15:30 〜 17:00
[S13P-02] S波スプリッティング解析による御嶽山周辺の異方性構造
御嶽山周辺では,1979年の噴火以降,2007年,2014年にも小規模な水蒸気噴火が発生し,さらに1984年長野県西部地震や2017年長野県南部の地震(Mj5.6)をはじめとした御嶽山南東麓での活発な地震活動が見られる.このような様々なイベントが発生する領域では,かなり不均質な地殻構造が予想され,御嶽山近傍には地殻流体の存在も予想される.断層のような不均質構造や地殻流体の検出に有用なツールの1つとして,S波スプリッティング解析法が挙げられる.そこで本研究では,このような御嶽山周辺域における常設地震観測点で記録された連続地震波形データを用いたS波スプリッティング解析を行うことにより,領域内の地殻異方性構造の推定を試みた.
解析にあたっては,気象庁一元化震源カタログから,解析対象領域内で2004年4月1日から2019年12月31日までに発生したMj1.5以上の地震3223個(深さ20km以下)を選んだ.これらの地震について,御嶽山周辺域に展開されている常設地震観測点(Hi-net,気象庁,大学)で観測された連続波形データを用いた.はじめに,Nakajima and Hasegawa (2007)による地震波速度構造を用いて,各観測点における1次元速度構造を仮定した.この仮定した速度構造と気象庁一元化震源から,それぞれのイベントによる各観測点に到来する地震波の入射角を推定し,入射角35度未満の震源-観測点ペアのみに解析対象を限定した.これは,入射角が高角度な場合に生じうる,地表でのS-P変換波の影響(e.g., Booth and Crampin, 1985)を排除するためである.入射角35度未満の観測点-震源ペアについて,Silver and Chan (1991)の手法を適用して,速いS波の偏向方向および,速いS波と遅いS波とのarrival timeの差を推定した.
上述の解析の結果,多くの観測点でこの領域の最大水平圧縮応力の方向(WNW-ESE)と概ね平行な速いS波の偏向方向が得られたが,一部の観測点ではそれと直交するような速いS波の偏向方向が推定された.前者については応力起源の地震波異方性を,後者については構造起源の地震波異方性を反映しているものと考えられる.しかしながら,近接した観測点で互いに90度異なるような速いS波の偏向方向が推定されるケースも見られた.Crampin et al. (2004)は,90度異なる速いS波の偏向方向を異方性のある多孔質弾性体でモデル化し,観測点下におけるマイクロクラック分布の形状の,間隙流体圧の変化によるクラックの開口や閉口による再配列の結果,90度異なる速いS波の偏向方向が生じることを提唱している.発表では,本研究において近接する観測点で推定された90度異なる速いS波の偏向方向が,間隙流体圧の変化で説明可能かどうかを検討する.
謝辞: 本研究では,防災科学技術研究所 Hi-net,気象庁 地震・津波検知網,気象庁 火山観測網,東京大学地震観測網,名古屋大学地震観測網のデータを使用させていただきました.また,本研究は,経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和2~3年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である.
参考文献:
・Booth, D. C. and S. Crampin, Shear-wave polarizations on a curved wave- front at anisotropic free surface, Geophys. J. R. Astron. Soc., 83, 31–45, 1985.
・Crampin, S., Peacock, S., Gao, Y. and Chastin, S., The scatter of time-delays in shear-wave splitting above small earthquakes. Geophys. J. Int., 156, 39–44, 2004.
・Nakajima, J., and A. Hasegawa, Subduction of the Philippine Sea plate beneath southwestern Japan: Slab geometry and its relationship to arc magmatism, J. Geophys. Res., 112, B08306, doi:10.1029/2006JB004770, 2007.
・Silver, P. G. and W. W. Chan, Shear wave splitting and subcontinental mantle deformation, J. Geophys. Res., 96, 16429–16454, 1991.
解析にあたっては,気象庁一元化震源カタログから,解析対象領域内で2004年4月1日から2019年12月31日までに発生したMj1.5以上の地震3223個(深さ20km以下)を選んだ.これらの地震について,御嶽山周辺域に展開されている常設地震観測点(Hi-net,気象庁,大学)で観測された連続波形データを用いた.はじめに,Nakajima and Hasegawa (2007)による地震波速度構造を用いて,各観測点における1次元速度構造を仮定した.この仮定した速度構造と気象庁一元化震源から,それぞれのイベントによる各観測点に到来する地震波の入射角を推定し,入射角35度未満の震源-観測点ペアのみに解析対象を限定した.これは,入射角が高角度な場合に生じうる,地表でのS-P変換波の影響(e.g., Booth and Crampin, 1985)を排除するためである.入射角35度未満の観測点-震源ペアについて,Silver and Chan (1991)の手法を適用して,速いS波の偏向方向および,速いS波と遅いS波とのarrival timeの差を推定した.
上述の解析の結果,多くの観測点でこの領域の最大水平圧縮応力の方向(WNW-ESE)と概ね平行な速いS波の偏向方向が得られたが,一部の観測点ではそれと直交するような速いS波の偏向方向が推定された.前者については応力起源の地震波異方性を,後者については構造起源の地震波異方性を反映しているものと考えられる.しかしながら,近接した観測点で互いに90度異なるような速いS波の偏向方向が推定されるケースも見られた.Crampin et al. (2004)は,90度異なる速いS波の偏向方向を異方性のある多孔質弾性体でモデル化し,観測点下におけるマイクロクラック分布の形状の,間隙流体圧の変化によるクラックの開口や閉口による再配列の結果,90度異なる速いS波の偏向方向が生じることを提唱している.発表では,本研究において近接する観測点で推定された90度異なる速いS波の偏向方向が,間隙流体圧の変化で説明可能かどうかを検討する.
謝辞: 本研究では,防災科学技術研究所 Hi-net,気象庁 地震・津波検知網,気象庁 火山観測網,東京大学地震観測網,名古屋大学地震観測網のデータを使用させていただきました.また,本研究は,経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和2~3年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である.
参考文献:
・Booth, D. C. and S. Crampin, Shear-wave polarizations on a curved wave- front at anisotropic free surface, Geophys. J. R. Astron. Soc., 83, 31–45, 1985.
・Crampin, S., Peacock, S., Gao, Y. and Chastin, S., The scatter of time-delays in shear-wave splitting above small earthquakes. Geophys. J. Int., 156, 39–44, 2004.
・Nakajima, J., and A. Hasegawa, Subduction of the Philippine Sea plate beneath southwestern Japan: Slab geometry and its relationship to arc magmatism, J. Geophys. Res., 112, B08306, doi:10.1029/2006JB004770, 2007.
・Silver, P. G. and W. W. Chan, Shear wave splitting and subcontinental mantle deformation, J. Geophys. Res., 96, 16429–16454, 1991.