14:15 〜 14:30
[S14-01] 発生年不確定の繰り返し地震Brownian Passage Timeモデルへの重み付き尤度法の適用と最尤推定値解析解
はじめに
繰り返し地震として複数の時系列が候補とされ,一つの時系列に特定できない場合がある.このような場合,各時系列の信頼性に応じた重み付き尤度関数を用いて,平均的なモデルパラメータを推定することができる(Imoto and Fujiwara, 2012,EPS).離水地形や津波堆積物など地形地質学的手法により特定される地震には,標本の年代測定に起因する発生時期の不確定性がある.このような場合も,発生年が連続的に変化する複数の時系列として重み付き尤度法を適用できる.発生年不確定な地震時系列の更新過程モデルについてはすでに尤度関数が提案されているが(Ogata,1999,JGR),この式による最尤推定値は偏ることが報告されている(井元他,2021,JPGU).ここでは,発生年不確定の繰り返し地震更新過程モデルに適用した重み付き尤度法を紹介し,地震間隔分布がBrownian Passage Time (BPT)分布の場合の最尤推定値解析解を導く.得られた関係式を用いて,相模トラフ沿いのM8クラス地震について離水地形データからBPT分布モデルの最尤推定値を求める.
重み付き尤度法
Imoto and Fujiwaraは,M8クラス関東地震の複数の歴史地震時系列への重み付き尤度法の適用で,各時系列の対数尤度関数を重み付き加算し対数尤度関数としている.発生年不確定な時系列では地震発生年が連続的に変化するため,地震発生年を積分変数とした対数尤度関数の多重積分により重み付き尤度関数を表現できる. 重み付き尤度法では,データに対する信頼度に応じて重みをつける.年代測定の結果として発生年の確率密度関数が報告されている場合には,それを重みとして用いることができる.確率密度がわからない場合には,発生年は一様分布であると考える.この場合には,重み付き尤度関数は(1)式(表1)で表される.積分範囲は各地震の不確定期間((ai,bi,),i=1,2,...n)となる.不確定期間が相互に一部重なる場合には,発生年の逆転を避ける(t1 < t2<...<tn )条件付き積分となる.地震間隔の確率密度関数は(2)式BPT分布で与える.モデルパラメータμおよび αをそれぞれ平均間隔およびばらつきと呼ぶ. 尤度関数をモデルパラメータにより微分し連立方程式を解く.多重積分と微分の順序を入れ替え,多重積分を(3)式(4)式で表すと(5)式(6)式を得る.
相模トラフ沿いM8クラス地震
地震調査研究推進本部地震調査委員会報告書(調査委員会報告書,2014)では,2400calyBP~5400calyBPの間に推定される9回の地震を用いて今後発生する地震について評価している.これら9回の不確定期間は相互に重ならないので,(3)式の多重積分は被積分関数に含まれる変数に関する2重積分となる.地震間隔およびその逆数の2重積分は(7)式(8)式で与えられる. (7)式から不確定期間中央値の差が平均間隔となることがわかる.(5)式と(6)式から最尤推定値として平均間隔363年ばらつき0.49 を得る.
調査委員会報告書ではOgata(1999)と同等なParsons(2008,JGR)に従ったモンテカルロ法により地震系列を生起し,平均間隔とばらつきの中央値や平均値を求めている.このモンテカルロ法における最尤推定値は記載されてないが,我々の計算では平均間隔360年程度ばらつき0.28程度となっている.重み付き尤度法の結果に比べばらつきが0.2ほど小さい.この比較からもOgata(1999)やParsons(2008)ではばらつきが小さく決まることがわかる.ある時点から30年間に地震が発生する確率(30年確率)の比較を図1に示す.一般に経過年数が短い時点では,ばらつきが小さいと大きい場合に比べ確率は小さくなる.図1によると大正関東地震(1923 年)から100年程度経過で,ばらつきが小さいParsonsでは確率値はほぼ0%であるが,重み付き尤度法では1~2%になる.98年経過時点(2021年9月1日)における30年確率は,重み付き尤度法では1.6%,Parsonsで 0.01%以下,3歴史地震(応仁,元禄,大正)で 2.4% となる.このようにParsonsではばらつきが小さく決まる結果,現時点の30年確率は過小評価となる.上記モンテカルロ法の時系列はParsonsの偏りを引き継いでいるため,モデルパラメータ中央値や平均値,確率値のベイズ推定等も偏っていると推測する.
