12:00 〜 12:15
[S23-10] 連続地震計記録の極値統計解析に基づく大地震後の平常時に対する揺れやすさの予測
大地震の直後には地震カタログの品質が低下し、地震カタログに基づく地震活動予測が困難となる。そのため、カタログによらず、地震計記録を直接解析することにより余震による最大振幅を予測する手法が近年提案されている。この手法では、連続地震動記録の区間最大振幅(等時間間隔ごとの最大振幅)が極値分布の一種である非定常Frechet分布にしたがうことを利用し、極値統計解析を用いて揺れの超過確率を予測する。区間最大振幅は地震波の重なり合いの影響をほとんど受けないため、本震発生から数時間以内でロバストな予測が可能となる。さらに、この手法は大地震後に限らず普段の地震動記録にも適用できると考えられ、対象観測点における揺れやすさの「平常時からの倍率」を予測することもできる。平常時からの倍率は発生確率よりも体感的にわかりやすい指標であるため、地震情報を提供する際に有用と考えられる。本研究では、極値統計解析に基づく予測手法を2008年岩手・宮城内陸地震(MJ7.2)2018年大阪府北部の地震(MJ6.1)、2021年福島県沖の地震(MJ7.3)の前後におけるHi-netの連続地震動記録(強震動については併設のKiK-net記録を使用)に適用し、本震後に任意の値以上の揺れが生じる確率が平常時と比較してどれくらい増加したかを調査した。
適用した極値統計解析の手法は主にSawazaki (2021)に基づく。本震後1時間ごとに24時間後までの期間について、非定常Frechet分布を1分毎の区間最大振幅に適用し、分布を規定するパラメータA(地震の活動度、震源距離、サイト増幅率などを反映)、p(地震活動の時間減衰を反映。大森―宇津式のp値に相当)、m(最大振幅の規模別頻度分布を反映)を推定した。推定したパラメータを用いて、本震の4日後までの最大振幅の超過確率を計算した。このとき、パラメータの推定値だけではなく、その不確定性を予測に反映させるベイズ予測を採用した。平常時については、本震前半年間の連続地震計記録について半日ごとの区間最大振幅を計算し、同様の解析を行った。ただし、平常時には地震発生頻度が時間変化しないと仮定し、p値を0に固定した。また、Sawazaki (2021)では雑微動レベルを反映するパラメータxminも同時に推定していたが、今回はこの値を本震前の雑微動レベルに基づきあらかじめ固定した上で解析を行った。
解析の結果、3つの本震はそれぞれ規模やメカニズムが異なり、観測点ごとに震源距離やサイト増幅率などが異なるにもかかわらず、いずれの地震、観測点でも、本震発生後数時間以内にロバストな予測を示した。例として図1aに、10-2m/s以上の最大振幅(震度2から3相当。ただしHi-netは地中に設置されているため、地表ではこれを上回る揺れが生じる)が起こる超過確率の推移を、岩手・宮城内陸地震の3時間後時点で予測した結果を示す。本震後は大森―宇津則にしたがい地震活動が減衰するので超過確率曲線は次第に緩やかになるが、それでも4日後までに10-2m/s以上の揺れが起こる確率は36-91%と高い。実際には、N.ICEHとN.KGSH観測点で本震の4時間後に10-2m/s以上の最大振幅を観測した。図1bは、本震が起こらなかった場合についての超過確率の推移予測である。本震前の期間については地震活動の定常性を仮定したため、超過確率はほぼ直線的に増加する。4日後までに10-2m/s以上の最大振幅が起こる確率はいずれの観測点でも0.8%未満である。図1aと1bの確率の比を示した図1cは、超過確率の平常時に対する倍率の予測を表す。平常時からの倍率は、4日後時点でも90-220倍と高い水準を維持している。震源距離やサイト増幅率などを反映して、観測点によっても値の差が大きい。
