3:45 PM - 4:00 PM
[S15-23] Strong ground motion simulation of the great 1923 Kanto earthquake in the Tokyo metropolitan area: Remodeling of source parameters and estimation of detailed seismic intensity distribution
1.はじめに
首都圏に甚大な被害を及ぼした1923年関東地震に関して、著者らは震度データに基づく断層モデルの構築と統計的グリーン関数法による強震動シミュレーションを行ってきた。既報のSuzuki et al. (2020)では、多重クラックモデルにより断層モデルを構築していたこと、評価地点がK-NET、KiK-netの強震観測点に限られていたことが課題であった。そこで本報では、断層モデルを多重アスペリティモデルに基づき再構築した上で、K-NET、KiK-netの強震動シミュレーション結果による震度分布を面的補間し、詳細な震度分布を推定する。
2.多重アスペリティモデルによる断層モデルの再構築
強震動予測のレシピにおいて、多重クラックモデルは応力降下量に関して動力学的断層モデルと必ずしも整合的ではないことなどから、多重アスペリティモデルに基づくレシピの再構築が行われた(入倉ほか、2002)。本報でも、多重アスペリティモデルにより、神田・加藤(2019)の震度データに基づき推定された断層全体の地震モーメントM0と短周期レベルA、小断層ごとのエネルギー放出分布とそこから抽出されたSMGAの領域を与条件として、断層モデルを再構築する。具体的には、M0、A、全SMGAの総面積の等価半径rから、Boatwright (1988)および壇ほか(2001)の単一アスペリティモデルの理論的関係により断層全体面積の等価半径Rを算出し、Eshelby (1957)の円形クラックの関係から断層全体の静的応力降下量Δσを算出した。Δσと断層全体と全SMGAの面積比からMadariaga (1979)の関係式により全SMGAの平均応力降下量Δσaを算出した。単一アスペリティモデルは多重アスペリティモデルに拡張可能であるため、i番目のSMGAと背景領域の地震モーメントM0ai、M0bを全体のM0からエネルギー放出分布の割合に比例して分配した上で、各SMGAの応力降下量Δσaiは壇ほか(2002)に基づきΔσai∝Dai/Sai0.5(DaiとSaiはそれぞれ各SMGAのすべり量と面積)となるようΔσaを分配した。
3.クリギング法による詳細震度分布の推定
3.1 推定手法
上記の断層モデルのSMGAを用いてSuzuki et al. (2020)と同様に強震観測点の波形を評価し計測震度を算出した。クリギング法によりこれらの震度を面的に補間する。震度を単純にクリギング法で補間すると、距離が近い強震観測点に近い震度になるが、距離が近くてもその地点の地下構造が異なれば震度は異なると考えられる。そのためここでは補間地点の地盤情報と震源距離を反映して補間する。具体的には、強震観測点の震度を地盤情報と震源距離で回帰し、回帰残差をクリギング法により補間した上で、補間地点の地盤情報と震源距離から求めた回帰式により震度を評価する。震源距離も用いる理由としては、クリギング法は空間相関を持つ分布の補間に適しており、震源距離の影響も除いた残差の方が除かない残差よりも空間相関が見られるためである。地盤情報は面的なデータが公表されているJ-SHIS V4の表層30m平均S波速度と、深部地盤の情報としてJ-SHIS V3.2のVs 1000 m/sの下面深度を用いた。震源距離には等価震源距離を用いた。
3.2 推定結果
推定した詳細震度分布を図1に示す。神奈川南部や千葉南部で震度6強~7、東京東部で震度6弱~6強となる傾向や、埼玉東部まで震度6弱が広がっている傾向などは、諸井・武村(2002)による木造住家全壊率に基づく広域な震度分布を概ね良好に再現している。さらに、地域ごとに詳細な震度分布を評価している諸井・武村(2001)、武村・諸井(2001、2002)、高浜ほか(2001)、武村(2003)とも比較を行い、各地域内での詳細な震度の違いについても対応を確認した。また本報の結果によれば、1923年当時は陸地として存在しなかった地点として、羽田空港などの東京湾岸の埋め立て地は当時の東京市と同等の揺れが予想される。
