3:30 PM - 5:00 PM
[S13P-01] Shear wave splitting analysis for the crust in Iwaki area, Fukushima Prefecture, northeast Japan
地殻内に存在する流体、とりわけ深部からの流体の流入は、地震発生を議論する上で重要なファクターであるとともに、地層処分事業においても、地層処分システムにおける閉じ込め機能の喪失という観点から懸念事項とされている。このような問題に対し、地震学などの地球物理学的観測から地下のイメージングを行い、流体の存在や移動経路を明らかにすることは有効であると考えられる。そこで、原子力機構では、S波が流体やクラックなどの異方性媒質中を通過する際、二つに分離するという特徴に着目し、S波スプリッティング解析を用いた地殻内流体の移動経路推定手法の開発に取り組んでいる。本研究では、2011年東北地方太平洋沖地震(以下、2011年東北地震)の発生後に地殻内の地震活動が活発になった福島県浜通りから茨城県北部にかけての地域を対象に実施したS波スプリッティング解析について報告を行う。
上記の領域では、2011年東北地震の発生後、2011年3月19日にM6.1、3月23日にM6.0、M5.8、M5.5、M5.8のいずれも西北西-東南東から東-西方向に伸張軸をもつ正断層型の地震が相次いで発生した(気象庁・気象研究所, 2011)。さらに、4月11日には、福島県浜通りで東北東-西南西方向に張力軸を持つ正断層型のM7.0の地震(福島県浜通りの地震)が発生し、活断層とされる井戸沢断層と湯ノ岳断層の一部で同時に破壊が生じ震源断層が現れている(堤・遠田, 2012)。また、この地震直後から、いわき市内の数か所で温泉の異常な湧き出しが報告され、その湧水は湧出量の変化を生じつつも、2018年以降も継続した(Sato et al., 2020)。
このような背景に基づき、本研究では、2011年東北地震及び福島県浜通りの地震発生前後の二つの期間に分けてS波スプリッティング解析を進めた。使用したデータは、これらの地震前(期間Ⅰ)については、2004年4月28日から2011年1月6日までに30 km以浅で発生したMj 1.5~3.2の675イベント、地震後(期間Ⅱ)については、2011年6月1日から2011年12月30日までに30 km以浅で発生したMj 1.5~1.9の4159イベントの地震波形である。また、利用した観測点は、福島・茨城・栃木県に位置する防災科学技術研究所の高感度地震観測網、気象庁、東北大学が運用する18観測点である。解析には、Silver and Chan(1991)による手法を用い、速いS波の振動方向(φ)と遅いS波が到達するまでの時間差(dt)の推定を行った。さらに、SP変換波によるS波到達時の位相擾乱を避けるため、鉛直下向きより各観測点への波線の入射角が35°以内となる震源と観測点の組み合わせを対象とした。そして、速いS波と遅いS波の波形の相関係数が0.9以上となる地震を採用し、φやdtの空間分布について調べた。
期間Ⅰでは、φ分布のヒストグラムを作成するにあたり、十分な地震数であるとは言い難いものの、沿岸部で最大水平圧縮応力や太平洋プレートの収束方向(Yoshida et al., 2015)である西北西-東南東方向ではなく、海溝に対し平行な方向への分布が卓越し、内陸部でも同様の特徴が示された。期間Ⅱについても、沿岸部で、おおむね海溝に対して平行な方向へのφ分布が卓越し、内陸部でも、最大水平圧縮応力や太平洋プレートの収束方向とは異なり、南北方向から北東-南西方向へのφ分布が示された。これらの結果は、先行研究(Iidaka and Obara, 2013; Iidaka et al., 2014)で示されたものと調和的であった。また、期間ⅠとⅡを通してφ分布の比較を行うと、数十度程度の違いが見られる観測点はいくつかあるものの、大きな変化はなかった。
続いて、地震数が十分に確保された期間Ⅱについて、dtを震源距離で規格化した値(距離規格化dt)の平均値に関する空間分布について調べた。この結果、ほとんどの観測点で距離規格化dtの平均値が0.005 sec/km以下となったが、観測点IWAKMZやHITACHで相対的に高い値が示されることが明らかとなった。とくに、観測点IWAKMZは、Sato et al.(2020)で示された湧水の継続している温泉付近に存在することから、地殻内に存在する深部流体の影響を反映し、他の観測点に比べて大きな距離規格化dtの平均値が得られたことが示唆される。なお、同観測点は、いわき市三和町の水石山(みずいしやま)公園内に設置されており、水石山の起源が、山頂に水が溜まっている石があり、日照りでも枯れることがないという言い伝えに由来している。このことからも、同領域付近は定常的に流体の豊富な地域であることが示唆され、今回の解析で得られた結果を支持する。
一方で、Umeda et al.(2015)は、2013年11月から12月に解析対象領域の南部で電磁探査を行っている。その結果では、太平洋沿岸の海岸線から陸域に向けて長さ約30 km程度、深さ20~30 kmの領域に低比抵抗領域が存在し、その直上に福島県浜通りの地震に関連した地震活動が集中している。この電磁探査の測線は、観測点N.JUOHとN.KIBHの間に位置することから、地殻内に流体が存在すると仮定した場合、距離規格化dtの平均値が相対的に高い値をとることが期待されたが、同観測点で相対的に大きな値は示されなかった。いくつかの理由として、電磁探査の測線を横切るような地震が今回の解析に含まれなかったこと、電磁探査で見えた低比抵抗領域が不連続な分布で島弧と平行な方向へ広がっていないことなどが考えられる。これについては、解析期間を延長するなどしてデータの拡充を行い、電磁探査の結果との対応関係についても議論を進めたい。
