一般社団法人 日本医療情報学会

[2-F-2-PS3-1] 日本におけるPhenotypingの必要性と可能性

中島 直樹 (九州大学病院 メディカル・インフォメーションセンター)

日本の電子カルテは医事会計システムから発展した。そのために医療費計算には有利な構造になっているが、患者病態の確実な記載には適さない。つまり、動的に変化する病態を表す客観情報については、直接的な検体検査結果、間接的な処方情報、信頼性に劣る傷病名を除き、構造データとしては標準的な格納をしていないのである。
そのような状況の中、AIを用いた臨床判断支援システムやPrecision Medicineに至る医療の高度な情報化が期待されている。Precision Medicineに必須な情報は個人のgenotype(遺伝子型)とPhenotype(表現型、あるいは臨床情報)であるが、Phenotypeは年齢とともに動的に移り変わる(健康者=>糖尿病者発症など)ため、継続的な取得が必要である。しかし前述のように現在の電子カルテにはPhenotypeを正確に記述/入力する仕組みに乏しい。そこで、電子カルテやレセプトのような診療業務用のDBから一定のアルゴリズムでPhenotypeを抽出する手法、Phenotypingの開発が必要である。疾患によっては、高い精度(陽性的中率、感度、特異度などで表す)を示すものもあれば低いものもあり、精度を調査することも併せて必要となる。今後、医療の情報化が進むにつれ、疾患毎にその原因であるgenotype、生活習慣、暴露環境、および結果であるphenotypeを把握して個別医療に用いる方向に進むことが予想されるが、その中核となるphenotypeの開発研究は必須である。
さらにPhenotypingの開発を急がなくてはならない理由がある。2018年度から第三者利用を含めた本格稼働が予定されているMID-NET事業(薬剤副作用を400万人の電子カルテ情報などから薬剤疫学的に抽出するシステム)では副作用の抽出のためにPhenotypingを実施しなければならないし、2013年度から活用が始まっているレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)では、レセプト情報のみからのPhenotypingで病態を抽出し、有病率などを把握する必要がある。
次世代の電子カルテやEHRにはphenotypeの効率的かつ正確な入力機能が必須であるが、今日のPhenotypingの開発はそのための礎にもなるであろう。