同様の解析結果を大阪府北部の地震と福島県沖の地震についてそれぞれ図2、3に示す。大阪府北部の地震の規模は他の二つの地震より小さいため、超過確率の絶対値は3-16%と低い(図2a)が、近畿地方の普段の地震活動も0.14%未満と低い(図2b)ため、平常時からの倍率は20-200倍と高めに推定された(図2c)。福島県沖の地震は規模が大きく超過確率の絶対値は20-70%と高い(図3a)が、東北地方の普段の地震活動が0.2-2.2%と活発であるため(図3b)、平常時に対する倍率は10-110倍と今回の解析例の中では低く推定された(図3c)。なお、図2、3で使用した8観測点のうち、福島県沖の地震におけるN.NMEH観測点以外では、10-2m/s以上の最大振幅は4日後までに生じなかった。
適用した極値統計解析の手法は主にSawazaki (2021)に基づく。本震後1時間ごとに24時間後までの期間について、非定常Frechet分布を1分毎の区間最大振幅に適用し、分布を規定するパラメータA(地震の活動度、震源距離、サイト増幅率などを反映)、p(地震活動の時間減衰を反映。大森―宇津式のp値に相当)、m(最大振幅の規模別頻度分布を反映)を推定した。推定したパラメータを用いて、本震の4日後までの最大振幅の超過確率を計算した。このとき、パラメータの推定値だけではなく、その不確定性を予測に反映させるベイズ予測を採用した。平常時については、本震前半年間の連続地震計記録について半日ごとの区間最大振幅を計算し、同様の解析を行った。ただし、平常時には地震発生頻度が時間変化しないと仮定し、p値を0に固定した。また、Sawazaki (2021)では雑微動レベルを反映するパラメータxminも同時に推定していたが、今回はこの値を本震前の雑微動レベルに基づきあらかじめ固定した上で解析を行った。
解析の結果、3つの本震はそれぞれ規模やメカニズムが異なり、観測点ごとに震源距離やサイト増幅率などが異なるにもかかわらず、いずれの地震、観測点でも、本震発生後数時間以内にロバストな予測を示した。例として図1aに、10-2m/s以上の最大振幅(震度2から3相当。ただしHi-netは地中に設置されているため、地表ではこれを上回る揺れが生じる)が起こる超過確率の推移を、岩手・宮城内陸地震の3時間後時点で予測した結果を示す。本震後は大森―宇津則にしたがい地震活動が減衰するので超過確率曲線は次第に緩やかになるが、それでも4日後までに10-2m/s以上の揺れが起こる確率は36-91%と高い。実際には、N.ICEHとN.KGSH観測点で本震の4時間後に10-2m/s以上の最大振幅を観測した。図1bは、本震が起こらなかった場合についての超過確率の推移予測である。本震前の期間については地震活動の定常性を仮定したため、超過確率はほぼ直線的に増加する。4日後までに10-2m/s以上の最大振幅が起こる確率はいずれの観測点でも0.8%未満である。図1aと1bの確率の比を示した図1cは、超過確率の平常時に対する倍率の予測を表す。平常時からの倍率は、4日後時点でも90-220倍と高い水準を維持している。震源距離やサイト増幅率などを反映して、観測点によっても値の差が大きい。
同様の解析結果を大阪府北部の地震と福島県沖の地震についてそれぞれ図2、3に示す。大阪府北部の地震の規模は他の二つの地震より小さいため、超過確率の絶対値は3-16%と低い(図2a)が、近畿地方の普段の地震活動も0.14%未満と低い(図2b)ため、平常時からの倍率は20-200倍と高めに推定された(図2c)。福島県沖の地震は規模が大きく超過確率の絶対値は20-70%と高い(図3a)が、東北地方の普段の地震活動が0.2-2.2%と活発であるため(図3b)、平常時に対する倍率は10-110倍と今回の解析例の中では低く推定された(図3c)。なお、図2、3で使用した8観測点のうち、福島県沖の地震におけるN.NMEH観測点以外では、10-2m/s以上の最大振幅は4日後までに生じなかった。