日本地震学会2021年度秋季大会

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B会場

特別セッション » S22. AIによる地震学の発展

PM-1

2021年10月14日(木) 14:00 〜 15:00 B会場 (B会場)

座長:久保 久彦(防災科学技術研究所)、矢野 恵佑(統計数理研究所)

14:45 〜 15:00

[S22-04] ガウス過程によるCMTデータインバージョンの試み

〇岡崎 智久1、深畑 幸俊2 (1.国研)理化学研究所 革新知能総合研究センター、2.京都大学 防災研究所)

地殻の応力状態を推定する応力インバージョン手法の一つであるCMTデータインバージョン(Terakawa and Matsu’ura, 2008)は、地震による応力解放が周辺の応力場に比例するという仮定の下で、CMT解から応力場の空間パターンを推定する。原論文では基底関数展開(Yabuki and Matsu’ura, 1992)によるインバージョン解析が適用された。

一般に基底関数展開では、モデル・パラメタ数が高次元データに対し指数的に増大し、計算量的に困難となる問題(次元の呪い)が知られている。回帰問題においては、モデル・パラメタが陽に現れないガウス過程回帰を用いることで、次元の呪いを回避できることが知られている。CMTデータは3次元空間内に分布するため、広域を解析対象とするとモデル・パラメタ数が顕著に増大し(Terakawa and Matsu’ura, 2010)、更に時間変化を取り入れた場合には、計算量的な困難が予想される。本研究では、ガウス過程によりCMTデータインバージョンを解くことで、この計算量的な困難の解決を試みた。

回帰問題ではデータと推定量が同一の物理量であるが、CMTデータインバージョンでは、データがCMT解である一方、推定量は応力場であるため、そのままではガウス過程が適用できない。そこで本研究では、(1)応力場の共分散関数からCMT解の共分散関数を導出、(2)応力場をCMT解の断層長0の極限として表現、という新たな定式化を開発することにより、この問題を解決した。

基底関数展開およびガウス過程を東北地方周辺のCMTデータに適用した。データの期間は、2011年東北沖地震後から2019年末である。その結果、(1)データのある領域では両手法は概ね調和的な結果を与えること、(2)データのない領域では、基底関数展開では周辺領域の推定値を内挿するが、ガウス過程では相関距離を超えると推定値が0に収束することを確認した(図1)。(2)の結果は、先験情報として、基底関数展開では滑らかな空間変化を課す一方、ガウス過程では平均0の事前分布を設定することに起因しており、ガウス過程を地球物理学データに適用・解釈する際の注意点といえる。さらに発表では、日本全国のCMTデータに対するガウス過程のインバージョン解析結果を示し、応力場の空間変化を概観する。

本研究では、基底関数展開を適用可能な問題設定において、ガウス過程による解析の動作確認および手法比較を行った。今後の展開としては、ガウス過程がより有効となる、時間軸を含む4次元CMTデータを解析することで、応力場の時間変化の抽出を試みる。