Japan Association for Medical Informatics

[2-A-4-CS1-3] 患者のための遺伝子診断を目指して〜難聴医療での実践〜

宇佐美 真一 (信州大学医学部耳鼻咽喉科)

従来、原因不明であった難聴も遺伝子解析技術の進歩により、原因遺伝子が同定され難聴のメカニズムが分子レベルで明らかになってきた。遺伝子診断により難聴患者の正確な診断が可能になり、難聴の程度の予測、進行性の有無、合併症の推測、各々に適したオーダーメイド治療や予防について有用なエビデンスが得られるようになった。我々はこの十数年間、研究の成果を臨床にフィードバックし、患者に還元することを目標にいろいろな形で新しい難聴医療を提案し実施してきた。

 難聴にはおおよそ100ほどの原因遺伝子が推測されているが、難聴という同じ表現型を呈するため、外来に受診した一人の難聴患者に対して遺伝子診断を行わなければ原因遺伝子を突き止めることはできない。我々は多くの遺伝子変異を効率的に解析できるインベーダー法を用いた難聴遺伝子診断パネルを開発、2008年から信州大学が中心となり先進医療として実施した。その実績と有効性が認められ、2012年4月の保険点数改定で先天性難聴に対する遺伝学的検査が保険診療として実施できるようになった。難聴の遺伝学的検査が公的保険で実施できるのは世界でわが国が初めてである。2015年8月からは次世代シーケンサーを用いた遺伝学的検査の臨床応用に遺伝学的検査が保険診療で可能になった。次世代シーケンサーの臨床応用に関しても世界初の臨床検査として世に出すことができた。現在全国の大学病院や拠点病院など約100の施設で年間約1000件以上の遺伝子診断が実施され、耳鼻咽喉科医の強力な診断ツールとして難聴診療に役立てられている。現在、次世代シーケンサー解析の結果を基に日本人難聴患者のデータベースが構築され、さらなる患者への還元が進められている。