2:30 PM - 2:45 PM
[S14-02] Trial calculation of long-term probability for crustal earthquakes using GNSS data
はじめに
我が国では地震の長期的な確率予測として地震調査委員会による長期評価が行われており、地殻内で発生する地震(以下、内陸地震)に関しては地形・地質学的手法による活断層に基づく評価が行われていて測地データは用いられていない。一方、諸外国の地震長期予測モデル(例えば、Field et al., 2017)には、GNSS等の測地データが広く用いられている。日本列島で稠密なGNSS観測網が整備されているので、測地データを用いて内陸地震の長期予測を試算し、既存のモデルと比較することは、より信頼性の高い地震の確率予測モデルを構築するために有益であると考えられる。本研究では、西南日本のGNSSデータを用いて内陸地震の長期発生確率を試算し、実際の地震活動との比較を行った。
地震長期発生確率の計算方法
本研究では、最も単純な地震発生予測モデルとして、内陸地震の発生はポアソン過程に従うと仮定し、地震の発生率はその地域の地震モーメント速度と規模別発生頻度から計算した。地震の規模別頻度分布は、切断グーテンベルグ・リヒター則に従うものとし、最大地震の気象庁マグニチュードを8.0、b値は0.9と解析地域で一定の値を仮定した。 地震モーメント速度は、以下のようにGNSSデータから計算した。まず、大地震の発生が少なかった2005年4月から2009年12月までの水平速度を推定し、南海トラフ沿いのプレート間固着による弾性変形をNishimura et al.(2018)のモデルを用いて除去した。プレート間固着による弾性変形を除去した理由は、この弾性変形はプレート間地震の発生によって解消されるものであり、内陸地震の発生の原動力そのものではないと考えたからである。次に、補正を行った水平変位速度からOkazaki et al.(2021)の手法を用いて0.2度グリッドの中心位置でのひずみ速度を計算した。ひずみ速度から地震モーメント速度への換算式は先行研究で提案された3つのモデルで試算し、換算式中の地震発生層の厚さ、剛性率については解析領域で一様のモデルと総地震数の90%の地震が発生する深さ(Omuralieva et al., 2012)とJ-SHIS深部地盤構造モデルを用いて可変とするモデルで計算を行った。 測地学的ひずみ速度は、過去の地震活動から推定されるひずみ速度に比べて数倍から1桁程度大きいことが指摘されており(例えば、Shen-Tu et al., 1993)、測地学的ひずみ速度は海溝型地震によって解放されるひずみ速度を含むことや内陸域での非弾性ひずみを含むことが原因であると考えられてきた。本研究では前者のひずみ速度は前処理で除去したが、内陸の非弾性変形がどの程度生じているかは内陸地震として解放されるモーメント速度に大きく影響する。そのため、ここでGNSSひずみ速度データから換算した地震モーメント速度と過去の地震によって解放されたモーメント速度の割合を計算した。M6以上の内陸地震の地震モーメント速度は、大地震の記録が概ね残っていると思われる天正地震以降の期間(西暦1586-2019年)で、測地データから換算したモーメント速度の13–20%程度であり、この割合を測地ひずみ速度から地震モーメント速度への変換に用いた。
地震長期確率モデルの試算結果と比較
M6以上の内陸地震について30年間の発生確率を試算した結果を図に示す。過去の地震分布ともっとも整合的であったモーメント速度の換算式は、水平方向の2つの主ひずみ速度の絶対値及び面積ひずみ速度の絶対値の最大値を用いるSavage and Simpson(1997)の換算式であり、地震発生層の厚さと剛性率が可変のモデル(図a)と一様のモデル(図b)は、過去地震との整合度において大きな差はなかった。地震発生層の厚さ一様のモデルで0.2度グリッドの発生確率の最大値は九州中部の3.5%で、最小値は薩摩半島沖の0.1%であった。試作したモデルと実際の内陸地震の分布を比べると、地震の空間分布は一様であるという参照モデルに対して、地震1個あたりの確率利得では1.1-1.3程度であるが、ひずみ速度が上位25%のグリッドに地震数で43%以上、地震モーメントで62%以上の地震が発生しており、ひずみ速度の高い場所で地震が多発する傾向は明らかである。よって、測地データを用いた長期予測は、新たな地震発生予測手法として有効であると考えられる。
謝辞:本研究では、国土地理院、海上保安庁、国際GNSS事業(IGS)のGNSSデータ、気象庁一元化カタログ、世界の被害地震の表(https://iisee.kenken.go.jp/utsu/)を利用しました。地殻内地震発生確率評価手法検討ワーキンググループ、特に加藤愛太郎、尾形良彦両博士との議論は有益でした。ここに記して感謝いたします。
