2:45 PM - 3:00 PM
[S18-04] Treatment of earthquake and its disaster prevention in primary and lower secondary school science in the 2017 standard curricula
1.はじめに
平成20(2008)年改訂小学校学習指導要領(以下,旧小学習指導要領と記す)および中学校学習指導要領(以下,旧中学習指導要領と記す)(まとめて記す時は,旧小中学習指導要領と記す)の告示以降,平成29(2017)年に改訂された小学校学習指導要領(以下,現行小学習指導要領と記す)および中学校学習指導要領(以下,現行中学習指導要領と記す)(まとめて記す時は,現行小中学習指導要領と記す)が告示されるまでの間に,平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震や平成28年(2016年)熊本地震など最大震度7を記録する大震災を伴う事象が発生している.気象事例でも,平成24年(2012年)九州北部豪雨,平成26年(2014年)8月豪雨,平成27年(2015年)9月関東・東北豪雨など激甚な被害をもたらした気象災害が発生してきている.こうした自然災害の多発を受け,小中学校にて地震や気象,および自然災害に関して旧小中学習指導要領による学びから現行小中学習指導要領による学びにて具体的にどのような変更があったのかを調査分析しておくことは,今後の地震教育,地震防災・減災教育等を考える上で必要であると考え,現行課程の教科書分析を行った.なお,高等学校での学びに関しては,平成30(2018)年改訂の高等学校学習指導要領による学習開始が令和4(2022)年以降であることから,2021年時点では取り上げられない.
2.資料
本発表では,自然現象,自然災害のうち,小中学校「理科」での地震,地震防災・減災の学びに焦点をあて,旧小中学習指導要領および現行小中学習指導要領での課程(以下,順に旧課程,現行課程と記す)による「理科」教科書の記載内容の比較分析および考察を行った結果を報告する.よって,用いた資料は旧課程および現行課程での小中学校「理科」の全教科書(小学校6種類,中学校5種類)である.なお,旧課程での分析に関しては根本(2015a:2015b)にて報告済みである.例えば,旧課程小学校「理科」では,6種類の教科書に共通して使われている地震に関係する用語は僅かに2語(地震,断層)だけであったことを報告している[根本(2015a)].
3.結果および考察
現行課程の小学校「理科」教科書では,6種類の教科書に共通して使われている地震に関係する用語は“地震”,“断層”,“津波”の3語となっている.平成23年(2011)年東北地方太平洋沖地震による津波の影響を受けた結果と考えられる.“断層”と“地震”との説明が地震学的におかしな記述となっている教科書が旧課程の小学校「理科」教科書では6種類中5種類あったが[根本(2015a)],現行課程の教科書では6種類中1種類と改善が進んでいる.この1種類の教科書の説明文も,地震学的に正しい記載であるとも読み取れなくは無いことから,日本語の問題と言えるのかもしれない.
現行小学習指導要領では内容の取扱いにて『自然災害についても触れること。』と旧小学習指導要領には記されていなかった文言が加わった.これを受け,6種類の教科書ともに震災,火山災害の記述が行われるようになったが,取扱いの分量には差が生じている.ページ数で比較すると,火山災害と合わせて3ページの教科書もあれば7ページの教科書もある.使われている用語も教科書により大きく異なっており,例えば,緊急地震速報は4種類の教科書で使われている一方,防災倉庫,稲むらの火,ハザードマップなどは1種類の教科書で使われているだけである.こうした現状は,小学校段階で伝えるべき地震防災・減災に関わる用語選択が,各教科書出版社の判断によっているために生じている可能性が高い.「理科」にて取り扱う地震防災・減災に関係する用語や内容の整理が必要である.
字数制限の関係で「社会科」や現行課程の中学校「理科」教科書の内容に関して本予稿では触れないが,小学校「理科」教科書と同様の課題が浮かび上がってきている.
4.まとめ
旧課程および現行課程の小中学校「理科」教科書の分析から,地震に関する記載の改善が見られていること,および小中学習指導要領での記載の変化により震災,地震防災・減災に関する記述が加わったが,その内容は教科書毎に開きのあることが明らかとなった.今後,小学校段階および中学校段階にて「理科」にて取り扱うべき,地震防災・減災,震災に関して使用する用語および内容の整理を行い提案する必要がある.
参考文献
旧課程および現行課程の小中学校「理科」教科書.
根本泰雄,2015a,(公社)日本地震学会モノグラフ,4,44-48.
根本泰雄,2015b,(公社)日本地震学会モノグラフ,4,56-60.
