日本地震学会2021年度秋季大会

講演情報

B会場

特別セッション » S22. AIによる地震学の発展

PM-1

2021年10月14日(木) 14:00 〜 15:00 B会場 (B会場)

座長:久保 久彦(防災科学技術研究所)、矢野 恵佑(統計数理研究所)

14:00 〜 14:15

[S22-01] 地震連続波形画像からの深部低周波微動検出に向けた畳み込みニューラルネットワークの構築

〇金子 亮介1,2、長尾 大道2,1、伊藤 伸一2,1、小原 一成2、鶴岡 弘2 (1.東京大学大学院情報理工学系研究科、2.東京大学地震研究所)

深部低周波微動は高感度地震観測網(Hi-net)の整備をきっかけに初めて観測的に見出された現象[1]であり,発見以降多くの研究によって通常の地震との関係性が示唆されている.一方で,微動に関するデータは直近の約20年分しか存在せず,その特性をより深く理解し数十年〜数百年周期で発生する巨大地震の予測などへ活用するためには,さらに過去まで遡ってデータを収集することが重要である.
 現在は地震計で観測された振動を高精度なデジタルデータとして記録するシステムが用いられているが,約50年前は振動に応じて動くペンによって波形を記録紙に連続的に書き記していた.このような古記録は,過去に発生した地球内部起源の振動現象を研究する上での貴重な情報源であり,東京大学地震研究所では和歌山地域に展開されている観測点の古記録をスキャンし画像データとして保存する研究が行われている[2].古記録画像から微動検出を行う場合,微小な微動波形をデジタイズすることは非常に困難であるため,現在のデジタルデータに対して用いられている検出手法を直接適用することはできない.また,古記録の数は膨大であるため,専門家の目視によって個々に検出することは非現実的である.そのため,古記録画像から効率的に微動検出を行う画像処理手法が必要である.
 本研究では,画像認識に特化した深層学習手法の一つである畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いた手法開発に取り組む.CNNモデルは,予め正解が分かっている教師データを学習することによって,モデル内部のパラメータを自動で調整し対象の識別が可能になる.今回の場合,微動カタログ[3–5]をもとにHi-netの記録を教師データとして用いることができるが,実データに含まれる多くのノイズが妨げとなって学習が上手く進行しない可能性がある.そこで,これまでの研究[6]では,古記録画像をもとにした波形画像を人工的に作成しモデルを学習させる数値実験を行ってきた(画像参照).その結果,学習済みモデルは地震や脈動とは区別して微動を認識できることが可能になった.また,教師データには各画像に微動が含まれるか否かのみを正解として与えたのにもかかわらず,モデルは画像内のどの領域に微動が含まれるかも正しく検出することができた.
 本講演では,この数値実験の結果をもとにHi-netの実データを用いてモデルの学習を行った結果を紹介する.人工波形画像による学習済みモデルをファインチューニングに活用しモデルの構造にも改良を加えることで,ノイズを多く含む実データに対しても人工波形画像に対する結果と遜色ない性能を示した.

[1] K. Obara, Nonvolcanic deep tremor associated with subduction in southwest Japan, Science, 296, 1679‒1681, 2002.
[2] K. Satake, H. Tsuruoka, S. Murotani and K. Tsumura, Analog seismogram archivesat the Earthquake Research Institute, the University of Tokyo, Seismological ResearchLetters, 91(3), 1384–1393, 2020.
[3] T. Maeda and K. Obara, Spatio-temporal distribution of seismic energy radiation from low-frequency tremor in western Shikoku, Japan, Journal of Geophysical Research, 114(B10), 2009.
[4] K. Obara, S. Tanaka, T. Maeda and T. Matsuzawa, Depth-dependent activityof non-volcanic tremor in southwest Japan, Geophysical Research Letters, 37(13), 2010.
[5] National Research Institute for Earth Science and Disaster Resilience, Activity of deep low-frequency tremor in southwest Japan (May, 2020 – October, 2020), Report of the Coordinating Committee for Earthquake Prediction, 105, 397–401, 2021.
[6] R. Kaneko, H. Nagao, S. Ito, K. Obara and H. Tsuruoka, Convolutional neural network todetect deep low-frequency tremors from seismic waveform images, Trends andApplications in Knowledge Discovery and Data Mining (Lecture Notes in Computer Science,vol. 12705), 31‒43, 2021.