[S23P-02] The geometry of the Moho of the Philippine Sea Plate in and around the Izu collision zone in central Japan
はじめに
フィリピン海プレートはその北側の大陸プレートに対して年間3 – 4 cmの速度で北西方向に移動している(Seno et al., 1993, J. Geophys. Res.)。フィリピン海プレート北縁は、南海トラフや相模トラフから沈み込んでいるが、伊豆衝突帯では大陸プレートに衝突している。伊豆衝突帯付近は歴史的に被害地震が繰り返しているが、その中には地震を発生させるための応力の蓄積過程や断層面などが特定されていないものもある。それを明らかにし将来の地震災害リスクを評価するためには、伊豆衝突帯とその周辺における3次元的なプレート収束過程の詳細を明らかにすることが重要である。本研究ではそのことを念頭に、フィリピン海プレートのモホ面の3次元形状の推定を試みた。
フィリピン海プレートのモホ面
神奈川県とその周辺地域の地震観測点で得られた遠地地震のP波S波両方の波形からレシーバ関数を作成した。レシーバ関数の作成に用いた波形は、2007年から2017年までに、防災科学技術研究所、気象庁、東京大学地震研究所、および神奈川県温泉地学研究所によって観測された。レシーバ関数の作成には時間拡張型マルチテーパ(Shibutani et al., 2008, Bull. Seismol. Soc. Am.)を用い、Matsubara et al. (2019, InTech Open)の3次元地震波速度分布とJ-SHISの深部地盤構造を用いてレシーバ関数を深さ変換した。
深さ変換したレシーバ関数から、モホ面と解釈できる不連続面が、伊豆半島で30 – 40 km、富士山北麓で50 – 60 km、三浦半島で20 – 30 kmの深さに検出された。Ishise et al. (2021, J. Geophys. Res.)が地震波トモグラフィを用いて推定した速度モデルによると、この不連続面の形状は7.5 – 7.7 km/sのP波速度を持つ層の底面の形状とよく一致する。Kodaira et al. (2007, J. Geophys. Res.)は人工地震探査により、伊豆島弧地殻底面のP波速度を約7.6 km/sと推定しており、検出した不連続面がモホ面であると考えると、Ishise et al. (2021)の結果と整合的な解釈が可能である。
東京湾北部周辺と丹沢山地周辺ではモホ面は検出されなかったが、その領域のモホ面は7.5 – 7.7 km/sのP波速度を持つ層(Ishise et al., 2021)の底面に一致すると考え、その底面の形状で補完した。
フィリピン海プレートの地殻の厚さとプレート収束過程
本研究で推定したモホ面形状と、Hirose et al. (2008, J. Geophys. Res.)、弘瀬ほか(2008, 地震)、Nakajima et al. (2009, J. Geophys. Res.)が推定したフィリピン海プレート上面の形状に基づいて、フィリピン海プレートの地殻の厚さ分布を推定した。その結果、伊豆半島から富士山にかけての地域では35 km以上の厚さの地殻が分布し、そこから遠ざかるにつれて地殻が薄くなっていくことがわかった。つまり、伊豆衝突帯では厚い島弧地殻が衝突し、前弧の沈み込み帯からは薄い地殻が沈み込んでいる。
現在のところ、伊豆島弧が本州弧に衝突する原因として、島弧地殻が低密度であること(青池ほか, 2001, 月刊地球)や、島弧地殻上面の摩擦が大きいこと(Seno, 2008, J. Geophys. Res.)が提案されているが、いずれにしても衝突しているフィリピン海プレートの内部に滑り面の存在が必要であると考えられており、地殻変動解析からは伊豆半島の15 – 20 kmの深さに安定滑り面の存在が示唆されている(Seno, 2005, Earth Planets Space)。
本研究で得られたモホ面形状からは、伊豆半島の15 – 20 kmの深さに見出されている安定すべり面は、伊豆島弧地殻の内部に十分収まることが示唆され、そこでは剪断破壊強度が非常に小さくなる条件が満たされているとする考え方と整合的である。
謝辞
本研究では、防災科学技術研究所、気象庁、および東京大学地震研究所の地震波形データを使用しました。本研究の一部は、首都圏レジリエンスプロジェクト、東京大学地震研究所共同利用研究2022-B-05および科研費(22H05326)の助成を受けて実施しました。記して感謝いたします。
