Japan Association for Medical Informatics

[3-G-1-PS9-6] 準同型暗号を用いた医療データの統計解析

佐久間 淳1,2 (1.筑波大学, 2.理化学研究所)

完全準同型暗号とは入力情報を暗号化したまま任意の関数の計算を可能にする性質を持つ暗号系の総称である。完全準同型暗号を実現する具体的な方式は長らく発見されなかったが、Gentryによって2009年に初めて実現可能な方式が提案された。提案当初の完全準同型性暗号は暗号文や鍵が極めて多くの記憶容量を必要とする上に、実用的な時間で計算可能な乗算の回数が限られるなど、多くの制約があったが、その後の研究開発によって、完全準同型性暗号が必要とする計算時間と記憶容量は飛躍的に改善されつつある。完全準同型暗号を活用することで、プライバシを損なうことなく、組織の壁を超えた統計解析が実現されつつある。
完全準同型性暗号の応用の一つとして、医療情報や遺伝情報を用いた統計解析があげられる。昨今成立した次世代医療基盤法は、各医療機関に散在している医療データを代理機関に収集し、それを個人毎にリンケージし、それぞれの情報が特定の個人と結びつかないように匿名加工した上で研究機関や医療機関に提供し、もって医療の高度化や医学研究の発展につなげることを主旨とする。次世代医療基盤法に基づく医療情報利活用の仕組みは極めて有用な医療データを産み出しうるが、代理機関には識別情報が付与された大量の医療データが集積されることから、極めて高いレベルのセキュリティが要求される。講演では準同型暗号を用いた統計解析を紹介するとともに、代理機関における高いレベルのセキュリティを確保する手段としての準同型暗号の利用可能性について議論する。