The 2021 SSJ Fall Meeting

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Room B

Regular session » S18. Education and history of seismology

PM-1

Sat. Oct 16, 2021 2:00 PM - 3:00 PM ROOM B (ROOM B)

chairperson:Noa Mitsui(Nagoya University)

2:15 PM - 2:30 PM

[S18-02] Questionnaire survey for experts on long-term evaluation of active faults and evaluation of ground motion

〇Noa MITSUI1, Takeshi Sagiya1 (1.Disaster Mitigation Research Center, Nagoya University)

活断層で起きる地震に備えるには、ハザード情報の適切な提供が必要である。しかし、活断層の情報は不確実性を有する。例えば、一つの断層帯における震源断層の区間を正確に決定できないという不確実性が、マグニチュードや再来間隔、地震動の大きさの不確実性を生じる。

この問題に対して現在は、活断層地震に関する確率を計算し、公表する方法で対処している。具体的には、各活断層帯において今後30年以内に発生するM7.0以上の活断層地震を確率で表し、確率に応じたランクで発表する方法(主要活断層の長期評価)ならびに、各地域におけるM6.8以上の活断層地震の発生確率を発表する方法(活断層の地域評価)が地震調査研究推進本部(以降、地震本部)によって行われている。

確率を用いた対処方法について、活断層の長期評価内容を国民にわかりやすく伝えられるように表現を工夫してきたことを高く評価する声もある(山口、2008)。一方、これらの評価が適切に理解されず、本来の意図とは異なる形で使用される事例が指摘されている。また、別の視点からの批判として、Geller(2011)は、確率論的地震動予測地図で高い発生確率を示す場所が過去約30年間の被害地震の発生場所と一致しないことを示している。地球科学的に算出される地震動予測地図と、人間の時間スケールで把握できる被害地震が一致しないということは、地震動予測地図は元々人間が理解しにくい情報である可能性を示す。

これらの状況を考慮して我々は、最初の取り組みとして、現在の活断層情報の伝え方、すなわち、地震本部による公表結果(活断層の長期評価と地震動予測)の適切さを検討する。公表結果の受け止め方に関する調査は、地震本部が一般国民や地方公共団体を対象に行っている(文部科学省、2011-2019)。一方、活断層や地震に関する専門家の意見は、長期評価や地震動予測の作業過程では反映されているが、公表結果の認知度や評価は明らかになっていない。

そこで本研究では、長期評価や地震動予測地図の公表結果について、活断層や地震の専門家へのアンケート調査を実施した。調査対象は、日本活断層学会会員262人および日本地震学会代議員123人である。調査期間は令和3年2月22日~令和3年3月4日(日本活断層学会は令和3年2月24日~令和3年3月4日)である。インターネット上のセルフアンケートサイトQuestantを利用したウェブ調査を行い、各学会のメーリングリストを通じて、回答の協力を依頼した。有効回答数は全体 47件(うち、回答者の所属学会は、活断層学会のみ36.2%、地震学会のみ27.7%、両学会34.0%)であった。

アンケート結果から、まず、自治体職員には活断層に関する情報を幅広く知っていて欲しい、という期待の高さが読み取れた。また、改善案の検討で参考にすべき下記の回答傾向が得られた。

1. 科学的妥当性&信頼性を重視
2. 長期評価等の発信方法:改善の余地が多い
3. 他機関との連携の必要性
4. 評価と災害と関係を述べることが必要
5. 公表結果の活用方法について言及することが必要
6. 外部の知見を取り入れることが必要

その他、情報提供先の区別や新手法への評価など、意見が分かれる検討課題の存在も明らかになった。例えば、委員経験の有無によって「活断層の地域評価」の認知度の違いや、他機関との連携に関する考え方の違いが見られた。後者について、委員経験のない回答者は「情報を受け取る側(住民や自治体)」の視点に立ち、利便性の改善や知識の理解度を考慮した意見が多かった。一方、委員経験者は「情報の発信側(政府)」の視点に立ち、各省庁の目的の違いや、情報を統一する正当性を考慮した意見がしばしば見られた。このように、専門家間でも一つの問題に対して視点の違いに基づく意見の違いがみられたことは重要である。また、このような意見の違いは、専門家間の議論によって、解決策を示せる可能性が考えられる。

上記の意見を、一般国民ならびに地方公共団体を対象とした調査結果(文部科学省、2011-2019)と比較した。その結果、住民は知識より予測される災害を重視する点、地方公共団体は情報源の信頼性や発信方法の改善を求める点など、専門家と共通する意見が多くみられた。また、これらの比較により、専門家を含めた情報発信側の課題も明らかになった。例えば、知識を得る重要性を含めて住民に伝えるよう工夫する、市区町村の防災が中央防災会議や都道府県の指針に沿って行われていることをふまえて情報提供方法を改善する、などの課題が挙げられる。

上記の意見や検討課題は、多角的な視点から具体的な改善策を検討すべきである。そのため、地震動や災害関連などの専門家や地方公共団体の防災担当者、防災関連団体、地域住民への調査を行い、意見を集約して改善案の提案につなげることが今後の課題である。


謝辞
本調査研究においてアンケート調査にご協力いただいた日本活断層学会ならびに日本地震学会の皆様に感謝の意を表します。