本発表は、経済産業省資源エネルギー庁からの委託事業である「令和2年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である。
上記の領域では、2011年東北地震の発生後、2011年3月19日にM6.1、3月23日にM6.0、M5.8、M5.5、M5.8のいずれも西北西-東南東から東-西方向に伸張軸をもつ正断層型の地震が相次いで発生した(気象庁・気象研究所, 2011)。さらに、4月11日には、福島県浜通りで東北東-西南西方向に張力軸を持つ正断層型のM7.0の地震(福島県浜通りの地震)が発生し、活断層とされる井戸沢断層と湯ノ岳断層の一部で同時に破壊が生じ震源断層が現れている(堤・遠田, 2012)。また、この地震直後から、いわき市内の数か所で温泉の異常な湧き出しが報告され、その湧水は湧出量の変化を生じつつも、2018年以降も継続した(Sato et al., 2020)。
このような背景に基づき、本研究では、2011年東北地震及び福島県浜通りの地震発生前後の二つの期間に分けてS波スプリッティング解析を進めた。使用したデータは、これらの地震前(期間Ⅰ)については、2004年4月28日から2011年1月6日までに30 km以浅で発生したMj 1.5~3.2の675イベント、地震後(期間Ⅱ)については、2011年6月1日から2011年12月30日までに30 km以浅で発生したMj 1.5~1.9の4159イベントの地震波形である。また、利用した観測点は、福島・茨城・栃木県に位置する防災科学技術研究所の高感度地震観測網、気象庁、東北大学が運用する18観測点である。解析には、Silver and Chan(1991)による手法を用い、速いS波の振動方向(φ)と遅いS波が到達するまでの時間差(dt)の推定を行った。さらに、SP変換波によるS波到達時の位相擾乱を避けるため、鉛直下向きより各観測点への波線の入射角が35°以内となる震源と観測点の組み合わせを対象とした。そして、速いS波と遅いS波の波形の相関係数が0.9以上となる地震を採用し、φやdtの空間分布について調べた。
期間Ⅰでは、φ分布のヒストグラムを作成するにあたり、十分な地震数であるとは言い難いものの、沿岸部で最大水平圧縮応力や太平洋プレートの収束方向(Yoshida et al., 2015)である西北西-東南東方向ではなく、海溝に対し平行な方向への分布が卓越し、内陸部でも同様の特徴が示された。期間Ⅱについても、沿岸部で、おおむね海溝に対して平行な方向へのφ分布が卓越し、内陸部でも、最大水平圧縮応力や太平洋プレートの収束方向とは異なり、南北方向から北東-南西方向へのφ分布が示された。これらの結果は、先行研究(Iidaka and Obara, 2013; Iidaka et al., 2014)で示されたものと調和的であった。また、期間ⅠとⅡを通してφ分布の比較を行うと、数十度程度の違いが見られる観測点はいくつかあるものの、大きな変化はなかった。
続いて、地震数が十分に確保された期間Ⅱについて、dtを震源距離で規格化した値(距離規格化dt)の平均値に関する空間分布について調べた。この結果、ほとんどの観測点で距離規格化dtの平均値が0.005 sec/km以下となったが、観測点IWAKMZやHITACHで相対的に高い値が示されることが明らかとなった。とくに、観測点IWAKMZは、Sato et al.(2020)で示された湧水の継続している温泉付近に存在することから、地殻内に存在する深部流体の影響を反映し、他の観測点に比べて大きな距離規格化dtの平均値が得られたことが示唆される。なお、同観測点は、いわき市三和町の水石山(みずいしやま)公園内に設置されており、水石山の起源が、山頂に水が溜まっている石があり、日照りでも枯れることがないという言い伝えに由来している。このことからも、同領域付近は定常的に流体の豊富な地域であることが示唆され、今回の解析で得られた結果を支持する。
一方で、Umeda et al.(2015)は、2013年11月から12月に解析対象領域の南部で電磁探査を行っている。その結果では、太平洋沿岸の海岸線から陸域に向けて長さ約30 km程度、深さ20~30 kmの領域に低比抵抗領域が存在し、その直上に福島県浜通りの地震に関連した地震活動が集中している。この電磁探査の測線は、観測点N.JUOHとN.KIBHの間に位置することから、地殻内に流体が存在すると仮定した場合、距離規格化dtの平均値が相対的に高い値をとることが期待されたが、同観測点で相対的に大きな値は示されなかった。いくつかの理由として、電磁探査の測線を横切るような地震が今回の解析に含まれなかったこと、電磁探査で見えた低比抵抗領域が不連続な分布で島弧と平行な方向へ広がっていないことなどが考えられる。これについては、解析期間を延長するなどしてデータの拡充を行い、電磁探査の結果との対応関係についても議論を進めたい。
本発表は、経済産業省資源エネルギー庁からの委託事業である「令和2年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である。