Japan Association for Medical Informatics

10:35 AM - 11:35 AM

[SL-2] 「生涯現役社会」の構築
- 疾患の性質変化と医療データの活用 -

江崎 禎英1,2,3 (1.経済産業省 商務サービグループ 政策統括調整官, 2.厚生労働省 医政局 統括調整官, 3.内閣官房 健康・医療戦略室 次長)

 人生100年時代と言われる今日、最期まで如何に幸せに「生ききる」かが重要なテーマであり、誰もが夫々の年齢や体力に応じて社会の一員としての役割を果たすことが出来る「生涯現役社会」を構築することが求められる。そのためには、いわゆる「生産年齢」の段階から、経営者や従業員に健康管理への取組みを促すとともに、年齢が進むにしたがって多様化する「健康需要」に対応するためのサービスを創出し、地域資源を活用しながら地域の実情にあった供給体制を整えていくことが必要である。
 また、社会保障制度の観点からは、主たる疾患の性質が変わりつつあることに適切に対応できるかが重要である。過去の主たる疾患は感染症であり、細菌やウイルスが外部から身体に侵入することで引き起こされた。しかし現在は、老化や生活習慣など身体内部の複数要因が関係する疾患が中心になっている。こうした多因子が連型する内因型疾患では、潜在疾患の早期発見による予防や進行抑制が重要であり、食事や運動管理も含めた総合的な対応が求められる。
 この際、健康・医療データの活用については、ビックデータへの過度の期待から脱却し、本人性が確保された質の高い健康・医療情報(クォリティデータ)の収集・活用により、AI(人工知能)やIoTを用いた適切な指導・介入のためのツールや仕組みを整備することが必要である。医療分野におけるIT化の意義は、単に診療・治療行為をサポートする便利なツールを提供することではなく、従来の医療の在り方を大きく転換することである。全医療機関を繋ぐ情報ネットワークにより、同時並行的に進む治療行為の相関性の把握、結果の予測も含めた治療候補の提示といった、全医療機関を頭脳とする常に進化し続ける医療システムを構築することが期待される。
 これら一連の取り組みを通じて、超高齢社会における持続可能な社会保障シシステムを実現するとともに、健康を支える新たな産業群を育成することが、時代の転換期における重要課題である。