< https://www.zisin.jp/publications/pdf/monograph4.pdf >
平成20(2008)年改訂小学校学習指導要領(以下,旧小学習指導要領と記す)および中学校学習指導要領(以下,旧中学習指導要領と記す)(まとめて記す時は,旧小中学習指導要領と記す)の告示以降,平成29(2017)年に改訂された小学校学習指導要領(以下,現行小学習指導要領と記す)および中学校学習指導要領(以下,現行中学習指導要領と記す)(まとめて記す時は,現行小中学習指導要領と記す)が告示されるまでの間に,平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震や平成28年(2016年)熊本地震など最大震度7を記録する大震災を伴う事象が発生している.気象事例でも,平成24年(2012年)九州北部豪雨,平成26年(2014年)8月豪雨,平成27年(2015年)9月関東・東北豪雨など激甚な被害をもたらした気象災害が発生してきている.こうした自然災害の多発を受け,小中学校にて地震や気象,および自然災害に関して旧小中学習指導要領による学びから現行小中学習指導要領による学びにて具体的にどのような変更があったのかを調査分析しておくことは,今後の地震教育,地震防災・減災教育等を考える上で必要であると考え,現行課程の教科書分析を行った.なお,高等学校での学びに関しては,平成30(2018)年改訂の高等学校学習指導要領による学習開始が令和4(2022)年以降であることから,2021年時点では取り上げられない.
2.資料
本発表では,自然現象,自然災害のうち,小中学校「理科」での地震,地震防災・減災の学びに焦点をあて,旧小中学習指導要領および現行小中学習指導要領での課程(以下,順に旧課程,現行課程と記す)による「理科」教科書の記載内容の比較分析および考察を行った結果を報告する.よって,用いた資料は旧課程および現行課程での小中学校「理科」の全教科書(小学校6種類,中学校5種類)である.なお,旧課程での分析に関しては根本(2015a:2015b)にて報告済みである.例えば,旧課程小学校「理科」では,6種類の教科書に共通して使われている地震に関係する用語は僅かに2語(地震,断層)だけであったことを報告している[根本(2015a)].
3.結果および考察
現行課程の小学校「理科」教科書では,6種類の教科書に共通して使われている地震に関係する用語は“地震”,“断層”,“津波”の3語となっている.平成23年(2011)年東北地方太平洋沖地震による津波の影響を受けた結果と考えられる.“断層”と“地震”との説明が地震学的におかしな記述となっている教科書が旧課程の小学校「理科」教科書では6種類中5種類あったが[根本(2015a)],現行課程の教科書では6種類中1種類と改善が進んでいる.この1種類の教科書の説明文も,地震学的に正しい記載であるとも読み取れなくは無いことから,日本語の問題と言えるのかもしれない.
現行小学習指導要領では内容の取扱いにて『自然災害についても触れること。』と旧小学習指導要領には記されていなかった文言が加わった.これを受け,6種類の教科書ともに震災,火山災害の記述が行われるようになったが,取扱いの分量には差が生じている.ページ数で比較すると,火山災害と合わせて3ページの教科書もあれば7ページの教科書もある.使われている用語も教科書により大きく異なっており,例えば,緊急地震速報は4種類の教科書で使われている一方,防災倉庫,稲むらの火,ハザードマップなどは1種類の教科書で使われているだけである.こうした現状は,小学校段階で伝えるべき地震防災・減災に関わる用語選択が,各教科書出版社の判断によっているために生じている可能性が高い.「理科」にて取り扱う地震防災・減災に関係する用語や内容の整理が必要である.
字数制限の関係で「社会科」や現行課程の中学校「理科」教科書の内容に関して本予稿では触れないが,小学校「理科」教科書と同様の課題が浮かび上がってきている.
4.まとめ
旧課程および現行課程の小中学校「理科」教科書の分析から,地震に関する記載の改善が見られていること,および小中学習指導要領での記載の変化により震災,地震防災・減災に関する記述が加わったが,その内容は教科書毎に開きのあることが明らかとなった.今後,小学校段階および中学校段階にて「理科」にて取り扱うべき,地震防災・減災,震災に関して使用する用語および内容の整理を行い提案する必要がある.
参考文献
旧課程および現行課程の小中学校「理科」教科書.
根本泰雄,2015a,(公社)日本地震学会モノグラフ,4,44-48.
根本泰雄,2015b,(公社)日本地震学会モノグラフ,4,56-60.
< https://www.zisin.jp/publications/pdf/monograph4.pdf >