フィリピン海プレートはその北側の大陸プレートに対して年間3 – 4 cmの速度で北西方向に移動している(Seno et al., 1993, J. Geophys. Res.)。フィリピン海プレート北縁は、南海トラフや相模トラフから沈み込んでいるが、伊豆衝突帯では大陸プレートに衝突している。伊豆衝突帯付近は歴史的に被害地震が繰り返しているが、その中には地震を発生させるための応力の蓄積過程や断層面などが特定されていないものもある。それを明らかにし将来の地震災害リスクを評価するためには、伊豆衝突帯とその周辺における3次元的なプレート収束過程の詳細を明らかにすることが重要である。本研究ではそのことを念頭に、フィリピン海プレートのモホ面の3次元形状の推定を試みた。
フィリピン海プレートのモホ面
神奈川県とその周辺地域の地震観測点で得られた遠地地震のP波S波両方の波形からレシーバ関数を作成した。レシーバ関数の作成に用いた波形は、2007年から2017年までに、防災科学技術研究所、気象庁、東京大学地震研究所、および神奈川県温泉地学研究所によって観測された。レシーバ関数の作成には時間拡張型マルチテーパ(Shibutani et al., 2008, Bull. Seismol. Soc. Am.)を用い、Matsubara et al. (2019, InTech Open)の3次元地震波速度分布とJ-SHISの深部地盤構造を用いてレシーバ関数を深さ変換した。
深さ変換したレシーバ関数から、モホ面と解釈できる不連続面が、伊豆半島で30 – 40 km、富士山北麓で50 – 60 km、三浦半島で20 – 30 kmの深さに検出された。Ishise et al. (2021, J. Geophys. Res.)が地震波トモグラフィを用いて推定した速度モデルによると、この不連続面の形状は7.5 – 7.7 km/sのP波速度を持つ層の底面の形状とよく一致する。Kodaira et al. (2007, J. Geophys. Res.)は人工地震探査により、伊豆島弧地殻底面のP波速度を約7.6 km/sと推定しており、検出した不連続面がモホ面であると考えると、Ishise et al. (2021)の結果と整合的な解釈が可能である。
東京湾北部周辺と丹沢山地周辺ではモホ面は検出されなかったが、その領域のモホ面は7.5 – 7.7 km/sのP波速度を持つ層(Ishise et al., 2021)の底面に一致すると考え、その底面の形状で補完した。
フィリピン海プレートの地殻の厚さとプレート収束過程
本研究で推定したモホ面形状と、Hirose et al. (2008, J. Geophys. Res.)、弘瀬ほか(2008, 地震)、Nakajima et al. (2009, J. Geophys. Res.)が推定したフィリピン海プレート上面の形状に基づいて、フィリピン海プレートの地殻の厚さ分布を推定した。その結果、伊豆半島から富士山にかけての地域では35 km以上の厚さの地殻が分布し、そこから遠ざかるにつれて地殻が薄くなっていくことがわかった。つまり、伊豆衝突帯では厚い島弧地殻が衝突し、前弧の沈み込み帯からは薄い地殻が沈み込んでいる。
現在のところ、伊豆島弧が本州弧に衝突する原因として、島弧地殻が低密度であること(青池ほか, 2001, 月刊地球)や、島弧地殻上面の摩擦が大きいこと(Seno, 2008, J. Geophys. Res.)が提案されているが、いずれにしても衝突しているフィリピン海プレートの内部に滑り面の存在が必要であると考えられており、地殻変動解析からは伊豆半島の15 – 20 kmの深さに安定滑り面の存在が示唆されている(Seno, 2005, Earth Planets Space)。
本研究で得られたモホ面形状からは、伊豆半島の15 – 20 kmの深さに見出されている安定すべり面は、伊豆島弧地殻の内部に十分収まることが示唆され、そこでは剪断破壊強度が非常に小さくなる条件が満たされているとする考え方と整合的である。
謝辞
本研究では、防災科学技術研究所、気象庁、および東京大学地震研究所の地震波形データを使用しました。本研究の一部は、首都圏レジリエンスプロジェクト、東京大学地震研究所共同利用研究2022-B-05および科研費(22H05326)の助成を受けて実施しました。記して感謝いたします。