一般社団法人 日本医療情報学会

[SL] 日本の医療情報に足りないもの

*中島 直樹1 (1. 九州大学病院 メディカルインフォメーションセンター)

 本大会のテーマは「ビッグデータ再考」である。日本のビッグデータ活用は、世界に周回遅れとも言われる。この機会に医療データ2 次利用のみならず1 次利用を含めて、足元をあらためて眺めてみたい。
1.なぜ世界に遅れたか?
・日本人の特性である几帳面で器用な性格が、旧技術を延命しがち(例:新札や新コイン導入と電子決済、FAX による地域医療連携)。
・電子カルテは紙カルテや医事会計システムのメタファに徹しすぎた。
・法制度の足枷「医師法24条2項(医療データの過分散)」「改正個人情報保護法2条3項(健康医療情報の要配慮個人情報指定)」など。
・諸外国に比した予算投入規模の違い。年44兆円の医療費を支える医療情報システムにしては財政基盤が貧弱。
2.遅れは挽回できるのか?
・複数施設での1次利用、つまり地域医療連携さえしていない医療データを2 次利用するのは無理がある。まずは1次利用、特に地域医療連携の推進から。
・医療データ2次利用は、現状の匿名(加工)化の方向のみならずスマホでの個別同意取得による「顕名」の1次・2次利用で、本人にインセンティブを与える方向も重要。
・人材不足のデータサイエンティストとデータクリエータを育成。
・個人医療情報や医療IDでは個別法の制定を望む。
・戦後作られた社会保障制度の抜本改革。
・行政には時にトップダウンの英断をお願いしたい。方針も財源も。
3.EHRとPHR
・データ2次利用は「オプション」から「標準」へ。
・医師が正確な「診断」を入力するシステム・運用を導入するべき。
・技術的標準化(HL7 FHIR、標準コードなど)に比し、目立つ臨床的標準化(各疾患別の項目セットなど)の遅れ。
・医療⇒患者の情報流通のみならず、双方向の流通を。
・健康・介護情報との連携を。
 今後は、健康医療情報の主要なユーザが健康医療プロバイダから国民(患者)へ移るであろう。それを見据えた上で、医療情報に足りないものを国民全体で議論する必要がある。