震源が3個以上決定された場合に結果を出力した.
本手法を2020年12月~2021年1月の地震波形に適用した.暫定的な結果ではあるが,クラスタリング後で約3800個(クラスタリング前で約7000個)が決定された.震源分布は概ね海溝軸に沿って東西に分布しており,マイグレーションやRapid tremor reversalなどが観測された.振幅のみで決定した小木曽・溜渕(2021, 本大会)との結果と調和的である.
今後,リアルタイムモニタリングシステムを構築するとともに,長期間の解析を行い,微動検出や震源推定の安定性や精度などを確認する予定である.

謝辞
MOWLAS DONET (https://doi.org/10.17598/nied.0008) の地震波形を使用しました.サイト増幅特性にはYabe et al. (2021) を使用させていただきました.解析には東京大学地震研究所共同利用 (2021-F3-12) 大規模地震連続波形データ解析システムを利用しました.一元化震源を使用しました.