首都圏に甚大な被害を及ぼした1923年関東地震に関して、著者らは震度データに基づく断層モデルの構築と統計的グリーン関数法による強震動シミュレーションを行ってきた。既報のSuzuki et al. (2020)では、多重クラックモデルにより断層モデルを構築していたこと、評価地点がK-NET、KiK-netの強震観測点に限られていたことが課題であった。そこで本報では、断層モデルを多重アスペリティモデルに基づき再構築した上で、K-NET、KiK-netの強震動シミュレーション結果による震度分布を面的補間し、詳細な震度分布を推定する。
2.多重アスペリティモデルによる断層モデルの再構築
強震動予測のレシピにおいて、多重クラックモデルは応力降下量に関して動力学的断層モデルと必ずしも整合的ではないことなどから、多重アスペリティモデルに基づくレシピの再構築が行われた(入倉ほか、2002)。本報でも、多重アスペリティモデルにより、神田・加藤(2019)の震度データに基づき推定された断層全体の地震モーメントM0と短周期レベルA、小断層ごとのエネルギー放出分布とそこから抽出されたSMGAの領域を与条件として、断層モデルを再構築する。具体的には、M0、A、全SMGAの総面積の等価半径rから、Boatwright (1988)および壇ほか(2001)の単一アスペリティモデルの理論的関係により断層全体面積の等価半径Rを算出し、Eshelby (1957)の円形クラックの関係から断層全体の静的応力降下量Δσを算出した。Δσと断層全体と全SMGAの面積比からMadariaga (1979)の関係式により全SMGAの平均応力降下量Δσaを算出した。単一アスペリティモデルは多重アスペリティモデルに拡張可能であるため、i番目のSMGAと背景領域の地震モーメントM0ai、M0bを全体のM0からエネルギー放出分布の割合に比例して分配した上で、各SMGAの応力降下量Δσaiは壇ほか(2002)に基づきΔσai∝Dai/Sai0.5(DaiとSaiはそれぞれ各SMGAのすべり量と面積)となるようΔσaを分配した。
3.クリギング法による詳細震度分布の推定
3.1 推定手法
上記の断層モデルのSMGAを用いてSuzuki et al. (2020)と同様に強震観測点の波形を評価し計測震度を算出した。クリギング法によりこれらの震度を面的に補間する。震度を単純にクリギング法で補間すると、距離が近い強震観測点に近い震度になるが、距離が近くてもその地点の地下構造が異なれば震度は異なると考えられる。そのためここでは補間地点の地盤情報と震源距離を反映して補間する。具体的には、強震観測点の震度を地盤情報と震源距離で回帰し、回帰残差をクリギング法により補間した上で、補間地点の地盤情報と震源距離から求めた回帰式により震度を評価する。震源距離も用いる理由としては、クリギング法は空間相関を持つ分布の補間に適しており、震源距離の影響も除いた残差の方が除かない残差よりも空間相関が見られるためである。地盤情報は面的なデータが公表されているJ-SHIS V4の表層30m平均S波速度と、深部地盤の情報としてJ-SHIS V3.2のVs 1000 m/sの下面深度を用いた。震源距離には等価震源距離を用いた。
3.2 推定結果
推定した詳細震度分布を図1に示す。神奈川南部や千葉南部で震度6強~7、東京東部で震度6弱~6強となる傾向や、埼玉東部まで震度6弱が広がっている傾向などは、諸井・武村(2002)による木造住家全壊率に基づく広域な震度分布を概ね良好に再現している。さらに、地域ごとに詳細な震度分布を評価している諸井・武村(2001)、武村・諸井(2001、2002)、高浜ほか(2001)、武村(2003)とも比較を行い、各地域内での詳細な震度の違いについても対応を確認した。また本報の結果によれば、1923年当時は陸地として存在しなかった地点として、羽田空港などの東京湾岸の埋め立て地は当時の東京市と同等の揺れが予想される。