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[S18-01] Consideration of seismological information on regional differences in disaster prepardness awareness
地震をはじめとした自然災害が多発する国において,人々の防災行動を促進し,個人レベルにおける防災力を高めることは社会的に重要な課題である.日本ではそのための手法の1つとして,特定の地震への注目度を高めて,人々の意識を向上させる取り組みがなされてきた.1970年代に始まった東海地震対策で顕著になり,2011年東日本大震災以降は南海トラフ地震と首都直下地震にシフトして現在まで続いている.しかし,特定の地震への注目度を高めることは,その対象地震から離れた地方において地震対策への注目度を低下させる危険性をはらんでいる.個人レベルの防災力の評価は,家庭内における具体的な防災行動をリスト化し,それらの対策を多くしている場合に防災力が高く,していない場合には防災力が低いとされることがこれまでに行われきた(e.g., 新井ほか, 2008, 清水ほか, 2007;Turner, Nigg, & Heller-Paz, 1986).元吉(2019)は,個人の防災力を測定する一つの指標として,防災対策の実施度ではなく,災害発生時にさまざまな困難がある中で,必要な知識やスキルを発揮しながら自分がどの程度適切な行動を実行できるか,そして災害を経て生き抜くことができるかという災害自己効力感を提案し,その妥当性を検証した.また島崎・尾関(2017)は,防災意識を「災害に対して日常的に,自らが被災し得る存在であることや,情報的・物的・社会的備えが必要であることを認識している度合い,また,自分や周囲の人の生命や財産,地域の文化や共同体を自ら守ろうとする程度」と定義して,新しい防災意識尺度を作成した.そこで本研究では,災害自己効力感と防災意識の地域差に注目し,各尺度の防災行動への影響についても合わせて比較して考察する.2022年2月にインターネット調査会社にモニター登録している宮城県,東京都,愛知県,大阪府,徳島県,富山県の6都府県に在住の成人に回答を求めた.各都府県500名(男性250 名,女性250 名)ずつ計2,000名で調査を実施した.回答者は,徳島県のみ484名で,残りの5都府県は500名であった.地震学的情報の影響の評価については,1年以内,10年以内,30年以内といった複数の期間ごとに,経験すると考えている最大震度の大きさについて,地震は起きない,震度4以下,震度5弱,震度5強,震度6弱,震度6強,震度7の7件法で回答を求めた.元吉(2019)の災害自己効力感尺度11項目については5 件法で,島崎・尾関(2017)の防災意識尺度20項目については6件法で回答を求めた.また家庭での防災対策の実施度(e.g., 食糧の備蓄,非常用トイレ)は12 項目について「はい」か「いいえ」で回答を求めた.想定している震度の大きさについては,顕著な地域差が見られた.1年以内の期間で震度5弱以下と回答した人数の割合は,富山県では80%以上に上るが,東京都,愛知県,大阪府,徳島県では70%程度となり,宮城県では55%程度となった.期間が長くなるとこの割合は低下し,震度5強以上の強い地震動を想定する割合が増加するが,その傾向は地域によって異なっていた.10年以内の期間とした場合,富山県では震度5弱以下が70%程度であるのに対し,愛知,大阪,徳島の3府県は30%程度と急減した.宮城県と東京都は20−25%程度とさらに低い結果となった.より期間が長い,30年,50年になると,宮城県,東京都,徳島県の3都県は震度5弱以下という低い想定震度の割合がさらに低下するが,愛知県と大阪府の低下は相対的に小さかった.災害自己効力感については,想定震度の大きさよりは地域差が小さかったが,東京都,愛知県,大阪府の3都府県は類似した傾向を示したのに対し,宮城県,富山県,徳島県の3県はそれぞれ異なる傾向が見られた.防災意識尺度は宮城県のみがその他の5都府県と異なる傾向を示した質問項目が多かった.今後,因子分析や相関分析を進め,地域による想定災害レベルの違いと地震学的ハザード情報との対比や,防災意識との関連性を明らかにする.