9:30 AM - 12:00 PM
[S03P-06] Recent GNSS-Acoustic seafloor geodetic observations off Tohoku and their results
2011年東北地方太平洋沖地震(M9.0)では,宮城県沖のプレート境界浅部まで達する巨大な断層すべりが発生し,地震後には主に余効すべりと粘弾性緩和による顕著な余効変動が生じている.陸上の地殻変動観測に加え,GNSS音響結合方式による海底地殻変動観測(GNSS-A観測)により,余効変動の空間パターンが明らかになってきている(e.g., Honsho et al., 2019; Watanabe et al., 2021).
東北大学では,2012年に20点のGNSS-A観測点を東北沖に設置し,観測を実施しており,2016年9月までは各観測点で年に1〜2回程度の船舶を海上プラットフォーム(海上局)として活用したキャンペーン観測を実施しており,その観測成果はHonsho et al. (2019)にまとめられている.それ以降は,船舶の運用コストの問題で高頻度の観測は実施できない状態となっていた.しかし,2019年より波の力により無人で航行可能なウェーブグライダーを海上局として運用する試みを開始し(Iinuma et al., 2021),2020年以降は多観測点を巡る運用を年に2回実施することに成功している.ただし,ウェーブグライダーは海流の強い海域での運用が困難であるため,黒潮続流の影響の無い宮城県沖以北の観測点でしか運用できておらず,茨城・福島県沖の観測点については,従来通り船舶を海上局とした観測を実施している.しかし,共同利用の船舶や傭船以外にも,船底に海底地殻変動観測用の音響トランスデューサーを装備したJAMSTECのかいめいや東京海洋大学汐路丸での協力観測を仰ぐ体制が整い,船舶での観測も補強されつつある.本発表では, 2022年7月までに実施したウェーブグライダーおよび船舶を用いたGNSS-A観測成果について紹介する.
上記の観測データを解析し,各観測点での水平・上下変位を推定した.地震時の主破壊域に位置する宮城県沖の観測点は,概ね2016年9月までの変動の傾向に沿うもの粘弾性緩和によると考えられる西向きの変動が得られた.この変動は時間変化が小さく,時定数の長い粘弾性緩和の影響であることが示唆される.また,宮城県沖では海溝近傍まで沈降傾向が見られているが,こうした変動は既存の粘弾性緩和モデル(e.g., Sun et al., 2014)では説明できない.そのため,GNSS-A観測で得られた上下変動も踏まえた粘弾性緩和モデルの改訂が必要であると考えている.岩手県沖・青森県沖の観測点は,宮城県沖に比べ変動量が小さいが,近年では西向きの傾向が強くなっている様子が見られ,余効すべりの減衰等によりプレート間固着や粘弾性緩和の影響が現れていると考えられる.福島・茨城県沖の観測点は,2016年9月の観測までで見られていた余効すべりの影響と考えられる東向きの挙動が概ね収束している様子が見られた.これらの結果は,余効変動モデルの改訂や今後のプレート境界での歪み蓄積の把握につながるものであると考えられる.
本稿の執筆時点では,2022年5-7月に実施したウェーブグライダーによる観測成果は海中音速の水平成層構造を仮定した手法により解析した暫定的なものである.本発表では,観測データの精査と海中音速の水平不均質を考慮した解析を行い,より確度の高い推定結果を報告する.
参考文献
Honsho et al. (2019), Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 124, 5990-6009, doi:10.1029/2018JB017135
Iinuma et al. (2021), Frontiers in Earth Science, 9:600946, doi:10.3389/feart.2021.600946
Sun et al. (2014), Nature, 514, 84-87, doi:10.1038/nature13778
Watanabe et al. (2021), Earth, Planets and Space, 73:162, doi:10.1186/s40623-021-01487-0
東北大学では,2012年に20点のGNSS-A観測点を東北沖に設置し,観測を実施しており,2016年9月までは各観測点で年に1〜2回程度の船舶を海上プラットフォーム(海上局)として活用したキャンペーン観測を実施しており,その観測成果はHonsho et al. (2019)にまとめられている.それ以降は,船舶の運用コストの問題で高頻度の観測は実施できない状態となっていた.しかし,2019年より波の力により無人で航行可能なウェーブグライダーを海上局として運用する試みを開始し(Iinuma et al., 2021),2020年以降は多観測点を巡る運用を年に2回実施することに成功している.ただし,ウェーブグライダーは海流の強い海域での運用が困難であるため,黒潮続流の影響の無い宮城県沖以北の観測点でしか運用できておらず,茨城・福島県沖の観測点については,従来通り船舶を海上局とした観測を実施している.しかし,共同利用の船舶や傭船以外にも,船底に海底地殻変動観測用の音響トランスデューサーを装備したJAMSTECのかいめいや東京海洋大学汐路丸での協力観測を仰ぐ体制が整い,船舶での観測も補強されつつある.本発表では, 2022年7月までに実施したウェーブグライダーおよび船舶を用いたGNSS-A観測成果について紹介する.
上記の観測データを解析し,各観測点での水平・上下変位を推定した.地震時の主破壊域に位置する宮城県沖の観測点は,概ね2016年9月までの変動の傾向に沿うもの粘弾性緩和によると考えられる西向きの変動が得られた.この変動は時間変化が小さく,時定数の長い粘弾性緩和の影響であることが示唆される.また,宮城県沖では海溝近傍まで沈降傾向が見られているが,こうした変動は既存の粘弾性緩和モデル(e.g., Sun et al., 2014)では説明できない.そのため,GNSS-A観測で得られた上下変動も踏まえた粘弾性緩和モデルの改訂が必要であると考えている.岩手県沖・青森県沖の観測点は,宮城県沖に比べ変動量が小さいが,近年では西向きの傾向が強くなっている様子が見られ,余効すべりの減衰等によりプレート間固着や粘弾性緩和の影響が現れていると考えられる.福島・茨城県沖の観測点は,2016年9月の観測までで見られていた余効すべりの影響と考えられる東向きの挙動が概ね収束している様子が見られた.これらの結果は,余効変動モデルの改訂や今後のプレート境界での歪み蓄積の把握につながるものであると考えられる.
本稿の執筆時点では,2022年5-7月に実施したウェーブグライダーによる観測成果は海中音速の水平成層構造を仮定した手法により解析した暫定的なものである.本発表では,観測データの精査と海中音速の水平不均質を考慮した解析を行い,より確度の高い推定結果を報告する.
参考文献
Honsho et al. (2019), Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 124, 5990-6009, doi:10.1029/2018JB017135
Iinuma et al. (2021), Frontiers in Earth Science, 9:600946, doi:10.3389/feart.2021.600946
Sun et al. (2014), Nature, 514, 84-87, doi:10.1038/nature13778
Watanabe et al. (2021), Earth, Planets and Space, 73:162, doi:10.1186/s40623-021-01487-0