2:30 PM - 2:45 PM
[S17-06] Back-projection imaging of a tsunami source location using S-net ocean-bottom pressure records
地震学においてバックプロジェクション(BP: back-projection)法は、アレイ観測による波形記録を足し合わせるという簡便な操作によって地震の破壊伝播過程を推定することが可能であるため、これまでに多くの巨大地震に適用されてきた(e.g., Ishii et al., 2005; Honda et al., 2011)。またFukahata et al. (2014)はBP法についての理論的な考察をおこない、各観測点におけるグリーン関数の足し合わせをデルタ関数で近似できる場合には、BP法で精度の良い推定が可能であることを示した。
近年、日本列島太平洋沖にはS-netやDONETといった海底観測網が整備され、津波の伝播を面的に捉えることが可能になってきた。本研究では、S-netで得られた水圧記録に対してBP法を適用することで、津波波源の位置推定をおこなった。地震波記録を対象としたBP法では、想定する断層面上の点と各観測点の間での理論走時だけ観測記録の時間軸をずらしてスタックし、得られた波形がその点における地震波の放射強度を表しているとして断層すべりの時空間変化を推定する。これに対して、津波を対象とした場合、線形長波仮定の下では、津波の伝播速度は水深と重力加速度のみで決まり、伝播補正が正確に行えるため、地震波の場合と比較して正確な理論走時が得られる。またBP法で得られる結果は、津波を励起する海面変動に関係していると考えられる。
本研究では、まず初めに、津波記録にBP法を適用した場合の理論走時の影響を確認した。津波数値シミュレーションコードのJAGRUS (Baba et al., 2015)を用いて、幅2kmの2次元ガウス関数を波源とした津波を計算し、各観測点におけるグリーン関数とした。水深データにはETOPO1 (Amante and Eakins, 2009)を、観測波形をスタックする際に必要な理論走時の計算にはFast Marching Method (Sethian, 1999)を用いた。S-netのS1-S5の観測点におけるグリーン関数を足し合わせた結果を図1に示す。実際の水深データを用いて足し合わせた波形はt=0にピークを持っており、デルタ関数によって近似できる。つまり、理論走時を精度良く計算することができる場合は、単純な足し合わせで直逹波を抽出することができると考えられる。
次に実際のデータの例として、2016年11月22日の福島県沖地震(Mw6.9)に伴って発生した津波のS-net海底水圧記録に対してBP法を適用した。S-netのS1-S5のサブシステムの中で、生の水圧記録とNAOTIDE (Matsumoto et al., 2000)で計算した理論潮汐との相関が0.8以上となった94観測点を解析に用いた(図2(a))。観測記録の前処理として、(1)理論潮汐を除き、(2)全体の平均値を引くことでDC成分を取り除き、(3)100-3000秒のバンドパスフィルタを適用し、(4)それぞれの最大振幅によって各波形を正規化した。図2に、BP法でスタックして得られた波形を2乗し、最初の300秒を積分した結果を正規化してプロットした。図2(b)における破線は津波インバージョン(Gusman et al., 2017; Adriano et al., 2018)と気象庁による遠地実体波を用いた震源過程解析によって推定された断層すべりによる海底変位を示しており、本研究で得られた振幅分布はそれらと良く一致している。
BP法は対象とする領域と観測点との間の理論走時のみを用いて推定をおこなうため、グリーン関数や逆行列の計算が不要であり、津波波源推定で一般的におこなわれている波形インバージョン(e.g., Satake, 1987)と比べて計算コストが非常に低い。また、津波到達時刻を元にした逆伝播による波源推定(e.g., Hatori, 1969)は走時情報のみを用いるため波源域内での振幅分布を十分に復元できない。したがって、本研究が提案する津波を対象としたBP法は、簡便かつ精度の良い津波波源の推定手法として有用であると考えられる。
近年、日本列島太平洋沖にはS-netやDONETといった海底観測網が整備され、津波の伝播を面的に捉えることが可能になってきた。本研究では、S-netで得られた水圧記録に対してBP法を適用することで、津波波源の位置推定をおこなった。地震波記録を対象としたBP法では、想定する断層面上の点と各観測点の間での理論走時だけ観測記録の時間軸をずらしてスタックし、得られた波形がその点における地震波の放射強度を表しているとして断層すべりの時空間変化を推定する。これに対して、津波を対象とした場合、線形長波仮定の下では、津波の伝播速度は水深と重力加速度のみで決まり、伝播補正が正確に行えるため、地震波の場合と比較して正確な理論走時が得られる。またBP法で得られる結果は、津波を励起する海面変動に関係していると考えられる。
本研究では、まず初めに、津波記録にBP法を適用した場合の理論走時の影響を確認した。津波数値シミュレーションコードのJAGRUS (Baba et al., 2015)を用いて、幅2kmの2次元ガウス関数を波源とした津波を計算し、各観測点におけるグリーン関数とした。水深データにはETOPO1 (Amante and Eakins, 2009)を、観測波形をスタックする際に必要な理論走時の計算にはFast Marching Method (Sethian, 1999)を用いた。S-netのS1-S5の観測点におけるグリーン関数を足し合わせた結果を図1に示す。実際の水深データを用いて足し合わせた波形はt=0にピークを持っており、デルタ関数によって近似できる。つまり、理論走時を精度良く計算することができる場合は、単純な足し合わせで直逹波を抽出することができると考えられる。
次に実際のデータの例として、2016年11月22日の福島県沖地震(Mw6.9)に伴って発生した津波のS-net海底水圧記録に対してBP法を適用した。S-netのS1-S5のサブシステムの中で、生の水圧記録とNAOTIDE (Matsumoto et al., 2000)で計算した理論潮汐との相関が0.8以上となった94観測点を解析に用いた(図2(a))。観測記録の前処理として、(1)理論潮汐を除き、(2)全体の平均値を引くことでDC成分を取り除き、(3)100-3000秒のバンドパスフィルタを適用し、(4)それぞれの最大振幅によって各波形を正規化した。図2に、BP法でスタックして得られた波形を2乗し、最初の300秒を積分した結果を正規化してプロットした。図2(b)における破線は津波インバージョン(Gusman et al., 2017; Adriano et al., 2018)と気象庁による遠地実体波を用いた震源過程解析によって推定された断層すべりによる海底変位を示しており、本研究で得られた振幅分布はそれらと良く一致している。
BP法は対象とする領域と観測点との間の理論走時のみを用いて推定をおこなうため、グリーン関数や逆行列の計算が不要であり、津波波源推定で一般的におこなわれている波形インバージョン(e.g., Satake, 1987)と比べて計算コストが非常に低い。また、津波到達時刻を元にした逆伝播による波源推定(e.g., Hatori, 1969)は走時情報のみを用いるため波源域内での振幅分布を十分に復元できない。したがって、本研究が提案する津波を対象としたBP法は、簡便かつ精度の良い津波波源の推定手法として有用であると考えられる。