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[S15-07] Complex Source Characterization of the 1944 Tonankai Earthquake from Simulated Collapse Ratios of Wooden Houses
2011年東北地方太平洋沖地震では、それまで十分に解明されてこなかった海溝型地震の震源特性(震源像)に関し、津波の発生に関係する周期20秒以上の長周期地震動生成域と、建物被害に直結する周期2秒以下のやや短周期地震動生成域が棲み分けられているという事実が得られた。今後さらに海溝型巨大地震を理解し、将来発生しうる被害を軽減するためには、基礎情報として過去の地震の詳細な震源破壊過程の物理モデルによる再現が重要である。しかしながら昭和の海溝型巨大地震である1923 年関東地震、1944 年東南海地震、1946 年南海地震に関しては、長周期地震動生成域についてはある程度解明されている一方で、やや短周期地震動生成域に関しては十分に検討されていない。そこで本研究では、1944 年東南海地震を対象に、滑り量・破壊伝播速度に不均質性を付与した震源モデル(不均質震源モデル)と分離手法による統計的グリーン関数による強震動作成手法を確立する。そして、新たに構築した1930年以前の建物被害モデルに強震動を入力して得られる建物被害分布と観測記録に残る被害分布を比較することで1944年東南海地震のSMGAの特徴を抽出する。 まず、内閣府 (2015) に基づくSMGA の配置と、不均質な滑り量・破壊伝播速度を有する震源モデルを標準モデルとして、破壊開始点(3 種類)、強震動生成域(SMGA1~4)の位置(4 種類)、SMGA の応力降下量(3 種類)の異なる合計36 ケースの不均質震源モデルを構築した。その上で、構築した震源モデルと仲野 (2020) の統計的グリーン関数を用いて、武村・虎谷 (2015)に記載されている被害観測地点のうち、建物倒壊率が1%以上の53地点において強震動を作成した。得られた強震動の最大加速度・最大速度はMorikawa and Fujiwara (2013)の経験式に概ね一致した。 その後、1930年以前の建物被害評価モデルである戦前モデルを、吉田・他(2004)の建物被害予測モデルの各建築年代の耐力比と八木・他(2020)の常時微動結果から得られた各建築年代と固有振動数の関係式に基づき構築した。作成した強震動を入力して対象地点における倒壊率を算出し(計算倒壊率とする)、武村・虎谷(2015)の観測倒壊率と比較した。回帰直線の傾きと決定係数R2 を両者の一致度の指標としたところ、破壊開始点・4つのSMGAの位置が陸側に深く、応力降下量が大きいケース3-2-3 が、36ケースの中では最も観測事実を説明する震源モデルであることが分かった。しかしながら、ケース3-2-3 では、静岡県東部に広がる倒壊率40%以上の地点では計算倒壊率が過小評価となった。このことを受け、破壊開始点とSMGA の配置は同じで、SMGA1 と2 の面積と応力降下量を変更した不均質震源モデルを5 ケース追加し比較した。その結果、SMGA2 の応力降下量のみを60MPa に変更したケース3-2-5 が新たに最も観測事実を説明するモデルとなることが分かった。このケースでは観測倒壊率40%以上の地点での一致度はケース3-2-3 より改善されたが、依然過小評価となった。今回の結果から、40%以上の建物倒壊率を説明するためには、より強力なフォワードディレクティビティを静岡県東部に生じせしめるような震源破壊プロセスを考えていく必要があることが分かった。