Japan Association for Medical Informatics

[2-I-2-PS4-3] 日本を一つのネットで結ぶ地域医療連携ネットワーク構築の挑戦 ~医療と対話できる住民づくりへ~

安部 博 (一般社団法人未来かなえ機構)

「未来かなえネット」(一般社団法人未来かなえ機構)は、岩手県気仙圏域の2市1町(大船渡市、陸前高田市、住田町)を対象地域としてスタートした地域医療介護連携システムである。震災後、内閣府・環境未来都市事業の選定を受け「医療・介護・保健・福祉の連携」を目指し、地域包括ケアのインフラとして2016年4月から運用を開始した。
しかし、どんな優れたシステムも、登録データが無ければ価値がない。加療・通院の患者はもとより、全ての住民に登録を呼びかけているが、それを「住民参加」と呼ぶ。当地域は震災前から深刻な医療・介護資源不足にあり、震災はそれに拍車をかけた。この状況を解消するカギは、支える人(医療介護職)を住民が支える環境づくりにある。言い換えれば医療と対話できる住民を育成することが必須といえる。その事業を「地域介護力」と呼び、機構のもうひとつの柱としてプログラムの開発と実践を試行している。こうした地域づくりにおいてICTはあくまで道具にすぎない。
7月末時点の登録者数は9千人であり、地域人口6.1万人に対して15%の参加である。なかでも高齢者加入率は3割に達する地域が多く期待感が伺える。ユーザーは、2つの県立病院、診療所、薬局、介護事業所、地域包括支援センターなど、約50の組織(7月現在)である。こうした背景には広報、運営費用負担等2市1町の全面的な協力姿勢がある。
運用開始後、隣接する市町からも注目を浴び、医療圏域相互の患者流動が確認されたことと相俟って、今年度からは他圏域にも拡張(試行)する。全国各地域で地域医療介護連携システムが構築されているが、その多くでシステムの効率的・継続的運用が求められている。こうした事業の究極のゴールは、住民一人ひとりの健康医療データを、本人がきちんと把握管理する環境整備と医療等専門職・住民相互の意識変革であろう。
ゆえに、かかるシステムはひとり医療等専門職のものであってはならない。非専門層も含めた参画と利活用こそが急務と思われる。