日本地震学会2021年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

一般セッション » S12. 岩石実験・岩石力学・地殻応力

P

2021年10月15日(金) 15:30 〜 17:00 P7会場 (P会場)

15:30 〜 17:00

[S12P-01] 注水による誘発地震の発生過程研究に向けた寒天ゲルを用いた光弾性実験システムの構築

〇吉光 奈奈1、福山 英一1,2、平野 史朗3、大嵜 雅人1 (1.京都大学、2.防災科研、3.立命館大学)

近年の資源採掘技術の進歩はこれまで以上に生産率を上げることを可能にしたが,採掘の影響で発生する誘発地震がしばしば問題となっている.その一因として,ボアホールヘの流体注入の影響が指摘されている.注入された流体が地殻中の既存弱面の強度を下げ,地震が発生しやすくなると考えられている.この過程における弱面や地殻内の応力変化を視覚的に観察することを目指して,本研究では寒天ゲルを用いた光弾性実験システムの確立を目指した.光弾性とは,透明な弾性体に外力を加えると応力の大きさに応じて光学的異方性が発生する現象であり,機械や構造物にかかる応力の解析にしばしば利用されてきた.光弾性を地震メカニズムの研究に利用した例は,Rosakis et al. (1999, Science)やYoshioka and Sakaguchi (2008, Advanced in Geosciences)のプラスチックを用いた実験事例がある.桑野 (2015, 東レ理科教育賞 受賞作品集)や桑野・他 (2011, 日本地震学会ニュースレター)は弾性波速度の遅い寒天ゲルを利用することで,波動伝播や断層の動的破壊が観察できることを示した.

薄板状にした寒天ゲル媒質を二次元モデルとして,ボアホールを模したアクリルパイプを介して注射器から水を注入し,媒質中を水が伝播する様子や断層が滑る様子を観察する.実験では150 mm x 30 mm x 150 mmの薄型水槽にゲルを注入して固めた.媒質の作成には粉状になった寒天末を利用した.異なる濃度の試料を複数作成・比較したところ,高濃度の硬い媒質には人力での安定的な注水が困難であったため,濃度1%の媒質を解析に用いることとした.光弾性実験から得られる応力情報は主応力差と主応力方向であるが,これらの情報を視覚的に分離するために,光源-偏光板A-1/4波長板A-ターゲット媒質-1/4波長板B-偏光板B-カメラ, の順に波長板と媒質を配置することで,円偏光を用いて等色線縞(主応力差)を得た.

まず断層のない媒質に注水を実施したところ,パイプ先端からモードIで亀裂を生成しながら左右に水が浸透していく様子が見られた.その際に,開口部先端の亀裂進展方向と直交する方向に強い応力集中が認められた.また硬さの違うゲルを用いてパイプに対して45度の角度で層境界を作成したところ,層境界の破壊は弱面のない部分の破壊に比べてはるかに高速で亀裂が進展した.

観察の結果から,これまで用いられてきた光弾性媒質よりもやわらかい寒天ゲルを用いることで,媒質内における流体の動きとそれに伴う応力変化を観察できることがわかった.今後,媒質や断層により適切な強度を与えるために実験条件を精査するとともに,応力の時空間変化の定量的解析を試みる.