2:45 PM - 3:00 PM
[S15-11] Study on correction of the rupture propagation effect of elemental earthquakes used in the empirical Green's function method.
1. はじめに
経験的グリーン関数法(以下,EGF)は過去に発生した地震の観測記録の再現に関しては実績もあり広く用いられている地震動評価手法の一つである。しかしながら,要素地震に含まれる破壊伝播効果の影響や補正等については十分な検討が行われていないと考えられる。金田・他(2020,地震学会秋季大会)では2004年新潟県中越地震の余震(2004.10.27.10:40,Mw5.9)について破壊伝播効果の影響がある程度大きいことを確認したうえで,本震(2004.10.23.17:56,Mw6.6)の要素地震として用いた波形合成を行った。その結果、1Hz周辺で本震の観測記録に対して要素地震の破壊が近づく地点では過大評価,破壊が遠ざかる地点では過小評価する傾向を示した。これは本震と要素地震の破壊伝播特性が異なることが要因と考えられる。
本稿では本震と異なる破壊伝播特性の地震を要素地震として用いる場合を想定し、要素地震に含まれる破壊伝播効果の補正を行う。なお、対象周波数は工学的に重要とされる1Hz程度とする。
2. 検討方法
本検討ではHikima and Koketsu(2005)による2004年新潟県中越地震の本震と余震に加え、一回り規模の小さい小地震(2004.10.27.17:15,Mw3.7)を用いる。初めに,観測記録を用いて小地震に対する本震,余震のフーリエ振幅スペクトル比から震源からの方位に依存する破壊伝播特性の違いを整理する。最後に,要素地震に含まれる破壊伝播効果の補正とEGFを用いた波形合成による本震の観測記録の再現解析を行う。
3. 検討結果
3.1 本震と余震の破壊伝播特性の違い
本震と余震の破壊伝播特性について整理する。検討に用いる地震と観測地点を図1,表1に示す。小地震と震源位置・発震機構が近い場合,フーリエ振幅スペクトル比を算出することで伝播特性・サイト特性・震源放射特性が除去されると仮定すると,観測点間の違いは震源破壊過程による破壊伝播効果の影響として現れると考えられる。破壊伝播効果による方位依存性の評価には理論震源スペクトル比(本震,余震及び小地震をω-2モデルに基づく理論的な震源スペクトルでモデル化した時の小地震に対する比率)と観測スペクトル比(観測記録における小地震に対する比率)との比を算出し,0.5Hz~2.0Hzの幾何平均をディレクティビティ係数として評価する。本震と余震のディレクティビティ係数の分布を図2に示す。本震は北東側と南西側で振幅が大きくなるのに対して,余震では南西側で振幅が大きく,破壊伝播特性が異なることがわかる。また,図には小山(1987)による理論的な短周期の方位依存性を併せて示しており,2地震ともに理論的な方位依存性と整合していることが確認できる。なお,図中の数値は小山(1987)による方位依存性の算出に用いた方位角である。
3.2 要素地震の破壊伝播効果の補正検討
余震を要素地震として用いたときの破壊伝播効果の補正を試みる。要素地震の補正方法とEGFによる波形合成結果を図3に示す。図3(a)はHikima and Koketsu(2005)の震源逆解析結果に基づく特性化震源モデル(SMGAのみを考慮する)で,要素地震の規模が大きいため要素断層は一辺4kmに再分割している。また,図3(b)は震源逆解析結果に基づいて設定した余震の特性化震源モデルであり,小地震を要素地震としたEGFで観測記録の再現解析を行い震源モデルの妥当性を確認している。ここで、EGFにおいて余震は要素断層に対してすべり方向の重ね合わせ数を1とすると、要素断層と余震が1対1で対応するため,本震のSMGAの要素断層内の破壊過程は図3(c)で表わせる。図より要素断層の主要なすべりの破壊方向は南西側であることがわかる。一方,本震の本来の破壊過程が破壊開始点から同心円状に広がるとすると図3(d)に示すようバイラテラル破壊となり,図3(c)とは乖離する。
本検討では要素断層内の破壊過程を図3(d)の破壊形状へ補正する。図3(e)に補正のイメージを示す。初めに図3(c)の震源逆解析結果に基づく破壊開始点(基本ケース)を設定し,余震を対象としたEGF(小地震を要素地震とする)を行う。次に破壊開始点を図3(d)の仮想破壊開始点とし,余震を対象としたEGFを行う。これらの波形合成結果のフーリエスペクトル比を算出し補正係数とする。この補正係数を余震の観測記録のフーリエスペクトルに乗じることで位相と振幅を補正する。この作業を全ての要素断層(sub_Fault_No1~5)で行った後,波形合成を行う。
余震において破壊が近づく地点のNIGH19と遠ざかる地点のNIGH08における波形合成結果(速度波形、観測記録とのフーリエ振幅スペクトル比)を図3(f)に示す。なお,補正係数の高周波数側にノイズが含まれていたため、速度波形は6Hz以下を示す。図には比較のため要素地震波の補正を行っていない場合も併せて示している。速度波形では両者とも観測記録の位相はおおむね再現できていることがわかる。次に観測記録とのフーリエ振幅スペクトル比では補正を行うことで2地点ともに1Hz周辺の残差が1に近づいていることが分かる。一方、より低周波数帯では過小評価、過大評価の傾向があり,今後の課題である。
謝辞
