[2-I-1-JS1-4] 基準範囲の標準化・調和化に関する世界の動向
2000年以降、主要な臨床検査は国際的にほぼ標準化されたが、基準範囲(RI)は病院毎に異なっている。その原因として(1)健常対象者(基準個体)を、潜在病態を見抜いて明確に定義するのは困難、(2)RI(基準個体の測定値分布の中央95%区間)の決定は、統計手法の選択に依存する、(3)十分数の基準個体を集めないと設定値に再現性がない、などの事情がある。2005年国際臨床化学連合(IFCC)にRI判断値委員会(C-RIDL)が設置され、その任務として(1)RIの概念と設定の方法論のレビュー、(2) RIに影響を与える性差、年齢差、人種差の分析、(3)RI設定値の標準化対応、(4)共同設定したRIを他施設に移植する方法論の確立等が掲げられた。C-RIDLはその活動の一つとして、2009年に主要検査72項目を対象としたアジア地域大規模RI設定調査の実施を支援した。その基本方針は、健常者の2次除外基準の明確化、標準化対応検査ではその正確度を確認しRIの共用化を図ることであった。その結果、炎症マーカやHDL-C, PTH等、約1/3の検査で地域・人種差を認めたが、他の検査ではRIの共用は可能と判断された。この成績から、検査値の地域・人種差を世界規模で調べる必要性と、RI設定の統計手法の再評価の必要性が明らかとなった。そこでC-RIDLは2011年、RI設定調査を多施設共同で、標準化・調和化した形で実施するためのプロトコールを策定した。その基本戦略は、正確に値付けされたパネル血清(80試料)を用意し、それを世界共通に測定することで標準化を達成、かつ標準化未対応検査に対しても回帰直線で施設間差を調整し、参加国の値を揃える(調和化する)ことで基準値の国間比較を行うことであった。2012年に始まった世界規模RI調査には、5大陸から19ヶ国の参加、すでに15ヶ国が調査を終え、その中間分析結果が出ている。特に基準値の人種差・地域差の実態、統計処理法の違いによるRIの大きな差違、性・年齢・BMIによる検査値変動の人種間差などが明らかとなっており、その概要を紹介する。