我が国では地震の長期的な確率予測として地震調査委員会による長期評価が行われており、地殻内で発生する地震(以下、内陸地震)に関しては地形・地質学的手法による活断層に基づく評価が行われていて測地データは用いられていない。一方、諸外国の地震長期予測モデル(例えば、Field et al., 2017)には、GNSS等の測地データが広く用いられている。日本列島で稠密なGNSS観測網が整備されているので、測地データを用いて内陸地震の長期予測を試算し、既存のモデルと比較することは、より信頼性の高い地震の確率予測モデルを構築するために有益であると考えられる。本研究では、西南日本のGNSSデータを用いて内陸地震の長期発生確率を試算し、実際の地震活動との比較を行った。
地震長期発生確率の計算方法
本研究では、最も単純な地震発生予測モデルとして、内陸地震の発生はポアソン過程に従うと仮定し、地震の発生率はその地域の地震モーメント速度と規模別発生頻度から計算した。地震の規模別頻度分布は、切断グーテンベルグ・リヒター則に従うものとし、最大地震の気象庁マグニチュードを8.0、b値は0.9と解析地域で一定の値を仮定した。 地震モーメント速度は、以下のようにGNSSデータから計算した。まず、大地震の発生が少なかった2005年4月から2009年12月までの水平速度を推定し、南海トラフ沿いのプレート間固着による弾性変形をNishimura et al.(2018)のモデルを用いて除去した。プレート間固着による弾性変形を除去した理由は、この弾性変形はプレート間地震の発生によって解消されるものであり、内陸地震の発生の原動力そのものではないと考えたからである。次に、補正を行った水平変位速度からOkazaki et al.(2021)の手法を用いて0.2度グリッドの中心位置でのひずみ速度を計算した。ひずみ速度から地震モーメント速度への換算式は先行研究で提案された3つのモデルで試算し、換算式中の地震発生層の厚さ、剛性率については解析領域で一様のモデルと総地震数の90%の地震が発生する深さ(Omuralieva et al., 2012)とJ-SHIS深部地盤構造モデルを用いて可変とするモデルで計算を行った。 測地学的ひずみ速度は、過去の地震活動から推定されるひずみ速度に比べて数倍から1桁程度大きいことが指摘されており(例えば、Shen-Tu et al., 1993)、測地学的ひずみ速度は海溝型地震によって解放されるひずみ速度を含むことや内陸域での非弾性ひずみを含むことが原因であると考えられてきた。本研究では前者のひずみ速度は前処理で除去したが、内陸の非弾性変形がどの程度生じているかは内陸地震として解放されるモーメント速度に大きく影響する。そのため、ここでGNSSひずみ速度データから換算した地震モーメント速度と過去の地震によって解放されたモーメント速度の割合を計算した。M6以上の内陸地震の地震モーメント速度は、大地震の記録が概ね残っていると思われる天正地震以降の期間(西暦1586-2019年)で、測地データから換算したモーメント速度の13–20%程度であり、この割合を測地ひずみ速度から地震モーメント速度への変換に用いた。
地震長期確率モデルの試算結果と比較
M6以上の内陸地震について30年間の発生確率を試算した結果を図に示す。過去の地震分布ともっとも整合的であったモーメント速度の換算式は、水平方向の2つの主ひずみ速度の絶対値及び面積ひずみ速度の絶対値の最大値を用いるSavage and Simpson(1997)の換算式であり、地震発生層の厚さと剛性率が可変のモデル(図a)と一様のモデル(図b)は、過去地震との整合度において大きな差はなかった。地震発生層の厚さ一様のモデルで0.2度グリッドの発生確率の最大値は九州中部の3.5%で、最小値は薩摩半島沖の0.1%であった。試作したモデルと実際の内陸地震の分布を比べると、地震の空間分布は一様であるという参照モデルに対して、地震1個あたりの確率利得では1.1-1.3程度であるが、ひずみ速度が上位25%のグリッドに地震数で43%以上、地震モーメントで62%以上の地震が発生しており、ひずみ速度の高い場所で地震が多発する傾向は明らかである。よって、測地データを用いた長期予測は、新たな地震発生予測手法として有効であると考えられる。
謝辞:本研究では、国土地理院、海上保安庁、国際GNSS事業(IGS)のGNSSデータ、気象庁一元化カタログ、世界の被害地震の表(https://iisee.kenken.go.jp/utsu/)を利用しました。地殻内地震発生確率評価手法検討ワーキンググループ、特に加藤愛太郎、尾形良彦両博士との議論は有益でした。ここに記して感謝いたします。