防災科学技術研究所による地震記録を使用させていただきました。図の作成にあたっては国土地理院の地理院地図とGMTを使用しました。ここに記して、お礼を申し上げます。
経験的グリーン関数法(以下,EGF)は過去に発生した地震の観測記録の再現に関しては実績もあり広く用いられている地震動評価手法の一つである。しかしながら,要素地震に含まれる破壊伝播効果の影響や補正等については十分な検討が行われていないと考えられる。金田・他(2020,地震学会秋季大会)では2004年新潟県中越地震の余震(2004.10.27.10:40,Mw5.9)について破壊伝播効果の影響がある程度大きいことを確認したうえで,本震(2004.10.23.17:56,Mw6.6)の要素地震として用いた波形合成を行った。その結果、1Hz周辺で本震の観測記録に対して要素地震の破壊が近づく地点では過大評価,破壊が遠ざかる地点では過小評価する傾向を示した。これは本震と要素地震の破壊伝播特性が異なることが要因と考えられる。
本稿では本震と異なる破壊伝播特性の地震を要素地震として用いる場合を想定し、要素地震に含まれる破壊伝播効果の補正を行う。なお、対象周波数は工学的に重要とされる1Hz程度とする。
2. 検討方法
本検討ではHikima and Koketsu(2005)による2004年新潟県中越地震の本震と余震に加え、一回り規模の小さい小地震(2004.10.27.17:15,Mw3.7)を用いる。初めに,観測記録を用いて小地震に対する本震,余震のフーリエ振幅スペクトル比から震源からの方位に依存する破壊伝播特性の違いを整理する。最後に,要素地震に含まれる破壊伝播効果の補正とEGFを用いた波形合成による本震の観測記録の再現解析を行う。
3. 検討結果
3.1 本震と余震の破壊伝播特性の違い
本震と余震の破壊伝播特性について整理する。検討に用いる地震と観測地点を図1,表1に示す。小地震と震源位置・発震機構が近い場合,フーリエ振幅スペクトル比を算出することで伝播特性・サイト特性・震源放射特性が除去されると仮定すると,観測点間の違いは震源破壊過程による破壊伝播効果の影響として現れると考えられる。破壊伝播効果による方位依存性の評価には理論震源スペクトル比(本震,余震及び小地震をω-2モデルに基づく理論的な震源スペクトルでモデル化した時の小地震に対する比率)と観測スペクトル比(観測記録における小地震に対する比率)との比を算出し,0.5Hz~2.0Hzの幾何平均をディレクティビティ係数として評価する。本震と余震のディレクティビティ係数の分布を図2に示す。本震は北東側と南西側で振幅が大きくなるのに対して,余震では南西側で振幅が大きく,破壊伝播特性が異なることがわかる。また,図には小山(1987)による理論的な短周期の方位依存性を併せて示しており,2地震ともに理論的な方位依存性と整合していることが確認できる。なお,図中の数値は小山(1987)による方位依存性の算出に用いた方位角である。
3.2 要素地震の破壊伝播効果の補正検討
余震を要素地震として用いたときの破壊伝播効果の補正を試みる。要素地震の補正方法とEGFによる波形合成結果を図3に示す。図3(a)はHikima and Koketsu(2005)の震源逆解析結果に基づく特性化震源モデル(SMGAのみを考慮する)で,要素地震の規模が大きいため要素断層は一辺4kmに再分割している。また,図3(b)は震源逆解析結果に基づいて設定した余震の特性化震源モデルであり,小地震を要素地震としたEGFで観測記録の再現解析を行い震源モデルの妥当性を確認している。ここで、EGFにおいて余震は要素断層に対してすべり方向の重ね合わせ数を1とすると、要素断層と余震が1対1で対応するため,本震のSMGAの要素断層内の破壊過程は図3(c)で表わせる。図より要素断層の主要なすべりの破壊方向は南西側であることがわかる。一方,本震の本来の破壊過程が破壊開始点から同心円状に広がるとすると図3(d)に示すようバイラテラル破壊となり,図3(c)とは乖離する。
本検討では要素断層内の破壊過程を図3(d)の破壊形状へ補正する。図3(e)に補正のイメージを示す。初めに図3(c)の震源逆解析結果に基づく破壊開始点(基本ケース)を設定し,余震を対象としたEGF(小地震を要素地震とする)を行う。次に破壊開始点を図3(d)の仮想破壊開始点とし,余震を対象としたEGFを行う。これらの波形合成結果のフーリエスペクトル比を算出し補正係数とする。この補正係数を余震の観測記録のフーリエスペクトルに乗じることで位相と振幅を補正する。この作業を全ての要素断層(sub_Fault_No1~5)で行った後,波形合成を行う。
余震において破壊が近づく地点のNIGH19と遠ざかる地点のNIGH08における波形合成結果(速度波形、観測記録とのフーリエ振幅スペクトル比)を図3(f)に示す。なお,補正係数の高周波数側にノイズが含まれていたため、速度波形は6Hz以下を示す。図には比較のため要素地震波の補正を行っていない場合も併せて示している。速度波形では両者とも観測記録の位相はおおむね再現できていることがわかる。次に観測記録とのフーリエ振幅スペクトル比では補正を行うことで2地点ともに1Hz周辺の残差が1に近づいていることが分かる。一方、より低周波数帯では過小評価、過大評価の傾向があり,今後の課題である。
謝辞
防災科学技術研究所による地震記録を使用させていただきました。図の作成にあたっては国土地理院の地理院地図とGMTを使用しました。ここに記して、お礼を申し上げます。