日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

C会場

一般セッション » S10. 活断層・歴史地震

[S10] AM-1

2023年11月2日(木) 09:15 〜 10:30 C会場 (F202)

座長:服部 健太郎(関西大学)、小松原 琢(産業技術総合研究所 地質調査総合センター)

09:45 〜 10:00

[S10-03] 沿岸浅海域の海底活断層調査における三次元高分解能音波探査の有用性

*川崎 慎治1、原 彰男1、小澤 岳史1 (1. ㈱地球科学総合研究所)

変動帯である日本列島とその周辺海域では,地質構造や地盤物性が空間的に著しく変化することが想定され,原子力発電所の立地安全性に係る前方海域の地質調査や,HLW地層処分の概要調査,さらには,洋上風力発電における風車基礎の地盤調査などで沿岸浅海域の地質リスクを適切に評価するための海底地盤調査の重要性は年々高まっている。海底地盤調査においては,現在,二次元音波探査が主流であるが,一部,石油探鉱開発などの分野においては三次元音波探査の貢献度は高く,試掘の前に標準的に三次元探査が用いられている。本発表では,別府湾の実証実験において取得した三次元探査データを用い,沿岸浅海域における地質リスクを可視化した事例を紹介し,ジオハザードの要因となる活断層をはじめ,旧河道(チャネル),シャローガス等を三次元的に可視化できる三次元高分解能音波探査(3D-HRS)の有用性について考察する。 3D-HRSは,ショートストリーマーケーブルと高周波音源を用いて稠密に発震,受振することにより,三次元の地下構造を高分解能かつ高精度に把握することができる調査手法である。当社は,沿岸浅海域での地質構造を詳細に把握することを目的として,100m程度の軽量のショートストリーマーケーブルの開発を行い,併せて,曳航ノイズの低減,複数のRTK-GPSやdepth sensorによる曳航ストリーマの測位精度の向上,潮流があっても複数本の同時曳航が可能な隊列制御システムの改良を行ってきた。データ取得システムは,ケーブルの展開と揚収を容易にするために船尾両舷に設置したブームを用いて複数のショートストリーマーケーブルを展開する方式で300トンクラスの小型船舶に搭載される。この3D-HRSシステムは水深8-10m以上あれば深度500m程度までを対象にした調査が可能であり,海上に漁具等がなければ24時間観測により短期間で効率的に沿岸浅海域を調査できる特徴をもつ。 活断層評価における有効性を確かめるために,京都大学地球熱学研究施設との共同研究によって,2019年に別府湾南東部(6㎞*3㎞エリア,水深40〜50 m)で3D-HRSを実施した。別府湾内には,横ズレ断層系や正断層系の海底活断層が多数存在するが,断層の末端部や分岐断層の評価にも資するようにGIガン(周波数帯域25-350Hz)を使用し,稠密な発震間隔(6.25m)と受振間隔(6.25m)による高密度な空間サンプリングデータ(垂直分解能を1~2 m)を取得した (寺西ほか,2022)。三次元処理結果から得られたサイスミックキューブを基にあらゆる方向の断面だけでなく,任意の深度で水平方向に輪切りにしたスライスを描くことができる。付図に,完新統に相当する海底面から20ミリ秒(海底面下約16m)の時間スライスをsimilarityで表示している。既往のソノプローブ調査から島崎・岡村(2000)によって認定された別府湾の海底活断層(大分県2022に加筆)と比べると,今回の結果から新たな断層を明瞭に識別することができる。グリッド状の二次元調査に比べて断層面の追跡が格段に容易になるだけでなく,複数の深度スライスやアイソパックから,断層の分布と連続性,分岐形態,活動時期と変位量に資する多くの情報が得られており活断層評価の精度向上が期待される(Itoh et al., in press)。 完新世の未固結層の堆積スケールや岩相の空間変化は,最終氷期に陸化し浸食を受けたことを考えると,現世の沿岸陸域における堆積環境とほぼ変わらないと考えられる。現在,海底活断層の調査においては,グリッド状に二次元音波調査を実施する方法が主流となっているが,たとえ500m間隔で詳細に二次元調査を計画した場合でも,海底地形地質の不均質スケールの方が小さいため二次元データの解釈精度には限界が生じることが懸念される。今後,3D-HRS解析技術により,サイスミックアトリビュート(TFL解析等)による断裂系の検出,速度解析による地盤定数や工学的基盤面の推定,AVO解析による間隙流体の推定など高度な解析手法を適用できる可能性があり,活断層システムの全体像を包括的に把握する上で利活用が期待される。例えば,AVO解析でスクリーニングされるガス胚胎層は,シャローガスが断層近傍で局所的にトラップされたり,断層破砕帯そのものが流体経路になったりすることにより形成される場合があり,単なるリスクゾーンとして抽出する目的だけでなく、断層形態や断層運動と関連付けて議論を深めることができる。なお,調査の可探深度と垂直分解能はトレードオフの関係があるため,調査対象の断層サイズに合った最適な音源を選択することが重要であり,周波数帯域の異なる震源を同時併用したマルチスケール探査と3D-HRSの併用も有用である(須田ほか,2020)。