日本地震学会2021年度秋季大会

講演情報

A会場

一般セッション » S16. 地盤構造・地盤震動

AM-2

2021年10月15日(金) 11:00 〜 12:15 A会場 (A会場)

座長:林田 拓己((国研)建築研究所 国際地震工学センター)、吉田 邦一((一財)地域 地盤 環境 研究所)

11:15 〜 11:30

[S16-04] MeSO-net観測記録データトラフィックにみる2020年の首都圏における常時微動レベル低下と要因検証

〇林田 拓己1、吉見 雅行2、鈴木 晴彦3、森 伸一郎4、香川 敬生5、山田 雅行6、一井 康二7 (1.建築研究所、2.産業技術総合研究所、3.応用地質株式会社、4.愛媛大学、5.鳥取大学、6.株式会社ニュージェック、7.関西大学)

地震計によって測定される常時微動(雑微動、地動ノイズ:以下、微動と呼ぶ)のうち、1Hz以上のものは人間活動が主たる振動源であるとされている。2020年初頭、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の感染拡大を受けて都市封鎖が実施された都市において人間活動が著しく低下し、周辺の地震観測点で記録された微動の振幅が低下したという現象が世界中で数多く報告されている(例えば、Gibney, 2020; Lecocq et al., 2020)。日本国内においても、小中高校の休校措置・国や自治体による外出自粛要請等の社会的背景を反映したと思われる首都圏での微動振幅の低下が報告されている(Yabe et al., 2020)。これらの先行研究では微動のスペクトル特性の考慮や評価の対象周波数に違いがあるものの、振幅特性の経時変化の有無と増減に、人間の社会活動の消長を対応付けて検討していることが共通している。一方、首都圏を対象にYabe et al. (2020)が検討に用いた観測点の多くは代表的な繁華街付近に位置しており、用いた観測点数も限られていることから、微動の変化をもたらした主要因が何であったのか、その影響はどの範囲にまで及ぶのかなど、様々な解釈の余地が残されている。これらを適切に評価するためには、多地点、長期間のデータによる検討が必要であり、そのためには微動の振幅特性を総合的に示す簡易的な振幅指標があれば便利である。
 東京大学地震研究所により設置され、現在、防災科学技術研究所によって運用されているMeSO-net観測点は、首都圏周辺の約300地点に展開されており、各点で地震動の連続観測が行われている。MeSO-netの波形データはWIN32形式によって圧縮されており、同形式ではデータ転送の高速化・効率化のために振幅情報を前タイムステップの振幅との差分情報として記録している(例えば、卜部・他,1990;卜部,1994)。このため、微動の振幅が大きい平日昼間の時間帯に波形データの容量が増加し、夜間や休日に低下するという特徴がある(岡田・小原,2000)。本研究ではこの特性に着目し、MeSO-netの波形データ容量の時系列変化(データトラフィック)を「微動レベルの簡易的な指標」とみなすことで2020年における微動振幅の推移を追った。我々は、東京都および近郊エリアの169点で2018年1月〜2021年8月の期間に観測された連続観測記録を用いて、Covid-19蔓延に伴う人間活動の変化とデータトラフィックとの関係を検証した。本発表では、首都圏におけるデータトラフィックの時間帯毎の特徴を紹介するとともに、観測点が設置されている施設の種別や周辺環境、観測点周辺のモバイル人流データ、断面交通量データなど各種記録との比較検討を通じて、2020年の首都圏において微動の振幅低下をもたらした原因について考察する。また、各観測点における振幅スペクトルの時間推移についても併せて議論する。

謝辞:本研究は、国内の微動研究者および技術者から成る「微動の会」会員有志による研究プロジェクト(代表:愛媛大学 森伸一郎)の一環として実施したものです。また、同会会長である藤原広行博士(防災科学技術研究所)からは、本研究の着想を得る上で有益なご助言をいただきました。本研究の実施にあたり防災科学技術研究所のMeSO-net、Hi-netの観測記録を使用しました。記して感謝いたします。