[S06P-08] レシーバ関数解析に基づくトルコ東部における地殻浅部の異方性構造
地殻における応力場を把握する方法のひとつとして,地震波速度異方性がある.地殻内では,最大水平圧縮軸と平行な微小クラックが発達し,これにより地震波速度異方性を有する媒質が形成されると考えられていることに起因する.本研究では,トルコ共和国東部周辺に設置された広帯域地震計による遠地地震波形からレシーバ関数(RF)を推定し,その地震波到来方向依存性の調和成分を抽出,評価する方法を用いて地殻浅部の異方性構造(速い軸の方位)を推定した.
解析には,トルコ・Kandilli地震観測所(KOERI),首相府災害緊急事態対策庁(AFAD)ならびにドイツ・ポツダム地球科学研究センター(GFZ)が設置し,公開している47地点の広帯域地震計記録を用いた.まず,USGSが公開している震源カタログから,各観測点において震央距離が30°から90°となるM≥5.8の地震を抽出し,IASP91モデルに基づく理論的なP波到着時刻の30秒前から2分間のデータをダウンロードし,S/Nの良好な記録のみを解析に用いた.RFの推定にあたっては,fc=1.5 Hzの低域通過フィルタを適用した.各観測点で得られたRFに対してHarmonic decomposition解析(HD解析.例えば,Bianchi et al., 2010)を適用し,得られた調和成分に対して主成分分析を行うことで,地殻浅部の異方性媒質の特徴を調べた.なお,当該地域において詳細な三次元地震波速度構造モデルは公開されていない一方,表面波等による様々な解析により,地殻構造に強い地域性が存在することが示されている.そのため,各観測点同一の時間ウィンドウでHD解析結果を評価すると,観測点によって異なる特徴を有する媒質を比較してしまう可能性がある.ここでは,評価の対象を地殻最上部とし,まず,各観測点において,経過時間0.1秒から4秒を対象に±0.3秒(=0.6秒)の時間ウィンドウを移動させながら調和成分の固有ベクトルの方位を求めた.この固有ベクトルの方位はあるタイミングtで大きく変化する.この変化する深さまでが近く最上部を構成する媒質であるとし,0.1秒からt秒までをその観測点の解析ウィンドウとした.
求まった速い軸の方位は,大局的にはGNSSから推定される反時計回りの回転運動(Weiss et al., 2020)に沿った北西―南東方向を示す観測点が多い.しかし,東アナトリア断層周辺では,南北または北北東-南南西に近い方向を指す観測点も存在した.当該断層がアナトリアブロックとアラビアプレートの境界であることを考慮すると,アラビアプレート北進の影響を受けている可能性がある.一方,2023年2月にM7.8及びM7.5の地震が発生したトルコ南東部では,1観測点のみであるが東西方向を示した.これが正しければ,局所的な回転の場を形成しているように見える.主成分分析で推定された固有値の大きさが異方性の強さに対応すると考えると,トルコ中部の地殻浅部の異方性は相対的に弱いものの,その方位は活断層の走向と良い一致を見せており,地形の影響を強く反映していると考えられる.
謝辞:本研究は科学技術研究費22K21372「2023年トルコ南部の地震と災害に関する総合調査」の一環として実施しました.解析には,KOERI,AFAD及びGFZが公開している観測記録を使用しました.レシーバ関数のHarmonic decomposition解析には,Jeffrey Park教授が公開しているプログラムを一部改変して用いました.
解析には,トルコ・Kandilli地震観測所(KOERI),首相府災害緊急事態対策庁(AFAD)ならびにドイツ・ポツダム地球科学研究センター(GFZ)が設置し,公開している47地点の広帯域地震計記録を用いた.まず,USGSが公開している震源カタログから,各観測点において震央距離が30°から90°となるM≥5.8の地震を抽出し,IASP91モデルに基づく理論的なP波到着時刻の30秒前から2分間のデータをダウンロードし,S/Nの良好な記録のみを解析に用いた.RFの推定にあたっては,fc=1.5 Hzの低域通過フィルタを適用した.各観測点で得られたRFに対してHarmonic decomposition解析(HD解析.例えば,Bianchi et al., 2010)を適用し,得られた調和成分に対して主成分分析を行うことで,地殻浅部の異方性媒質の特徴を調べた.なお,当該地域において詳細な三次元地震波速度構造モデルは公開されていない一方,表面波等による様々な解析により,地殻構造に強い地域性が存在することが示されている.そのため,各観測点同一の時間ウィンドウでHD解析結果を評価すると,観測点によって異なる特徴を有する媒質を比較してしまう可能性がある.ここでは,評価の対象を地殻最上部とし,まず,各観測点において,経過時間0.1秒から4秒を対象に±0.3秒(=0.6秒)の時間ウィンドウを移動させながら調和成分の固有ベクトルの方位を求めた.この固有ベクトルの方位はあるタイミングtで大きく変化する.この変化する深さまでが近く最上部を構成する媒質であるとし,0.1秒からt秒までをその観測点の解析ウィンドウとした.
求まった速い軸の方位は,大局的にはGNSSから推定される反時計回りの回転運動(Weiss et al., 2020)に沿った北西―南東方向を示す観測点が多い.しかし,東アナトリア断層周辺では,南北または北北東-南南西に近い方向を指す観測点も存在した.当該断層がアナトリアブロックとアラビアプレートの境界であることを考慮すると,アラビアプレート北進の影響を受けている可能性がある.一方,2023年2月にM7.8及びM7.5の地震が発生したトルコ南東部では,1観測点のみであるが東西方向を示した.これが正しければ,局所的な回転の場を形成しているように見える.主成分分析で推定された固有値の大きさが異方性の強さに対応すると考えると,トルコ中部の地殻浅部の異方性は相対的に弱いものの,その方位は活断層の走向と良い一致を見せており,地形の影響を強く反映していると考えられる.
謝辞:本研究は科学技術研究費22K21372「2023年トルコ南部の地震と災害に関する総合調査」の一環として実施しました.解析には,KOERI,AFAD及びGFZが公開している観測記録を使用しました.レシーバ関数のHarmonic decomposition解析には,Jeffrey Park教授が公開しているプログラムを一部改変して用いました.