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[S21P-02] Rupture propagation effects of moderate-sized earthquakes off Fukushima prefecture derived from source spectra
本研究では、2016年8月から観測が開始されたS-netとK-NET、KiK-netの強震記録を用いて、2021年2月13日の福島県沖の地震(Mw7.0)の震源域の11の中規模地震の破壊伝播方向と震源スペクトルに寄与する破壊伝播効果について検討した。2016年8月から2021年3月までの震源深さ40~60kmの地震であり、本震と同タイプ(down-dip compression)の4つのスラブ内地震(Mw4.4-5.0)と7つのプレート境界地震(Mw4.7-6.3)を対象とした。このMwの範囲は、本震の強震動生成域を経験的グリーン関数法で推定するための要素地震の選択を念頭においたものである。震源距離150km以下の水平成分のS波部を対象とし、最大加速度が200cm/s2以上のデータは対象外とした。RT変換し、フーリエ振幅の2乗和の平方根を検討対象とした。 基準地震に対する同一観測点での他の地震のフーリエ振幅スペクトル比を距離補正して、観測震源スペクトル比を算出した。そして、すべり量とライズタイムが一定でユニラテラル破壊を仮定し、コーナー周波数より高周波数の震源スペクトル比が破壊伝播方向と震源での波線の方向のはさむ角に依存するモデルを用いて、破壊伝播方向を推定した。基準地震及び他の10地震の破壊伝播方向を-170°~180°を10°刻みで与えて、基準地震と他の10地震の断層面内での破壊伝播方向を、観測震源スペクトル比をターゲットにグリッドサーチで推定した。7つの周波数帯域(0.2-0.5、0.5-1.0、1-2、2-3、3-5、5-7、7-10Hz)で算出した観測震源スペクトル比は1-5Hzで方位依存性が大きく、特に、2-3Hzで顕著であった。観測震源スペクトル比から推定された対象地震のコーナー周波数は、ほとんどの地震で1-4Hzであることから、大規模地殻内地震で指摘されているディレクティビティパルスの周期の地震規模依存性と同様に、地震規模に依存していると考えられる。一方、0.2~0.5Hzの観測震源スペクトル比はラディエーションパターンの方位依存性と類似していた。そこで、本研究では、2-3Hzの観測震源スペクトル比を破壊伝播方向を推定した。なお、基準地震との方位角の差が45°以上のデータは除いた。S波速度に対する破壊伝播速度の比は0.7と0.8のケースを検討し、差は極めて小さいものの観測との残差が小さい方の0.7を用いた。 モデルスペクトル比は、観測震源スペクトル比の方位角依存性を震源距離150kmまで良く再現しており、4つのスラブ内地震はupdip方向の破壊伝播が推定された。すなわち、西の陸側に向かう伝播方向である。一方、プレート境界地震は5つはupdip方向、2つはdowndip方向の破壊伝播が推定された。downdip方向に伝播した1地震は、pure updip方向であるが、他の1地震はほぼ水平に近い方向であった。この水平に近い破壊伝播の地震と5つのupdip方向の破壊伝播の地震は、南方向に近い破壊伝播である。pure updip方向の破壊は、震源から西の陸側に向かう伝播方向である。4つのスラブ内地震の全無限弾性体のSV波とSH波の2乗和の平方根のラディエーションパターンは、いずれも震源の西側の陸域で大きく、破壊伝播でスペクトルレベルが大きくなる領域と重なっていることがわかった。したがって、観測震源スペクトル比は全観測点での平均より、陸域の観測点での平均が大きくなり、S-netでの平均は小さくなっている。陸域の観測点での平均をターゲットに短周期レベル(コーナー周波数より高周波数側の加速度震源スペクトルの一定レベル)を推定した結果、全観測点での平均をターゲットにした場合の2倍程度大きい値が推定された。一方、プレート境界地震のラディエーションパターンが大きくなる領域は、陸域では沿岸部ではなく震源から遠い内陸部であり、破壊伝播効果によりスペクトルレベルが大きくなる領域はほとんど重なっていない。したがって、陸側に破壊伝播する1地震を除き、全観測点での平均をターゲットにした場合と陸域の観測点での平均をターゲットにした場合の短周期レベルの違いはほとんどなかった。2021年福島県沖の地震が震源から同心円状に破壊したとすると、1日以内の余震分布や震源インバージョンによるすべり量の大きな領域に対応する破壊伝播方向に近いのは、2017年7月15日のスラブ内地震(Mj4.6)であり、全観測点の観測震源スペクトル比から推定されたコーナー周波数は3.16Hz、Bruneの応力降下量は27MPaであった。 謝辞:本研究では防災科学技術研究所のS-net、K-NET、KiK-net、F-net、気象庁の一元化震源情報を用いました。