繰り返し地震として複数の時系列が候補とされ,一つの時系列に特定できない場合がある.このような場合,各時系列の信頼性に応じた重み付き尤度関数を用いて,平均的なモデルパラメータを推定することができる(Imoto and Fujiwara, 2012,EPS).離水地形や津波堆積物など地形地質学的手法により特定される地震には,標本の年代測定に起因する発生時期の不確定性がある.このような場合も,発生年が連続的に変化する複数の時系列として重み付き尤度法を適用できる.発生年不確定な地震時系列の更新過程モデルについてはすでに尤度関数が提案されているが(Ogata,1999,JGR),この式による最尤推定値は偏ることが報告されている(井元他,2021,JPGU).ここでは,発生年不確定の繰り返し地震更新過程モデルに適用した重み付き尤度法を紹介し,地震間隔分布がBrownian Passage Time (BPT)分布の場合の最尤推定値解析解を導く.得られた関係式を用いて,相模トラフ沿いのM8クラス地震について離水地形データからBPT分布モデルの最尤推定値を求める.
重み付き尤度法
Imoto and Fujiwaraは,M8クラス関東地震の複数の歴史地震時系列への重み付き尤度法の適用で,各時系列の対数尤度関数を重み付き加算し対数尤度関数としている.発生年不確定な時系列では地震発生年が連続的に変化するため,地震発生年を積分変数とした対数尤度関数の多重積分により重み付き尤度関数を表現できる. 重み付き尤度法では,データに対する信頼度に応じて重みをつける.年代測定の結果として発生年の確率密度関数が報告されている場合には,それを重みとして用いることができる.確率密度がわからない場合には,発生年は一様分布であると考える.この場合には,重み付き尤度関数は(1)式(表1)で表される.積分範囲は各地震の不確定期間((ai,bi,),i=1,2,...n)となる.不確定期間が相互に一部重なる場合には,発生年の逆転を避ける(t1 < t2<...<tn )条件付き積分となる.地震間隔の確率密度関数は(2)式BPT分布で与える.モデルパラメータμおよび αをそれぞれ平均間隔およびばらつきと呼ぶ. 尤度関数をモデルパラメータにより微分し連立方程式を解く.多重積分と微分の順序を入れ替え,多重積分を(3)式(4)式で表すと(5)式(6)式を得る.
相模トラフ沿いM8クラス地震
地震調査研究推進本部地震調査委員会報告書(調査委員会報告書,2014)では,2400calyBP~5400calyBPの間に推定される9回の地震を用いて今後発生する地震について評価している.これら9回の不確定期間は相互に重ならないので,(3)式の多重積分は被積分関数に含まれる変数に関する2重積分となる.地震間隔およびその逆数の2重積分は(7)式(8)式で与えられる. (7)式から不確定期間中央値の差が平均間隔となることがわかる.(5)式と(6)式から最尤推定値として平均間隔363年ばらつき0.49 を得る.
調査委員会報告書ではOgata(1999)と同等なParsons(2008,JGR)に従ったモンテカルロ法により地震系列を生起し,平均間隔とばらつきの中央値や平均値を求めている.このモンテカルロ法における最尤推定値は記載されてないが,我々の計算では平均間隔360年程度ばらつき0.28程度となっている.重み付き尤度法の結果に比べばらつきが0.2ほど小さい.この比較からもOgata(1999)やParsons(2008)ではばらつきが小さく決まることがわかる.ある時点から30年間に地震が発生する確率(30年確率)の比較を図1に示す.一般に経過年数が短い時点では,ばらつきが小さいと大きい場合に比べ確率は小さくなる.図1によると大正関東地震(1923 年)から100年程度経過で,ばらつきが小さいParsonsでは確率値はほぼ0%であるが,重み付き尤度法では1~2%になる.98年経過時点(2021年9月1日)における30年確率は,重み付き尤度法では1.6%,Parsonsで 0.01%以下,3歴史地震(応仁,元禄,大正)で 2.4% となる.このようにParsonsではばらつきが小さく決まる結果,現時点の30年確率は過小評価となる.上記モンテカルロ法の時系列はParsonsの偏りを引き継いでいるため,モデルパラメータ中央値や平均値,確率値のベイズ推定等も偏っていると推測する.