日本地震学会2021年度秋季大会

講演情報

C会場

一般セッション » S10. 活断層・歴史地震

AM-2

2021年10月16日(土) 11:00 〜 12:15 C会場 (C会場)

座長:石村 大輔(東京都立大学)、白濱 吉起(産業技術総合研究所)

11:30 〜 11:45

[S10-03] 熊本県西原村布田における布田川断層の活動履歴

〇石村 大輔1、岩佐 佳哉2、高橋 直也3、小田 龍平1、田所 龍二4 (1.東京都立大学、2.広島大学、3.東北大学、4.千葉大学)

2016年熊本地震の際には,主断層である布田川断層沿い以外にも広範囲に地表地震断層(以後,地震断層)が出現した.我々の研究グループでは,それら副次的な断層(以後,副断層)の活動履歴を明らかにするとともに,主断層である布田川断層との同時性を議論するために,2019年に熊本県西原村布田でトレンチ掘削調査を行った.本発表では,そのトレンチ調査結果を報告するとともに,我々がこれまでに行った副断層上でのトレンチ調査結果との比較を行う.
 2016年熊本地震では,数多くの地震断層が出現した(Fujiwara et al., 2016).主断層である布田川断層と日奈久断層の北部に加え,出ノ口断層や阿蘇カルデラ北西部の断層群といった事前に位置が推定されていた断層と事前に位置が推定されていなかった断層上にも地震断層が出現した.これら副断層の活動履歴に関して,Ishimura et al. (2021)により阿蘇カルデラ北東部の宮地断層上で掘削されたトレンチ調査から,約2000年前に2016年と同様の変位を示す断層活動が認められた.また,Fukushima and Ishimura (2020)は,この宮地断層のすべりは深度1.5 km以浅に限られることを指摘し,地下構造としては布田川断層からは独立したものであることを示した.このように2016年熊本地震で出現した副断層の少なくとも一部は,非常に小さな変位であったとしても過去にも繰り返し活動しており,さらにその活動時期は主断層である布田川断層と同時である可能性を指摘できる.
 一方,布田川断層の古地震調査に関しては,2016年熊本地震で認識されるようになった活断層トレースである東端部(カルデラ内)や益城町にかけて連続する分岐断層上で行われたものが多く,布田川断層の中央部での活動履歴は不明であった.そこで本研究では,布田川断層中央部の古地震履歴を明らかにするとともに,副断層の活動履歴と比較可能な高精度な活動履歴情報取得を目的として,西原村布田でトレンチ調査を行った.
 トレンチ位置は,石村(2019)で報告された布田川右岸の断層露頭の東延長部にあたる.トレンチサイトでは,右横ずれを示す雁行配列した地震断層と南落ちの地震断層の2条が認められる.本研究では,より確実度の高い活動履歴解明を目的としているため,2条の断層を横断する計5つのトレンチを掘削した.このような手法により,各トレンチで共通する断層活動履歴の確実度が増し,また1つのトレンチでは不確実な断層活動を他のトレンチで検討することが可能となる.
 断層トレンチ壁面では,鬼界アカホヤ(K-Ah:7,300年前)テフラ,姶良Tn(AT:30,000年前)テフラ,草千里ヶ浜軽石(Kpfa:32,500年前)が確認された(年代は,Smith et al.(2013)とMclean et al.(2020)).いずれのトレンチでも,2016年の変位に加えて,3万年前以降の断層活動が認められた.特にK-Ah以降には,2016年熊本地震を含めて計4回の活動履歴が認められた.活動履歴は,各トレンチで共通して認められた断層イベントを中心に,断層による上下変位の累積性や亀裂充填堆積物から推定された.それらの年代を,放射性炭素年代結果に基づき推定した.K-Ahテフラより古い断層イベントに関しては,1つの地層に多くの断層活動が記録されているため,その地層堆積中に活動した1つ1つの断層活動を区別できていない可能性があるため,詳細な年代推定は行っていない.
 次に,副断層上で行ったトレンチ調査の古地震履歴との比較を行う.我々が掘削した宮地断層(Ishimura et al., 2021)と出ノ口断層上でのトレンチ調査結果と比較すると,K-Ah以降の活動履歴はほぼ重なる.放射性炭素年代の誤差を考えると別のタイミングで活動した可能性を棄却することはできないが,2016年熊本地震で起きた現象を考えると,主断層である布田川断層と2016年に出現した副断層は過去にも同時に活動してきたことが推定される.さらに各トレンチの活動年代が重なる部分を布田川断層の活動年代とすると,その活動間隔は概ね2,000年程度である.このことは最近4回は比較的同じ時間間隔で発生していること示唆する.

【引用文献】Fujiwara et al. (2016) EPS, 68, 160. Fukushima and Ishimura (2020) EPS, 72, 175. Ishimura et al. (2021) EPS, 73, 39. 石村(2019)活断層研究,50, 33-44. Mclean et al. (2020) Geochemistry, Geophysics, Geosystems, 21, e2019GC008874. Smith et al.(2013)QSR, 67, 121-137.