2:00 PM - 2:15 PM
[S17-04] Tsunami source model of the 1854 Ansei-Tokai earthquake based on crustal deformation and tsunami trace height distributions
南海トラフ沿いではM8クラスの巨大地震が100~200年程度の間隔で繰り返し発生し,大きな被害をもたらしてきた.一連の南海トラフ巨大地震の発生様式は,以前は一定のプレート運動速度に基づき,固有の地震断層面における再来と発生間隔が受け入れられてきた(例えば,石橋・佐竹, 1998).一方,瀬野(2012)は,安政東海地震と昭和東南海地震の強震動生成域が異なる(相補的である)可能性を指摘し,昭和東南海地震が安政東海地震の震源域の一部で起きたという従来の考えに疑問を呈している.今井・他(2019)は安政東海地震の津波波源域について,津波高分布に基づいた再検討を行ったが,そこでは,地殻変動量分布や3次元のプレート構造が充分に考慮されていなかった.本研究では,これらの考慮に加えて,現在入手できる地震津波に関する履歴情報を最大限に活用して,安政東海地震の波源断層モデルの再評価を試みる.
本研究では,既往研究(羽鳥,1977;都司・他,1991,行谷・都司,2005;都司・他,2013;都司・齋藤,2014;今井・他,2017)と,史料集の再精査によって得られた津波痕跡高(今井・他,2019)を用いた.地殻変動量については既往研究(石橋,1984;Kitamura & Kobayashi, 2014)に加え,既刊の地震史料集における本地震による地殻変動量に関する記述から評価した.
波源断層モデルは南海トラフ沈み込み帯の3次元構造モデル(Nakanishi et al., 2018)を参照し,地殻変動や津波高の痕跡点数を考慮して東海震源域については6分割,東南海震源域は10分割の合計16枚の小断層で構成されるものを仮定した.各小断層上の滑りによる地殻変動はOkada (1985)の方法,津波のグリーン関数は線形長波理論(空間格子間隔150 m,時間間隔0.2 s)に基づき計算した.地殻変動の痕跡点は34点を利用した.津波痕跡点については既往研究のデータも含め283点あるが,空間格子間隔の問題や精緻な地形復元作業を必要とする痕跡点,内海の痕跡点(例えば,浜名湖沿岸や伊勢湾内の痕跡)を除いた45点を利用した.比較的遠浅地形となる地点では,津波伝播における非線形性の影響が無視出来ないため,各地点における線形長波と非線形長波モデルから計算された津波高の応答関係を8次の多項式を用いて近似した.地殻変動量と津波痕跡高の分布を説明する各小断層のすべり量は,再現性指標VRS(Imai et al., 2020)が最適値(≒1)に近づくようにSA(Kirkpatrick et al., 1983)を用いて推定した.地殻変動や津波痕跡高には観測誤差や本地震以外の地殻変動成分が含まれると考えられる.本解析では,この誤差を1 m程度と仮定して一様乱数により与え,1,000回試行のアンサンブル平均処理を行い,各小断層のすべり量を評価した.
求められた波源断層のすべり量分布を図 1に示す.本モデルの地震規模はMw 8.5±0.1程度となった.また,VRSは0.85±0.02となり,地殻変動や津波高の分布をおおむね再現できた.津波痕跡高分布を説明するためには,御前崎沖,遠州灘沿岸および志摩半島のトラフ軸付近で大きな断層すべりが必要であり,これにより伊豆半島入間における15 mの津波高を再現できる.しかし,国崎の22 mの津波高は再現できていない. 昭和東南海地震の波源断層モデル(例えば,Baba et al., 2005)には志摩半島沿岸直下で大きな断層すべりが生じていたことと照らし合わせると,瀬野(2012)が指摘した安政東海地震と昭和東南海地震の強震動生成域の相補関係は,津波励起領域においても存在が示唆される.
謝辞:本研究はR2-6年度文部科学省「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」(研究代表者:海洋研究開発機構 小平秀一)の一環として行われました.
本研究では,既往研究(羽鳥,1977;都司・他,1991,行谷・都司,2005;都司・他,2013;都司・齋藤,2014;今井・他,2017)と,史料集の再精査によって得られた津波痕跡高(今井・他,2019)を用いた.地殻変動量については既往研究(石橋,1984;Kitamura & Kobayashi, 2014)に加え,既刊の地震史料集における本地震による地殻変動量に関する記述から評価した.
波源断層モデルは南海トラフ沈み込み帯の3次元構造モデル(Nakanishi et al., 2018)を参照し,地殻変動や津波高の痕跡点数を考慮して東海震源域については6分割,東南海震源域は10分割の合計16枚の小断層で構成されるものを仮定した.各小断層上の滑りによる地殻変動はOkada (1985)の方法,津波のグリーン関数は線形長波理論(空間格子間隔150 m,時間間隔0.2 s)に基づき計算した.地殻変動の痕跡点は34点を利用した.津波痕跡点については既往研究のデータも含め283点あるが,空間格子間隔の問題や精緻な地形復元作業を必要とする痕跡点,内海の痕跡点(例えば,浜名湖沿岸や伊勢湾内の痕跡)を除いた45点を利用した.比較的遠浅地形となる地点では,津波伝播における非線形性の影響が無視出来ないため,各地点における線形長波と非線形長波モデルから計算された津波高の応答関係を8次の多項式を用いて近似した.地殻変動量と津波痕跡高の分布を説明する各小断層のすべり量は,再現性指標VRS(Imai et al., 2020)が最適値(≒1)に近づくようにSA(Kirkpatrick et al., 1983)を用いて推定した.地殻変動や津波痕跡高には観測誤差や本地震以外の地殻変動成分が含まれると考えられる.本解析では,この誤差を1 m程度と仮定して一様乱数により与え,1,000回試行のアンサンブル平均処理を行い,各小断層のすべり量を評価した.
求められた波源断層のすべり量分布を図 1に示す.本モデルの地震規模はMw 8.5±0.1程度となった.また,VRSは0.85±0.02となり,地殻変動や津波高の分布をおおむね再現できた.津波痕跡高分布を説明するためには,御前崎沖,遠州灘沿岸および志摩半島のトラフ軸付近で大きな断層すべりが必要であり,これにより伊豆半島入間における15 mの津波高を再現できる.しかし,国崎の22 mの津波高は再現できていない. 昭和東南海地震の波源断層モデル(例えば,Baba et al., 2005)には志摩半島沿岸直下で大きな断層すべりが生じていたことと照らし合わせると,瀬野(2012)が指摘した安政東海地震と昭和東南海地震の強震動生成域の相補関係は,津波励起領域においても存在が示唆される.
謝辞:本研究はR2-6年度文部科学省「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」(研究代表者:海洋研究開発機構 小平秀一)の一環として行われました.