15:30 〜 17:00
[S22P-02] 室内水圧破砕実験で誘発された微小破壊のモーメントテンソル解析を目的とした深層学習によるP波初動振幅読み取り
指向性が公表されておらず,設置状態によって感度が変化するAEセンサの記録に対しては,振幅を用いた解析は簡単ではないが,これらの特性を適切に補正することで個々のAEイベントのモーメント・テンソル解(以下MT解)を推定できる.Yamamoto et al. (2019; GJI), Naoi et al. (2020; GJI), Tanaka et al. (2021; GJI)では,シェールガス・オイル開発における水圧破砕亀裂進展プロセスの解明を目的とした室内実験で記録されたAEに対し,P波初動極性・振幅を読み取り,個々のセンサ感度及び指向性を補正して逆解析を行うことで,MT解の推定に成功している.
Yamamoto et al. (2019),Naoi et al. (2020)では,解析対象となるイベントが1供試体あたり多くても数百個程度だったため,極性・振幅は手動で読み取られたが,Tanaka et al. (2021)では,1供試体あたり数千個,合計10供試体で5万個に及ぶAEイベントを解析対象としており,手動処理は不可能であった.そこでTanaka et al. (2021)では,1次元の畳み込みニューラルネットワークを用いて up, downの二値分類問題としてP波の初動極性を読み取り,結果がup(down)であれば理論走時周辺の波形の最大(最小)値を初動振幅値とする,という方法で逆解析に用いる振幅値を取得した.しかし,この方法には,1)理論P波走時と初動ピーク値を取るタイミングの差が大きい場合に振幅値を誤って読み取る可能性が高い,2)波形のどの場所を参照したかの情報は得られないので,特にSN比が低い波形において,波形を目視で確認しても読み取りの妥当性が判断し難い,3)訓練・検証は SNの良い波形を用いて行っているのに対し,実際の推論はよりSNが悪いものに対しても適用しているので,検証データで得られた性能指標が,実際に適用する場合の読み取りの精度を表していない,という問題があった.
そこで本研究では,初動極性ではなく,初動ピーク値をとる時刻を読み取る深層学習ネットワークを構築し,訓練・検証・テストに,SNの良い波形とノイズ波形を合成したものを用いることで,上記の問題を改善して,MT解析に必要な初動振幅値を取得することを試みた.解析には,Zhu and Beroza (2019)が実体波の走時検測に用いたものと類似したUnet型(Ronneberger et al. 2015)のアーキテクチャを採用した.ネットワークへの入力は,10 MHz samplingで収録されたP波走時前後512 サンプルの波形を用いた.出力は512サンプルの波形の各ポイントがP波の初動ピーク時刻に対応する確率値とし,教師データにおいては,読み取り初動ピーク値のタイミングで1の値を持つ,幅1.0 μs(10サンプル)の三角形形状の確率値を与えて訓練を実施した.
訓練・検証・テストデータは,Naoi et al. (2020)が実施した米国産イーグルフォード頁岩で行った2実験,Tanaka et al. (2021)で実施した山口県産黒髪島花崗岩で行った10実験,及び新たに実施した香川県産庵治花崗岩で行った1実験で得られたAEデータの中からSN比が良い波形を選び,実験開始直後のAEシグナルが含まれていない時間帯のノイズ記録を合成することで作成した.このとき,シグナルが含まれている波形に適当な倍率をかけて振幅を調整することで,さまざまなSN比の波形を再現した.また,訓練データの作成においては,各シグナル波形に対して10個のノイズ波形と組み合わせることでデータを水増しし,合計423 732個の波形データを用意した.訓練後のネットワークをテストデータに適用した結果に対し,出力スコアの最大値が0.5以上でかつ読み取り時刻の走時差が2サンプル以下のものを正解と定義して性能を評価した結果,precisionが0.888,recallが0.965,accuracy が0.866,F1値が0.925であった.なお,テストデータにはSN比が非常に低いイベントが含まれており,読み取り時刻の振幅値のプレシグナルに対するSN比が1.5以上という条件でデータを選別したところ,precisionは0.962まで上昇した.
本研究は独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (JOGMEC) ,科研費 (16H04614;21H01191) ,文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の援助により行われました.
Yamamoto et al. (2019),Naoi et al. (2020)では,解析対象となるイベントが1供試体あたり多くても数百個程度だったため,極性・振幅は手動で読み取られたが,Tanaka et al. (2021)では,1供試体あたり数千個,合計10供試体で5万個に及ぶAEイベントを解析対象としており,手動処理は不可能であった.そこでTanaka et al. (2021)では,1次元の畳み込みニューラルネットワークを用いて up, downの二値分類問題としてP波の初動極性を読み取り,結果がup(down)であれば理論走時周辺の波形の最大(最小)値を初動振幅値とする,という方法で逆解析に用いる振幅値を取得した.しかし,この方法には,1)理論P波走時と初動ピーク値を取るタイミングの差が大きい場合に振幅値を誤って読み取る可能性が高い,2)波形のどの場所を参照したかの情報は得られないので,特にSN比が低い波形において,波形を目視で確認しても読み取りの妥当性が判断し難い,3)訓練・検証は SNの良い波形を用いて行っているのに対し,実際の推論はよりSNが悪いものに対しても適用しているので,検証データで得られた性能指標が,実際に適用する場合の読み取りの精度を表していない,という問題があった.
そこで本研究では,初動極性ではなく,初動ピーク値をとる時刻を読み取る深層学習ネットワークを構築し,訓練・検証・テストに,SNの良い波形とノイズ波形を合成したものを用いることで,上記の問題を改善して,MT解析に必要な初動振幅値を取得することを試みた.解析には,Zhu and Beroza (2019)が実体波の走時検測に用いたものと類似したUnet型(Ronneberger et al. 2015)のアーキテクチャを採用した.ネットワークへの入力は,10 MHz samplingで収録されたP波走時前後512 サンプルの波形を用いた.出力は512サンプルの波形の各ポイントがP波の初動ピーク時刻に対応する確率値とし,教師データにおいては,読み取り初動ピーク値のタイミングで1の値を持つ,幅1.0 μs(10サンプル)の三角形形状の確率値を与えて訓練を実施した.
訓練・検証・テストデータは,Naoi et al. (2020)が実施した米国産イーグルフォード頁岩で行った2実験,Tanaka et al. (2021)で実施した山口県産黒髪島花崗岩で行った10実験,及び新たに実施した香川県産庵治花崗岩で行った1実験で得られたAEデータの中からSN比が良い波形を選び,実験開始直後のAEシグナルが含まれていない時間帯のノイズ記録を合成することで作成した.このとき,シグナルが含まれている波形に適当な倍率をかけて振幅を調整することで,さまざまなSN比の波形を再現した.また,訓練データの作成においては,各シグナル波形に対して10個のノイズ波形と組み合わせることでデータを水増しし,合計423 732個の波形データを用意した.訓練後のネットワークをテストデータに適用した結果に対し,出力スコアの最大値が0.5以上でかつ読み取り時刻の走時差が2サンプル以下のものを正解と定義して性能を評価した結果,precisionが0.888,recallが0.965,accuracy が0.866,F1値が0.925であった.なお,テストデータにはSN比が非常に低いイベントが含まれており,読み取り時刻の振幅値のプレシグナルに対するSN比が1.5以上という条件でデータを選別したところ,precisionは0.962まで上昇した.
本研究は独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (JOGMEC) ,科研費 (16H04614;21H01191) ,文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の援助により行われました.